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「暗号資産 『リブラ』の衝撃」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

アメリカを代表する巨大IT企業の一つ「フェイスブック」が、来年から「リブラ」と呼ばれる独自の暗号資産・いわゆる仮想通貨を発行すると発表し、注目を集めています。これに対し各国からは懸念の声が相次いでおり、フランスで開かれているG7・先進7か国の会合でも主要なテーマの一つとして議論が行われています。

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暗号資産に参入するフェイスブックの構想とは何か。なぜ世界各国に衝撃を与えているのか。そして今後の課題は何かを、今夜は考えます。

【フェイスブックの新計画】
フェイスブックは、インターネットを通じて昔の同級生を見つけたり、知り合い同士をつなげたりするしくみが売りの、世界最大のソーシャルネットワーキングサービスです。利用者は各国あわせて20億人以上。ただ最近はライバル企業との競争により、本業のビジネスモデルに陰りがみえるという指摘も出ています。

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こうした中、先月中旬に発表されたのが「リブラ」という、独自の暗号資産を作る計画でした。ホワイトペーパーと呼ばれる計画書によると、目的は、国境を越え世界共通で使えるデジタル上の「グローバル通貨」を作ること。また銀行口座を持たない人でも、スマートフォンがあれば海外におカネを送ったり、ネット上の買い物ができたりする金融インフラを提供すること。だとしています。途上国を中心に「既存の金融システムから取り残された人々のためにも、新しいサービスを提供する」そんな社会的意義も強調しています。友達にメールを送るのと同じ気軽さで、瞬時に、送金できる。出稼ぎ労働者が高い手数料をとられることなく、母国におカネを送り、途上国に住む家族もスマホさえあれば簡単にそれを受け取ることができる。そのための新しい形のおカネだというのです。

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そこでフェイスブックは子会社を作り、27の企業・団体とともに「リブラ協会」をスイス・ジュネーブに設立。新しい暗号資産の運営は協会が担い、リブラの運用開始後は、そのメンバーの一つとして参加するとしています。

【各国からは慎重な声も】
しかし計画に対し、各国からは反発や心配する声が相次いでいます。

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お膝元のアメリカでは、トランプ大統領が「暗号資産は好きではない。フェイスブックが銀行になりたければ、規制の対象とすべきだ」とツイート。「リブラの開発の一時中断を求める」という強硬な意見が出ていた議会では16日、フェイスブックの幹部が上院に呼ばれ、2時間以上にわたる公聴会で厳しい意見を突き付けられました。
また、先進7か国でつくるG7の議長国フランスも「リブラが各国の通貨にかわる事態が起こってはならない」とし、今夜から開かれている財務相・中央銀行総裁会議でも議論が行われます。さらにはIMF・国際通貨基金も計画に警鐘を鳴らす報告書を今週、公表。一民間企業の計画段階に過ぎない構想に、波紋が、広がっています。

【リブラ計画 注目される理由】
では、この計画、なぜ、ここまで注目されているのでしょうか?

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一つ目の理由は圧倒的なスケール感です。フェイスブックを使う20億人が自分のアカウントを使ってリブラを使うようになれば、超・巨大金融サービスが誕生する可能性があります。日本のメガバンク一行の利用者が数千万人、暗号資産の中では知名度が高いビットコインの利用者が世界で4千万人程度といわれるのにくらべ、桁違いの大きさです。

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二つ目は提携するパートナーの豪華さです。リブラ協会のメンバーにはVISAやマスターカード、自動車相乗りサービスのUBERや、オンライン宿泊予約サイトのブッキングドットコムが名を連ね、今後は加盟社を100社にまで増やすとしています。日本の大企業が加わる可能性もあります。これまでの暗号資産が一部の店でしか使えなかったのに対し、例えば、VISA加盟店であればどこでも使えるようになる。あるいは、UBERを使ってタクシーの運転手をしてリブラを稼ぎ、そのリブラで、ブッキングドットコムを通じホテル代の支払いをネットで済ませたり、マスターカードで買い物したりする。こうしたことが実現すれば、リブラだけで生活できる「リブラ経済圏」が、瞬く間に誕生するのでは?との声もあがっています。

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そして、最大の特徴はリブラを複数の国の通貨と連動させた、裏付けのある暗号資産にしようという点ではないでしょうか。「リブラ協会」にはリブラの発行量と同じ価値の通貨や国債を積み立てておき、リブラとドルなどを一定の比率で交換できるようにするとしています。また、裏付け資産には変動の少ない通貨をいくつか選び、それらの通貨と連動させることで、価格の変動を抑えるといいます。裏付け資産がないビットコインなどの値動きがドルや日本円などとの動きと関係なく、乱高下をみせているのとは違う。投機的な金融商品というより、電子マネーに近い使い方を目指している、ともいわれています。

【リブラ計画に対する懸念】
では、リブラ計画には具体的にどのような心配があるのでしょうか。アメリカ議会で開かれたばかりの、公聴会での議論も踏まえ、みていきたいと思います。

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まずは、信頼性の問題です。公聴会では、フェイスブックが数千万人分のデータを流出させる事件を起こしたことを指摘する議員が相次ぎました。大量の個人情報を集めるフェイスブックが、カネの動きまで逐一把握するようになればどうなるか、心配する声が絶えません。フェイスブックはリブラ専用の子会社を作り、フェイスブックが勝手にリブラ関連の情報を使うことはない、としていますが、懸念を払しょくするには至っていません。また、最近、テザーという別の暗号資産が、ドルの裏付けを前提としていたはずなのに、実は流通量の4分の3しかドルの積み立てがないと伝えられたケースも、多くの人の疑念を高めています。リブラ協会の運営がなんらかの形でうまくいかなくなった場合、誰が責任をとるのか?民間企業がどこまで利用者を守れるかが問われることになります。

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次に、送金システムが犯罪行為に使われる、マネーロンダリングの可能性です。金融当局者が特に注目しているのは、計画の中に、仮名で複数の口座が作れると読み取れるくだりがある点です。海外送金の基本条件として「本人確認」がありますが、匿名で口座を作れるならば、送金システムが犯罪に利用されるリスクはないのか?各国が協力して作り上げてきた規制の網を潜り抜けることにならないのか?各国が協調し、適切な規制を国際的に決められるかが焦点です。

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そしてとりわけ注目されているのが、各国の中央銀行の金融政策に及ぼす影響です。国はそれぞれの通貨を発行し、その流通量を調節することで景気を引き締めたり、下支えしたりしています。しかしリブラが国の法定通貨と置き換わっていけば、こうした制御が効かなくなるのではないか?アメリカからすれば、途上国でも広く使われる通貨がドルからリブラにかわり、ドル基軸通貨体制が揺らぐのではないか?そして新興国などで金融危機が起きそうになったとき、国民がスマホでこぞって自分の国の通貨を売り、リブラを買い求めれば、通貨の急落や金融機関の倒産を加速させるのではないか。こうした疑問や懸念があるとみられます。なにより注目すべきは、リブラを発行できるのがリブラ協会だけだという点です。これまでは各国の中央銀行のみが得てきた通貨発行権を、リブラ協会が得ることで、中央銀行の力が及ばない経済圏を作り出す。将来的には、中央銀行の役割や存在を脅かすことすら考えられる、その潜在的な可能性に、各国の金融当局も警戒感を強めています。

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「リブラ」は、安くて安心な送金手段を必要とする人々の救世主なのか?
それとも、一IT企業が世界的な支配を強めるだけのための野望に過ぎないのか?
賛否両論ある中、共通して聞かれるのは、理解が不十分なまま、計画どおり来年から、リブラを発行するのは難しそうだ、という声です。フェイスブックが提起したアイディアの革新的な要素は活かしつつ、消費者や金融当局を納得させるしくみを作れるか、問われることになりそうです。

(櫻井 玲子 解説委員)

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