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「参院選の争点 ~ 老後不安と年金問題」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

参議院選挙で大きな争点となっている「老後不安と年金問題」を考えます。

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この問題、選挙の直前になって、急遽、浮上してきました。
言うまでもなく、きっかけは、金融庁の審議会がまとめた報告書です。
老後は年金だけでは足りない、2000万円の資産がないと赤字になる、
というような内容だったんですが、
それに対して、年金だけではタメなのか?
100年安心ではなかったのか?
では、どうしろというのか?
様々な不安や疑問の声があがって、一気に選挙の争点となりました。

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たとえば、NHKの世論調査を見てみても、
今回の選挙で投票先を選ぶのに、
年金問題を「考慮する」と答えた人が7割近くにのぼっています。
関心の高さを伺わせています。

この年金に対する不安や、疑問に
各党は、今回の選挙でどうこたえようとしているんでしょうか?
そこを見てみたいと思います。

( 年金制度の課題 )
で、その前に、そもそも、今の年金制度、何が問題なのか?
どういう課題をかかえているのか?
整理したいと思います。

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まず、今の年金制度、基本的な仕組みは、このイメージ図につきます。
公的年金というのは、基本的に、この左側の現役世代が払う保険料が
そのまま、今の高齢者に年金として配られる、という単純な仕組みです。

かつては、まず、年金をいくら払うのか、いくら年金を増やすか?
先に年金の額を決めて、それに必要なだけ保険料を集めるというやり方でした。
いわば「年金額重視」のやり方だったわけです。

しかし、これだと、年金が増えるたびに、保険料もドンドン増えて、
これでは、若い人たちの保険料負担が重すぎる!
このままでは年金制度を支えられなくなる!
という批判が強まりました。

そこで、2004年に法律を改正して
それまでとは、まったく違う方式に変更しました。
どういうことかというと、これまでとは逆に、
まず、いくら保険料を払ってもらうのか?その上限を決める。
そしてその範囲内で集まったお金で年金を配る、という方式に変更しました。

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つまり、「年金額重視」から
いわば「負担抑制 重視」というあり方に変わりました。
大転換です。

これによって、今後どうなるかというと、
人口減少で保険料を払う若い人は次第に減っていきます。
そうなると、この保険料の総額も次第に小さくなります。
これに合わせて、右側の年金の方も、それだけ小さくする。
つまり、一人ひとりが受け取る年金の水準を少しずつ引き下げていって、
ザックリ言って20年ぐらいかけて
実質的に2割ぐらい目減りさせる、という仕組みにかえました。

そして、このように全体状況に合わせて年金の水準を徐々に引き下げていくことを
「マクロ経済スライド」と名付けたわけです。

ですから、このマクロ経済スライドを導入することで年金制度は安定しました。
これが、100年安心と言われる背景になっています。
しかし、これは、年金の水準を徐々に下げることで
保険料負担とバランスをとって安定させているわけですから、
今後は、その年金の給付水準をどう上げるか?
充実させるか、という課題が、残ることになった。
これが、今の年金制度の大きな課題です。

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制度の安定と、年金の給付の充実。
この二つが、ジレンマのような関係になっているわけです。
では、こうした課題に、各政党は、どう向き合おうとしているのか、
見てみたいと思います。

( 政策比較 )

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まず、
▼自民党は、
人生100年型年金を目指す、としています。
そのために、年をとって働きながら年金をもらう場合、
収入が多いと年金がカットされてしまう、
在職老齢年金、いわゆる“在老”を、廃止・縮小するとしています。

▼公明党は、
年金が少ない、低年金の人に最大・月5000円を支給する制度について
さらなる拡充を検討するとしています。そして、在老も見直します。

▼立憲民主党は、
年金の最低保障機能を強化する、としています。
そして安心して暮らせるよう、
医療・介護・障害・保育のサービスを受ける場合、
自己負担額の合計について、
世帯ごとに上限を設ける「総合合算制度」を導入するとしています。

▼国民民主党は、
暮らせる年金を実現するとして、
低所得の年金生活者に、最低でも、月5000円を給付する、としています。
 また、医療・介護・障害福祉などにかかる自己負担に上限を設ける
総合合算制度を創設するとしています。

▼共産党は、
マクロ経済スライドを廃止して、減らない年金を実現する、としています。
 さらに、低年金の人に、月5000円を給付する、としています。

▼日本維新の会は、
今の年金制度を抜本的に改めて、
自分が払った保険料を、自分が老後になって受け取る、
積み立て方式に移行する、としています。
また、働いても、年金が減らない制度にしています。

▼社民党は、
基礎年金に対するマクロ経済スライドを中止する、としています。
基礎年金で暮らしている人の場合は、
マクロ経済スライドによって年金が目減りすることの影響が大きいためで、
加えて、最低保障年金も導入するとしています。

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このように、各政党の政策をみますと、
マクロ経済スライドで、今の年金水準を抑制して、
将来の世代の年金財源を確保して、制度を安定させようとする立場と、
そうではなく、マクロ経済スライドを見直して、
今、低年金に苦しんでいる人たちのために、
もっと給付を厚くすべだ、という立場とで、一つの対立軸があります。

また、低年金の人のために年金とは別に、一定のお金を上乗せする案や
暮らし全体を支えるため、
医療や介護など、年金以外の分野の支援策とセットに考える案もあります。

( 高齢者の貧困問題 )

実は先日、ある、気がかりなデータが発表されました。
自営業者や、非正規の人たちなどが入っている国民年金で、
2018年度、決められた保険料が払えず、
保険料の免除や猶予を受けた人が、
加入者全体の42%に達していることがわかりました。
前年度より1ポイント悪化しています。

免除や猶予は、保険料の支払いが難しい場合の特例で
保険料を減免してもらったり、支払いを先延ばししてもらえますが、
満額でもひと月6万5000円程度の年金に届かない、
低年金の人がこれからもっと増えるおそれがあることを示唆しています。

貧困や格差の問題が深刻さを増す中、
年金制度は、どこまで、暮らしを支えることができるのか?

老後の安心につながるより大きな議論をしてほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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