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「米中対立のなかのG20~問われる議長国日本の手腕」(時論公論)

神子田 章博  解説委員
増田 剛  解説委員

(神子田)
先進国と新興国の20の国と地域の首脳が一堂に会するG20サミットがあすからここ大阪で開かれます。アメリカと中国が激しい経済摩擦を抱える中で、G20各国は、どのような協調体制を打ち出せるか。政治・外交が専門の増田解説委員とともに、議長国日本の課題について考えます。

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まず会議の主要なテーマとなる世界経済。米中貿易摩擦の影響で各国の貿易が縮小しています。今後アメリカが中国に対し一段の関税引き上げを実施すれば、さらに大幅な減速が懸念されます。このため第一のポイントは、アメリカの保護主義的な動きに歯止めをかけられるかどうかです。

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G20サミットの成果をまとめる声明には、以前は、「保護主義と戦う」という主旨の文言が盛り込まれていました。しかし、去年アルゼンチンで開かれたG20サミットでは、アメリカの強い反対によってなくなっていました。今回議長国を務める日本としては、同じ表現は使えないとしても違う言葉で同じ意味をもつ強力なメッセージを発信できないかと考えています。

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さらに重要なのが、自由貿易を支えるWTO・世界貿易機関の改革にむけた議論です。米中摩擦のもともとの背景には、中国が政府の補助金や知的財産権をめぐって国際ルールに違反しており、これにWTOがきちんと対応できていないというアメリカの強い不満がありました。このため、日本は、今回の会議を通じて、補助金をめぐるルールの強化や、貿易をめぐる国同士の争いを解決する紛争処理機能の改善にむけた動きを進めたいとしています。中国を完全な形で国際秩序にとりこむと同時に、一方的な制裁に走ろうとするアメリカを、国際ルールの枠組みの中につなぎとめる狙いがあります

増田さん、自由貿易体制を守る議論にむけては、中国の理解も必要ですが、安倍総理大臣きょうはさっそく中国の習近平国家主席と会談しましたね?

(増田)
はい。日中首脳会談とその後の夕食会は、午後10時前に終わりました。米中摩擦が激しさを増す中で、安倍総理は、両国の仲介役とまでは言わないものの、対立が少しでも和らぐよう環境を整えるという姿勢で、会談に臨みました。日中両国は、自由貿易の重要性では一致しています。そうした認識をもとに、安倍総理は習主席に対し、知的財産権の保護の強化とWTO改革の進展にむけた働きかけを行いました。また尖閣諸島をめぐって一時極度に悪化していた二国間関係は、基本的に改善の流れにあります。
この流れをふまえ、安倍総理は、今夜の会談で、習主席に対し、来年春、桜の咲くころに国賓として日本を訪問するよう改めて招請し、習主席も「良いアイデアだ」と前向きに検討する考えを示しました。

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去年5月に李克強首相が来日して以降、日中首脳の相互訪問は、続いています。去年10月には、安倍総理が中国を訪れ、まさに今、G20大阪サミットで、習主席が日本に来ています。今年後半には、中国で日中韓首脳会議が開催される予定で、日程が固まれば、安倍総理は訪中することになるでしょう。その上で、来年春に、習主席の国賓としての再来日が入れば、首脳間の相互訪問はいわば完成し、日中関係改善の流れは固まるというのが、日本側の思惑です。

(神子田)
中国との関係改善は、今回の会議にとってもプラスに働く面が期待されますが、その一方で日本はアメリカの同盟国でもあります。いわば板挟みのような状況となるなかで、米中両国の溝をどう埋めようとしているのか。
今月上旬に福岡で開かれたG20の財務相・中央銀行総裁会議の進め方に、その戦術の一端が見て取れます。

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この会議で日本は、ある国が別の国に対して、どれだけの資金を貸しているか、あるいは借りているのかなど、貸し手と借り手の双方が債務の透明性を向上させることで合意しました。これは、中国が一帯一路戦略を通じて、アジアやアフリカの新興国で、インフラ建設のための巨額の融資を行い、相手国が返済できなくなると、その施設の運営権を抑えるケースが相次いだことを念頭においたものです。

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つまり、日本としては、アメリカの保護主義にくぎを刺す一方、アメリカが懸念を示す中国の勢力拡張の動きをけん制することで、双方の間でバランスをとりながらG20全体の議論を進めていこうとしているようです。
増田さん、世界経済のリスク要因としては、米中間の摩擦に加えてイランをめぐる問題が深刻化していますね。

(増田)
はい。今回のG20には、アメリカ、サウジアラビアをはじめ、欧州諸国やロシア、中国と、イラン問題の関係国が集まっています。経済問題を除けば、アメリカとイランの対立で緊迫する中東情勢は、最大の焦点だと言って良いでしょう。

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安倍総理は今月中旬、日本の首相として41年ぶりにイランを訪れ、最高指導者のハメネイ師と会談しました。安倍総理は、トランプ大統領と親密な関係で、日本は、イランと伝統的な友好関係にあります。両国とパイプをもつ安倍総理は、橋渡し役を務めようとしたのです。ただ、これは、簡単ではありませんでした。ハメネイ師は、安倍総理との会談の直後、「トランプ大統領とは、いかなるやり取りも行う価値はない」として、アメリカとの対話を拒否すると表明。直後にトランプ大統領も「時期尚早だ」とツイッターに書き込み、安倍総理は、はしごを外された形になりました。しかも、安倍総理とハメネイ師が会談した13日、日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受ける事件が発生。20日には、アメリカ軍の無人偵察機をイランの革命防衛隊が撃墜しました。これに対し、トランプ大統領は、24日、ハメネイ師にアメリカ国内の資産凍結などの制裁を科すと明らかにしました。

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両国の対立は、軍事衝突の一歩手前、一触即発の危険な状況です。偶発的な衝突が大規模な紛争に発展することへの懸念が高まるなか、関係各国の首脳は、この機会に、緊張緩和に向けた方策を話し合うべきですし、アメリカとイラン、双方にパイプを持つ日本が、その役割を果たせるかが注目されています。
あす、安倍総理は、トランプ大統領との日米首脳会談に臨みますが、「決して戦争は望まない」という国際社会の一致した意思を背景に、その親密な関係を生かして、軍事衝突につながりかねない言動は控えるよう自制を促すべきでしょう。

(神子田)
そのトランプ大統領は、あさって中国の習主席とここ大阪で会談する予定です。増田さん、両国の間で安倍総理大臣はどのような役回りを果たそうとしているのでしょうか?

(増田)
なかなか難しいところですね。

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米中の貿易摩擦が長引けば、日本経済への影響は避けられませんし、北朝鮮の非核化や拉致問題を前進させるためにも、米中両国の協力は欠かせません。
安倍総理としては、改善が進む日中関係やトランプ大統領との親密な関係を生かし、なんとか米中の接点を見出したいというところでしょう。
安倍総理は今回のG20で、主要国の首脳と相次いで会談し、参議院選挙を前に、外交上の成果を示したい考えです。ただ、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領との関係は一筋縄ではいきませんし、ロシアのプーチン大統領との平和条約交渉も、今回は、大きな進展は見込めそうにありません。
首脳同士の個人的な信頼関係に支えられる安倍外交。今回のG20を通して、その真価が問われます。

(神子田)
G20サミットはリーマンショックへの対応をきっかけに始まりましたが、私は、今回の会議はそれ以来の重要な会議になると考えています。米中の対立が続き、両国の経済が部分的にでも切り離されることになれば、目先の経済が打撃を受けるだけでなく、これまで世界経済の繁栄を築いてきた土台そのものがゆらぎかねない。そうした岐路にたっていると思うからです。その中で日本はG20という舞台を利用して、アメリカと中国のつなぎ役をはたし、各国の協調体制を守っていけるのか。重い役割を担うことになります。

(神子田 章博 解説委員 / 増田 剛 解説委員)

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