NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「通常国会閉会 国会の責任果たせたか」(時論公論)

権藤 敏範  解説委員

通常国会が、きょう(26日)、閉会しました。
この国会は、4月に統一地方選挙、5月に皇位継承をはさみ、来月には、参議院選挙も控えていることから、政府・与党が安全運転に徹したのに対し、野党側も攻めあぐねて、結果的に、盛り上がりに欠けたまま幕を閉じたという印象が拭えません。
一方で、与野党ともに、解散風に翻弄された国会だったとも言えます。
この国会を振り返り、与野党がどのような論戦を繰り広げ、国会としての責任は果たせたのか、考えます。

j190626_01.jpg

【今国会の特徴】
この国会の会期中、4月末には、上皇さまが退位されて平成が終わり、翌5月1日には、天皇陛下が即位されて、新しい令和の時代を迎えました。
政治日程では、4月に統一地方選挙が行われ、来月には参議院選挙が控えています。2つの選挙が重なる年は与党が苦戦してきたこともあり、政府は、波静かに乗り切ろうと、提出法案を57本と、過去2番目に少ない数に抑えました。与野党の主張が激しく対立する法案もなく、最後に残った重要法案の1つ、児童虐待の防止策を強化するための法律が全会一致で成立したのも、国会が閉じる1週間も前のことでした。関係者が、「会期終盤に、これだけ余裕のある国会も珍しい」と漏らしたほどです。

j190626_02.jpg

【与野党の議論は】
では、この国会、肝心の充実した議論は行われたのでしょうか。
それを考えるために、衆参の予算委員会と憲法審査会の審議状況を振り返ります。
まずは、予算委員会です。
今年度の予算が3月下旬に成立した後は、野党側が、参議院規則に基づいて開会を要求しましたが、与党側は応じず、実質的な審議は行われませんでした。結局、開会日数は、衆参であわせて32日間と、過去10年で最も少なくなりました。野党からは、国民が注目する集中審議で、閣僚らが答弁に窮したり、失言したりすれば、参議院選挙に影響するという懸念が、政府・与党内にあったのではないかという指摘が出ています。
一方、憲法審査会はどうでしょうか。
こちらは、与党側が、積み残しになっている国民投票法の改正案を成立させるため、審査会の開会を何度も求めましたが、立憲民主党などは応じようとせず、結局、実質的な審議が行われたのは、わずか1日だけでした。これは、野党側が、自民党ペースで改憲論議が進まないように警戒したためということもあるでしょうが、そもそも野党各党の憲法へのスタンスが違いますので、一致して対応することが難しいという事情もあるのでしょう。
このように見てみますと、議論の停滞を招いた責任は、中身を深めることより、党の都合を優先させた与野党双方の姿勢にあるように思えます。

j190626_03.jpg

【前半国会の焦点】
そうした中、国会は、国民が本当に知りたい事に答えたと言えるのでしょうか。
たとえば、前半国会で、最大の焦点となったのが、厚生労働省の統計をめぐる問題です。「毎月勤労統計調査」が、長年にわたり不正な手法で行われ、推計で、のべ2000万人の雇用保険などが、本来より少なく支給されていました。国会論戦では、数字や専門的な用語が飛び交い、厚生労働大臣の責任問題なども絡んで、論点は広がりましたが、結局、誰が不正をはじめ、なぜ、長年にわたって放置されてきたのか肝心な事はいまだに分かっていません。

j190626_05.jpg

【背景】
では、国会論戦が深まらなかった背景には何があったのでしょうか。
後半国会で吹き荒れた解散風により、与野党の国会議員が浮き足立ったことも、理由の1つだと思います。
ことし10月の消費増税後は景気が減速するという懸念から、当初から、衆議院の解散のタイミングは限られると見られていました。こうした中、5月に、菅官房長官が、内閣不信任決議案が、「解散の大義になる」と明言し、その後、安倍総理が、「風というのは気まぐれで、誰かがコントロールできるものではない」と解散風に触れた事で、その憶測が強まりました。

j190626_06.jpg

【解散風の影響】
そうした解散風は、きのう否決された、内閣不信任決議案にも影響を及ぼしました。
内閣に退陣を迫る決議案は、本来、野党最大の切り札のはずです。しかし、野党内には、「決議案を出して解散となれば、衆議院選挙に向けた準備が間に合わない」という懸念がありました。このため、ギリギリまで、提出するか否かで方針は揺れ動きました。

また、今月19日に、1年ぶりに行われた党首討論も、解散風に翻弄されました。
党首討論では、立憲民主党の枝野代表ら野党4党首が、安倍総理に挑み、主に年金問題をテーマに、それぞれが持論を展開しました。ただ、これだけ解散が話題になっていたにも関わらず、その有無を質したのは、政権に是々非々の立場をとる、日本維新の会の片山共同代表だけでした。

本来、野党は、多数派を議会で得るため、解散を迫るべき立場です。それなのに腰が引けた状態では、迫力がないと指摘されても仕方がありません。かつての民主党や民進党などは、イギリス議会の「影の内閣」にならい、時の政権に対じする形で、いわゆる「次の内閣」のメンバーを揃え、有権者に示してきました。野党には、今一度、政権交代が可能な姿を具体的に示す事も必要ではないでしょうか。

j190626_09.jpg

【解散見送りの理由】
一方、安倍総理が、解散を見送った理由についても考えてみたいと思います。
そもそも残り任期がまだ2年余りあり、今回、与党で3分の2の議席を占める衆議院をわざわざ解散して議席を減らすリスクを負う必要はないとの慎重論が自民党内にもありました。
与党の公明党も、一貫して同日選挙に消極的でした。
これに加えて、G20サミットが、あさって(28日)から大阪で、開かれることも大きいと思います。サミット前に解散すれば、直ちに全国で選挙戦が始まるので、サミットどころではなくなります。落ち着いた環境で、各国の首脳を迎える事が出来ずに、開催国としての責任を果たせなくなるという懸念があったのでしょう。

j190626_11.jpg

【政治の安定とは】
安倍総理は、きょうの記者会見で、「最も重要なのは政治の安定だ」と繰り返しました。
政府の元高官が、「安全運転にばかり腐心するだけあって、目の前の問題処理は非常にうまい」と話すように、確かに、この国会も、政府・与党の思惑通りに進められたと言えるでしょう。
一方で、沖縄の辺野古沖の土砂投入や、ずさんな調査が明らかになった、「イージス・アショア」の配備を進めようとする政府の姿勢に対し、「結論ありき」との強い批判が出ているのも事実です。安定政権ゆえの傲慢さはないのか、政府は、そうした声にも真摯に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

【あるべき国会は】
老後の生活費が2000万円不足するとした金融庁の審議会の報告書をめぐる問題では、報告書の内容そのものよりも、麻生副総理兼金融担当大臣が、受け取りを拒否したことに批判が集まりました。
安倍総理が、他の主要国の首脳と比べても、多くの時間を国会審議に割いているのは間違いありません。ただ、政府にとって不都合な真実も丁寧に説明して理解を得るという姿勢が欠けているという指摘が強くあるのも事実です。
こうした政府の姿勢を許しているのは、国会です。安倍1強政治のもとで、今の国会は、行政の監視機能が低下し、形骸化していると指摘されることも珍しくありません。例えば、予算委員会や憲法審査会で熟議を重ねる。党首討論は、与野党で合意した通り、毎月開催する。
こうした真剣に議論に取り組む姿勢を示すことが、ひいては、政治に緊張感を取り戻すことにつながるのではないでしょうか。

j190626_12.jpg

この国会での与野党の取り組みを国民がどう判断するのか、来月の参議院選挙で、厳しく問われることになると思います。

(権藤 敏範 解説委員)

キーワード

関連記事