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「トランプ再選への道 2020年アメリカ大統領選挙」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

来年のアメリカ大統領選挙の開幕を告げる号砲が早くも鳴りました。トランプ大統領は再選を目指して立候補を正式に表明。対する民主党も来週から候補者どうしによるテレビ討論会に突入します。これから1年半に及ぶ長丁場をトランプ大統領はどのように戦っていくでしょうか?現在の情勢をもとに今後の選挙戦を展望します。

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ポイントは3つあります。

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▼まず「現職有利は本当か」アメリカの選挙は大統領選挙に限らず現職候補に有利な傾向があります。この傾向はトランプ大統領にどの程度当てはまるでしょうか。
▼次に「民主党候補は誰に」政権奪還をめざす挑戦者選びの行方を考えます。
▼そして「有権者の選択は」アメリカの有権者は何を一票に託すでしょうか。

トランプ大統領が再選に挑む出発点に選んだのは“激戦州の中の激戦州”フロリダでした。
「今夜皆さんの前で2期目に向けて選挙キャンペーンを開始する」
トランプ政権のもとアメリカ経済はかつてなく絶好調。「アメリカをこれからも偉大にしよう」と言うのです。

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トランプ大統領の支持率は、就任以来一貫して良くもなく悪くもなく。“トランプ劇場”の激しい展開の割にアップダウンが目立ちません。この2年半の推移を見ても、上は45%、下は35%。僅か10ポイントの狭い範囲にほぼ収まります。振幅がこれほど小さい大統領も近年珍しいのは確かです。
こうした現象は、底のしっかりしたバケツの水に喩えられます。支持率が50%の大台に近づくと頭打ちとなり、水が外にこぼれないのは、野党・民主党支持層や無党派層に、支持が一向に浸透しないからです。反対に、支持率が底割れしないのは、与党・共和党支持層から強固な支持を得ているからです。
大統領はこうした特徴を知り抜いているからこそ、公約順守を第1に支持固めに突き進み、今後も民主党の機先を制して“先行逃げきり”を目指そうとするでしょう。

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支持固めの方法にも特徴があります。副大統領候補には、保守派のペンス副大統領を再び指名する意向です。ペンス氏は保守的なキリスト教徒から絶大な支持を集めるベテラン政治家です。もともと共和党内に支持基盤を持たない“アウトサイダー”だったトランプ大統領にとって、ペンス氏は保守派の支持固めに欠かせない存在です。
国境の壁を建設すると公約した移民政策も、中東イランに対する厳しい制裁も、保守派の連邦判事の選任も、保守派の支持を取り込むための計算がうかがえます。

トランプ大統領は共和党の大統領候補の指名獲得を確実視されています。穏健派の上院議員や州知事らにも、トランプ大統領ほど動員力のある人物は見当らないからです。来年の大統領選挙と同時に行われる議会上院選挙は、改選議席が33。そのうち3分の2が共和党の現有議席です。再選をめざす共和党議員にとって、同じ投票用紙に名前がある現職大統領からの支援は是が非でも欲しいところです。そこで大統領は、みずからの意に沿う議員にはトランプ印の公認を与え、逆らう議員には予備選挙で対立候補を立てる。そんな手法で党内からの批判を抑えこむ構えです。
現職の強みを最大限に活かそうとするトランプ大統領。いまの共和党はかつての共和党ではなく、いわば“トランプ党”になりつつあるのかも知れません。

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過去の大統領選挙でも現職候補は有利な傾向がありました。早い段階から資金集めや支持固めを進めることが出来る上、メディアへの露出も多いため、選挙戦の主導権を握りやすいからです。
現に、戦後の歴代大統領12人のうち、再選に挑んで果たせなかったのは3人だけでした。なぜこの3人は落選の憂き目を見たのか?主な要因はふたつありました。ひとつは党内から造反が起きて支持が割れたこと、もうひとつは景気が悪化していたことでした。
トランプ大統領は共和党内を掌握し、大統領候補の座を脅かされる心配はなさそうです。このため、残る再選への課題は、いまの好景気を冷やさないことになるでしょう。

そんなトランプ大統領に、民主党はどのような大統領候補を選んで対抗するでしょうか?

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民主党は来週フロリダで第1回のテレビ討論会を行います。2日間にわたり画面に登場するのは、支持率や資金集めで一定の条件を満たしたご覧の20人。最年少の37歳ブティジェッジ候補のように、数か月前まで名前もほとんど知られていなかった若手が俄かに注目を浴びるなど、誰が抜け出てくるかわからない大混戦です。

今のところバイデン前副大統領が支持率ではトップを走っています。ただ、この段階では単に知名度が高いからに過ぎないという冷めた見方もあります。
いまの民主党は、去年の中間選挙を機に、プログレッシブ=進歩派と呼ばれる党内左派が発言力を増しています。このまま民主党が左旋回を強めれば、中道派の離反を招き、結果としてトランプ再選を助けることになりかねない。そうした危惧が、中道派のベテラン政治家バイデン氏への支持につながっているのかも知れません。しかし、バイデン氏はトランプ大統領より年上の76歳。大統領候補にふさわしい強さがあるか疑問の声も消えません。

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そうした疑問は、なぜ前回の民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏が敗れたかとも関係しています。クリントン候補は、全米の得票率でトランプ候補を上回りながら、勝敗を決する州ごとの選挙人の獲得数で敗れました。それまで民主党の地盤だった中西部ミシガン、ウィスコンシン、東部ペンシルベニアなど、かつて盛んだった製造業が衰退したいわゆる“ラストベルト”の激戦州で競り負けたからでした。
そこで“ラストベルト”に強いとされるバイデン氏なら今度こそトランプ大統領に勝てるはず。そんな期待も民主党にはあるのでしょう。しかし、前例に囚われない“変化”を訴えるトランプ大統領に対し、長年ワシントン政治の中枢にあったバイデン氏が、クリントン氏がそうだったように“現状維持”の候補と有権者から看做されたら、勝ち目は薄いかも知れません。落選後のヒラリー・クリントン氏も、みずからの敗北を総括して綴った著書の中で「トランプ氏に選挙戦のテンポをコントロールされてしまった」そう反省の弁を語っています。

では、そうした両陣営に対して、アメリカの有権者は、今度の大統領選挙で何を一票に託すでしょうか?

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いまのアメリカで最も重要な課題は何か?とたずねた調査がこちらです。アメリカの長期にわたる景気拡大に伴って、かつて選挙戦を左右した経済や雇用問題を挙げる人は減り、かわって医療保険や移民問題を挙げる人が増えていることがわかります。
だからこそトランプ大統領と共和党は不法移民対策を最重要課題として取り組み、民主党の候補者たちはまた国民皆保険制度の導入を訴えているのでしょう。無論こうした政策課題は景気の動向次第で一夜にしてがらり変わる可能性もあります。来年の大統領選挙は何が争点になるのかをまだ見通すことは出来ません。

しかし、ひとつ確かなのは、これからトランプ大統領が進める政権運営は、あらゆる面で再選キャンペーンに直結することです。アメリカはますます内向きになっていくでしょう。従来の選挙戦の常識を悉く覆し、大統領に就任したトランプ氏。就任したその日から準備を始めた再選戦略もまた、これまでの大統領とはきっと違ったものになりそうです。トランプ大統領が歩み始めた再選への道を私たちも予断を持たずに見るべきではないでしょうか。

(髙橋 祐介 解説委員)

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