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「高齢ドライバー 事故を防ぐために」(時論公論)

清永 聡  解説委員

6月4日、福岡市で乗用車が交差点に突っ込み2人が死亡したほか、4月には東京・池袋で乗用車が歩行者を次々とはね2人が死亡、10人がけがをしました。運転していたのは81歳と87歳。
どうすれば、相次ぐ高齢者の事故を防ぐことができるのでしょう。高齢ドライバーの問題を考えます。

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【ポイント】
免許更新の現在の取り組みと課題。
これから求められる2つの対策。
最後に、悩んでいる家族の方々へ、免許の返納について考えます。

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【事故全体は減少も高齢者は】
交通事故は全体として減り続けています。去年死亡した人は3532人。昭和23年以降で最も少なくなりました。ただ年齢別でみると、75歳以上の運転者による死亡事故は、人口10万人あたりの件数でみると、75歳未満の2倍以上になっています。
中には、突然、異常な走行をするケースもあります。福岡市の事故は、4台の車に衝突しながら、猛スピードで600メートルも走り続け歩道に乗り上げました。去年、神奈川県の自動車専用道路では、70歳の運転する乗用車が10キロも逆送し、7台の車に次々と衝突、6人がケガをしました。

【認知機能検査の現状は】
死亡事故を起こした75歳以上の運転者は、半数近くが「認知症のおそれ」あるいは「認知機能低下のおそれ」があることが分かっています。
そこで警察は、一昨年から、75歳以上を対象にした「認知機能検査」を強化しています。公表されている検査のサンプルです。「オルガン」「ラジオ」など、絵を記憶し、後から名前を書くというもので、健康な人なら誰でも分かるような内容です。しかし、これに十分答えられず「認知症のおそれ」があると判断された人は、去年検査を受けた高齢者210万人のうち5万4000人もいました。
この人たちの免許はどうなるのでしょう。

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一昨年からは「認知症のおそれ」と判断された全員を対象に、医師の診断が義務付けられ、認知症と分かれば免許は取り消されます。ただ、実際に取り消されたのは5%程度。また、これをきっかけに自主返納や更新を取りやめた人が6割いました。しかし、残りの3割は、医師の診断を受け診断書を提出するなどして免許を継続しています。
加えて、検査の時は異常がなくても、次の免許更新までの間に症状が悪化するケースもあるといいます。警察によると池袋の事故の高齢者は、一昨年の時点で「正常」と判定されていました。
加えて認知機能とは別に、運動機能に問題があるケースもあります。この検査だけですべての事故を防ぐことができるわけではありません。

【求められる2つの対策①「限定免許」】
相次ぐ事故で、免許の年齢制限など高齢者には厳しい意見も出ています。一方で、一律に免許を取り上げる強制的な措置には、反対の声も多くあります。
そこで、免許を継続するか、なくすかではなく、3つめの選択肢として、「限定免許」が警察庁の有識者会議で検討されています。具体的には安全機能が付いた車、あるいは時間帯や道路など免許に条件をつけるという考え方です。

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すでにアメリカの一部の州では夜間の運転禁止や、速度の条件を付けた限定免許があります。ニュージーランドでも時間や場所を限定した免許があるほか、更新の期間を短くするなど様々な取り組みがあります。
日本でも今後、段階的な措置を選択できる限定免許の仕組みが望まれます。
また、東京都は事故防止に効果的な装置を取り付ける高齢者に費用の9割程度を補助する方針を固めました。もちろん、装置があれば100%事故を防ぐことができるわけではありません。これにとどまらず、海外の取り組みも参考にさらに様々な対策を検討してほしいと思います。

【求められる2つの対策②新たな地域の足】
一方で、地域の交通手段がないことも、免許を手放せない大きな理由です。過疎化で鉄道・バスの路線廃止や減便が続いているため、衰えは自覚しながら、通院や買い物のため、やむを得ずマイカーに頼るほかない人も少なくないでしょう。

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地域の足を確保する取り組みは全国で始まっています。市町村によるタクシーチケットの支給や地域を運行するコミュニティーバス。また、全国で実験が行われているのが、「グリーンスローモビリティ」と呼ばれる電動の小型自動車です。時速20キロ未満で坂道や路地も走ることができます。バスやタクシーの事業が成り立たない場所で、自治体などが高齢者の送り迎えに活用できます。一部ではすでに4月から事業化も始まっています。
日本はかつて広い道路を作り大量のマイカーを高速で走らせてきました。しかし長期的には、これから交通手段を人口減少と高齢化の地域に合わせた新しい姿が求められるようになるのではないでしょうか。

【どうやって免許を返す】
ここからは、長期的な取り組みとは別に、今、高齢の親を持つ家族の方々への話です。
どんなに元気でも、年齢を重ね、運転が難しくなる日は必ず来ます。しかし、親などに免許返納を勧めても考えを変えてくれず、どうやって運転をあきらめてもらうか、悩んでいる人も少なくないでしょう。
今年、ネクスコ東日本が公開したある動画が、大きな話題を集めました。
これは高齢の男性が、家族の助言で免許の返納を考え、最後のマイカー旅行をするというものです。実際に免許返納を決めた夫婦の旅にカメラが同行しています。最後は家族が、長年の安全運転をねぎらうという内容です。このように記念のドライブを提案することも1つのアイデアでしょう。
ネットでは「参考になった」という感想の一方で、「美化している」という意見もありました。ただ、ネクスコ東日本は、「あくまでも家族で話をするきっかけにしてほしいと考えて制作した」ということです。
免許を返納してほしいと思った時の家族の対応について、国立長寿医療研究センターの研究部長、荒井由美子医師に聞きました。

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荒井医師は「あらかじめ話し合うこと」や「これまで送り迎えをしてくれてありがとう」などとねぎらいの言葉を述べること。そして、説得するのではなく、納得してもらうことが大切だと話しています。
反対に離れて暮らす親に「危ないからやめろ」と電話で言い放つことは、プライドを傷つけてしまいます。各地の運転免許センターなどに相談窓口もありますから、帰省した時には一緒に出掛けて第三者の意見を聞くこと。そして免許返納後の生活を共に考えることも大切だと話しています。

【悲惨な事故を防ぐことを第一に】
私は司法を担当しているので、これまで何度も交通事故の裁判を見てきました。以前、傍聴した死亡事故の法廷の様子です。
事故を起こした被告は、座ったままずっとうなだれていました。被害者の遺族は、涙ながらに、大事な肉親を失った悲しみを訴えていました。
被告の家族も証人として証言台に立ち、やはり泣きながら、被害者の遺族にお詫びの言葉を繰り返していました。
被害者はもちろん、加害者の家族まで巻き込んで苦しみ続けるのが、交通事故の恐ろしさです。
元気なうちは、安全第一。衰えを自覚したら、事故を起こす前にハンドルを手放す。それが、被害者を出さず、自分の大切な家族を悲しませないためにも、大切なことではないでしょうか。

(清永 聡 解説委員)

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