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「スリランカ 大規模テロの背景と課題」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

スリランカの最大都市コロンボなどで、21日に起きた同時爆破テロ事件は、日本人1人を含む359人が犠牲になり、およそ500人がけがをする大惨事となりました。昨夜になって、過激派組織IS・イスラミックステートが犯行声明を出しました。一方、スリランカ政府は、国内のイスラム過激派組織の犯行と見て捜査を進めています。世界を震撼させたテロ事件の背景と課題を考えます。
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■解説のポイントです。
▼わかってきた事件の背景。▼解明が急がれる疑問点。▼そして、事件が突きつけた課題です。
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■現時点でわかっているのは、イスラム過激派組織によって周到に準備された極めて大がかりなテロ事件だということです。
スリランカ政府は、「NTJ=ナショナル・タウヒード・ジャマート」という、国内のイスラム過激派組織による犯行と見て、捜査しています。
一方、ISの名前で出された犯行声明は、ISが何らかの形で関わった可能性を強く示唆するものです。NTJとISが、実際にどうつながり、誰が指示し、何の目的で、この事件を起こしたのかがポイントです。

■スリランカは、インドの南にある島国で、面積は北海道の80%ほど。人口は、およそ2100万人です。宗教別には、仏教徒がおよそ70%を占め、ヒンズー教徒が12%あまり。イスラム教徒とキリスト教徒は、それぞれ10%未満です。民族別には、シンハラ人がおよそ75%、タミル人がおよそ15%です。(スリランカ・ムーア人がおよそ9%。)
スリランカでは、1983年から2009年まで、26年にわたって激しい内戦が続きました。少数派でヒンズー教徒のタミル人の武装組織が、分離独立を要求して、仏教徒の多いシンハラ人が主導する政府軍と戦い、7万人以上が犠牲になりました。10年前、政府軍が、タミル人武装組織を壊滅させ、内戦が終結した後は、治安が回復し、外国からの進出企業や観光客の数が大幅に増え、経済も成長していました。
こうした中で、今回のテロが起きました。スリランカでは、イスラム過激派の活動は、決して活発だったとは言えませんが、近年、貧しい東部を拠点に、小規模の組織が活動を広げていました。
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▼今回の事件で、スリランカ政府が名指しした「NTJ=ナショナル・タウヒード・ジャマート」も、東部を拠点にする、スンニ派のイスラム過激派組織です。注目されることの少ない組織でしたが、次第に過激になり、2年前から、政府の監視の対象となっていました。そして、仏教を強く批判するようになり、去年12月、国内で寺院や仏像を破壊したメンバーが逮捕されました。
NTJのリーダーを名乗る人物は、対岸のインドの南部からビデオ映像などで、スリランカ国内のメンバーに指示を出し、「イスラム教徒以外は、この世にいるべきではない」として、異教徒の殺害をそそのかすなど、極めて過激な思想を伝えていたと言うことです。しかし、NTJは、今回の事件については、犯行声明を出していません。
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▼一方、ISの名前で出された犯行声明は、「われわれの同胞が、キリスト教徒や有志連合(すなわち、対ISの軍事作戦に参加した国)の市民を狙った」と主張し、事件の実行犯として、7人の名前とそれぞれの役割について言及しています。
動画もネット上に公開され、リーダー格と見られる男が、ISの最高指導者バグダディ容疑者の名を呼び、忠誠を誓う様子などが写っています。捜査当局は、この中でただ1人、顔を隠していない男が、NTJのリーダー格の男と同一人物だと断定し、今回の事件に、ISが背後で関わっていると見ています。
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■まだ解明されていない疑問点は、犯行の動機と指揮命令系統です。

▼まず、スリランカの国防担当相は、きょうの会見で、「今回の事件は、9人の自爆犯によって実行され、うち1人は女だった。その大半は裕福な家庭で育ち、高学歴だ」と明らかにしました。そのうえで、「ニュージーランドで起きたテロ事件が、今回の事件を起こす動機となった可能性がある」と述べて、先月、ニュージーランドで2つのモスクが、銃を持った男に襲撃され、50人が犠牲になった事件の報復だったとの見方を示しました。しかしながら、その根拠を全く示していません。動機と目的は、現時点では、はっきりしません。

▼次に、指揮命令系統、つまり、NTJとISが、実際につながっているのか。誰が、このテロを計画し、指示したのか。実行犯らは、どこで訓練を受け、爆弾を調達したのか。犯行グループに、ISの戦闘員だった者がいたのか。これらのことを突き止める必要があります。スリランカ政府は、3年前の時点で、ISに参加していたスリランカ人が32人いたことを確認しています。捜査当局は、事件後に身柄を拘束した40人は、全員がスリランカ人で、多くがNTJのメンバーだとしています。今後、全員の取り調べと裏付け捜査で、全容を解明することが求められます。
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▼もうひとつ、見過ごすことができないのは、スリランカの捜査当局が、今月はじめ、NTJが教会などを狙った自爆テロを計画しているという情報を外国の情報機関から入手していたにもかかわらず、これほど大規模なテロを、なぜ防ぐことができなかったのかという問題です。
NTJによるテロ計画の情報が、スリランカ政府の中で十分に共有されず、適切な予防措置が取られていませんでした。シリセナ大統領とウィクラマシンハ首相との間で、深刻な対立が続いていることが背景にあると指摘されます。首相は今回のテロ計画の情報を知らされていなかったと述べています。国民の間からは、政府の責任を追及し、強く非難する声があがっています。
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■ここから、今回の事件が突き付けた課題について考えます。
▼まず、ISの脅威が今も続いているという現実です。ISは、シリアとイラクの支配地域をすべて失い、有志連合を率いたアメリカのトランプ大統領は、先月末、ISに対する「勝利宣言」を出していました。しかしながら、ISの過激思想は、戦闘員らの移動やインターネットを通じて世界中に拡散し、その影響によるテロが世界のどこで起きても不思議でないことを今回、見せつけられた形です。NTJのような小さな組織が、いつの間にか過激化し、国際テロ組織とつながって、大規模なテロを実行する力を獲得したものと見られます。
▼次に、情報の重要性です。 今後、各国がテロに関する情報をどう集め、テロの防止にどう活かすかが、大きな課題として突き付けられました。ICPO・国際刑事警察機構や関係各国の捜査機関と情報を共有し、協力することが大切だと思います。
▼さらに、テロによって「憎悪の連鎖」が広がらないようにすることが重要です。今回の事件が、ニュージーランドの事件の報復かどうかわかりませんが、新たな報復のテロが起きることや、イスラム教徒に対する偏見が広がることは、何としても防がなければなりません。
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■そして、今回の事件では、日本人も犠牲になりました。今週末からの大型連休で、多くの国民が海外旅行に出かけます。日本政府は、注意喚起していなかったスリランカで犠牲者が出たことを教訓に、日本人の安全を守るための情報や対策を、再点検する必要があると思います。また、今年は、ラグビー・ワールドカップ、来年は、東京オリンピック・パラリンピックで、非常に多くの外国人が、日本を訪れます。国内のあらゆる場所でテロ対策を万全にする必要があります。
6月に大阪で開かれるG20・主要20か国の首脳会議でも、ISの脅威にどう立ち向かい、国際テロをどう防ぐのかをしっかり話し合い、協力体制を確立すべきだと考えます。
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(出川 展恒 解説委員)

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