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「中国経済 減速に歯止めはかかったのか」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

米中貿易摩擦の影響で減速が続いていた中国経済。きょう発表された中国の今年1月から3月までの第1・四半期の成長率は1年ぶりに下げ止まったものの、輸出や消費は低迷が続いています。こうした中で、中国政府はどのような対策をうとうとしているのか。中国経済はいつ回復に向かうのか。この問題をみてゆきたいと思います。
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解説のポイントは三つです。
1) 深刻化する米中摩擦の影響
2) 習近平指導部が進める大掛かりな経済対策
3) 中国経済は回復に向かうのか
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 まず中国経済の現状を見てみます。
中国の国家統計局がきょう発表した今年第1・四半期のGDP・国内総生産は前の年の同じ時期に比べて、6.4%のプラスと、去年の第4・四半期から横ばいとなりました。ではこれで経済の減速に歯止めがかかったとみてよいのでしょうか、実は、第1・四半期のGDPを、前の期=つまり去年の第4・四半期と比べると、伸び率は1.4%のプラス。これに対し第3・四半期つまり前の期の伸び率は1.5%でしたので、0.1ポイント低くなっています。このように前期比でみると減速は続いていることになり、まだまだ安心できない状況にあるとみてよいでしょう。
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中国経済の低迷が続く最大の要因はアメリカとの貿易摩擦です。
アメリカは中国からの輸入品2500億ドル相当について、10%から25%の関税を上乗せする一方的な制裁措置を続けています。その結果、今年に入ってから先月までのアメリカ向けの輸出は、去年の同じ時期に比べて8.5%も減少しました。輸出全体でも、わずか1.4%の増加にとどまっています。
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さらに消費の伸びも鈍っています。きょう発表されたGDP統計によりますと、去年の同じ時期に比べた増加率は8.3%と、一桁成長にとどまりました。米中摩擦がいつ終わるともわからないなかで、消費者の財布のひもが閉まり、自動車などの高額商品の販売の落ち込みが続いていることなど要因です。
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さらに、景気減速の要因として、米中貿易摩擦の他に、民間の中小企業の投資が鈍っていることがあります。
その背景には、中国の国有銀行が、リスクが低く人的なつながりも深い国有企業を中心に資金を貸し出しているため、中小企業が思うように資金を借りることができなくなっている事情があります。
ところが、中国の中小企業は、いまや新たなビジネスを次々にたちあげ、GDPの60%以上、科学技術のイノベーションでも70%以上を生み出しています。こうした企業に資金が行き渡らないことで、経済成長にブレーキがかってしまっているのです。
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こうした中国経済の低迷は、日本企業にも影響を及ぼしています。      
中国からアメリカへの製品の輸出が減ったことで、中国企業に部品を供給してきた日本企業の販売が減少しています。さらに景気が悪化する中で、日本企業の中国市場での販売にもマイナスの影響が出ています。この結果、日本国内でも、中国向けの輸出を行う製造業などで、設備投資にブレーキがかかる現象が起きており、日本経済に影を落とす形となっています。
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 では、景気の回復にむけて習近平指導部はどのように対応しようとしているのでしょうか。
ひとつは、減税です。貿易摩擦で影響を受けている製造業などを中心に、企業同士の取引にかかる税金を引き下げました。減税に加えて、行政機関などに支払う手数料の引きさげも行い、総額で日本円にして33兆円程度の減税効果が見込まれるとしています。
 次に、公共投資による地方経済の下支えです。今年は公共投資の財源となる地方政府の債権の発行枠を、去年よりおよそ60%増やし、35兆円をこえる規模に拡大しました。さらに通常は4月以降に行われる公共事業を今年は1月から前倒しして行っています。
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これに加えて重要なのが、資金不足に苦しむ民間の中小企業への融資を拡大するための対策です。
中国政府は、「国有大型銀行による、規模の小さな企業に向けた融資額を、去年より30%増やす」方針をかかげ、放っておけば、国有企業にむかってしまう資金を、半ば強制的に、中小企業に融資させようとしています。さらに、貸した資金が返ってこないときには、政府が代わりに返済する、いわゆる債務保証の仕組みも導入しました。
中国政府が、ここまで中小企業に配慮する背景には、新たなビジネスや技術を生み出す中小企業に必要な資金が回らなければ、中国経済の成長の芽を摘んでしまいかねないこと。さらに、国有企業が甘い汁を吸う一方で中小企業は苦杯をなめ続けているという批判が国民の間にひろがることをおそれたものとみられます。
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ではこうした対策によって、中国経済は回復に向かうのでしょうか。
効果は徐々に出始めています。
自動車業界では、減税で余力の生まれたメーカーが、このところ相次いで製品の値下げを打ち出し、3月の新車販売台数は、減少傾向が続くものの、下げ幅は大幅に縮小しました。また製造業の購買担当者の景気判断を示す指数も、先月は去年11月以来4カ月ぶりに目安となる50を上まわり、先行きに対する悲観的な見方がやわらいでいることがうかがえます。さらにきょう発表された統計では、今年1月からの先月までの投資の伸びが、去年一年間の伸び率を上回ったことがわかり、公共投資の前倒しの効果も見て取れます。
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こうしたことから、専門家の間では、中国経済は早ければ夏までに回復に向かうという見方も出ています。ただ、中国政府は、リーマンショックの後の巨額の景気対策が、企業の過剰な生産設備や巨額の債務という深刻な副作用を生んだことを教訓に、投資のバラマキはしないという立場を崩していません。このため対策による景気の押上げ効果には限度があり、下げ止まったとしても急速な回復は見込めないという見方も出ています。
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一方こうした対策の効果を帳消しにしかねないのが、アメリカとの貿易交渉の行方です。交渉が決裂すれば、トランプ政権は中国製品に対する関税をさらに引き上げ、中国経済がより大きな打撃を受けることになるからです。

米中間の協議は、貿易不均衡の問題については、中国がアメリカからの輸入を大幅に増やす方向で、また知的財産権の問題では、外国企業に技術移転の強制することを禁じる法律を中国が制定したことなどで、一定の進展を見せています。ただ、交渉合意後の一方的な制裁措置の取り扱いをめぐっては、大きな隔たりが残っています。
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中国側は、合意後ただちに制裁措置を解除するよう求めています。これに対しアメリカは、中国がこれまでも約束したことをきちんと実行してこなかったことから、制裁の解除は、協議で合意した内容を実行するかどうか見極めてからにしたいと解除に慎重な構えです。
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さらにトランプ大統領が、「最終的な合意は、習近平国家主席との首脳会談で行い、会談場所はアメリカにする」と話していることも、中国側を慎重にさせています。習主席がはるばるアメリカまで出向いたにも関わらず、先の米朝首脳会談のように最終段階で交渉決裂となれば、習主席のメンツがまるつぶれになるからです。交渉の行方は依然予断を許さない情勢です。
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このように中国がどんな手をうとうとも、やはり最大の景気対策となるのは、アメリカとの摩擦の解消という状況に変わりはありません。
米中協議で白黒がはっきりするまでは、中国経済の行方も不透明な状況が続く事になりそうです。                                
(神子田 章博 解説委員)


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