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「熊本地震3年~災害時の『受援』態勢は」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

熊本地震の本震からきょうで3年になります。一連の地震では全国から自治体の職員やボランティアなどが駆けつけて被災地支援に大きな役割を果す一方、受入れ側の準備ができていなかったため混乱が起きたり、力を十分に発揮できないといった課題も残りました。国は応援を受け、活かすための計画、「受援計画」を作るよう自治体に求めていますが作成には時間がかかっています。災害支援を活かすために何が必要かを考えます。

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解説のポイントは
▼熊本地震の教訓を振り返ったうえで
▼「受援計画」はどこまで進んだのか
▼課題のひとつであるボランティア受け入れの問題を見ていきます。

【熊本地震の教訓】
《VTR》
熊本地震では2度の震度7の揺れで4万4000棟近くが全半壊し、避難者は最大18万人にのぼりました。全国の自治体や国から延べ13万人の職員が派遣されたほか、多くのボランティアが駆けつけて被災者や被災自治体を支えました。また要請を待たずに救援物資を送る「プッシュ型支援」が初めて本格的に行われて成果をあげました。
一方で人と物資を受け入れる市町村の態勢が不十分だったり県と市町村の役割分担がはっきりしていなかったりして多くの混乱も見られました。

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被害が大きかった益城町では地震後、町の職員は幹部も含めてほとんどが避難所の対応に出払ってしまい、災害対策本部を立ちあげたもののきわめて手薄な状態になりました。ほかの自治体から駆けつけた応援職員は誰からも指示を受けることができず何をしてよいかわからない状態が続きました。結果、配置は場当たり的になり、災害業務に豊富な経験のある応援職員が交通整理や清掃業務にあたったケースもありました。引継ぎや資料もないまま応援職員は手探りで対応にあたらざるを得ませんでした。
さらに県が支援物資の集積拠点にするはずだった施設が被災して使えなかったり、一部の集積場所に物資が集中し、その先の避難所まで届ける手段がないなど混乱が続きました。

【「受援計画」はどこまで】
こうした災害時の応援を効率よく機能させるための計画が「受援計画」で、東日本大震災のあと自治体に作成が求められるようになりました。しかし熊本地震のとき熊本県と益城町などではまだ作られておらず混乱が繰り返されたことから、その翌年、国はあらたにガイドラインをまとめました。

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ガイドラインでは都道府県と市町村の役割分担を明確にし、県などが応援側との窓口になるなど被災市町村を全面的にバックアップします。それぞれに受援をとりまとめる本部や班をつくり、応援職員を効率よく配置すること。また、あらかじめ応援職員に担当してもらう業務は整理しておく、支援物資の流れも具体的に想定しておくことなどを求めています。

では受援計画づくりはどこまで進んだのでしょうか。

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都道府県で受援計画を作ったのは34都道府県。また市区町村は全体の35パーセントにとどまっています。

なぜ進まないのでしょうか。総務省の調査では市町村から「応援を受けるような事態は想定していない」とか「災害の規模や場所によって対応が変わるので事前に計画をつくるのが難しい」などの声が寄せられていて必要性が十分理解されていないことがうかがえます。また自治体の防災業務は年々増えていて、人手が足りず受援計画づくりが先送りされているという面もあります。

こうしたなかで市町村を後押しして計画づくりを進めているところのひとつが福岡県です。
福岡県は去年6月に県全体の「受援計画」を作成しましたが、60ある市町村のうち受援計画を作ったのはまだ7市町だけです。そこで市町村向けの詳しいガイドラインをつくりました。

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この福岡県版ガイドラインをもとに、今年2月には大牟田市と吉富町で訓練を行いました。大地震の発生を想定し自衛隊やボランティア団体、物流の業界団体にも参加してもらいました。災害対策本部の中に受援班が置かれ、市町と県が連絡を取り合って国などへの支援要請や受入れなど対応を確認していきました。

大牟田市の防災担当者は「受援計画は作っていたが応援側と一緒に訓練をして助言を受けたことで自分たちだけで抱え込まずに応援を頼って解決を図ることの大切さを実感した」と話していました。また吉富町の防災担当者は「受援の重要性を職員で共有できたので今後の受援計画づくりが進めやすくなった」と話していました。

福岡県はこうした取組みをほかの市町村にも広げて行きたいと考えています。

【ボランティアの受入れは】
「受援」のあり方でもうひとつポイントになるのがボランティアです。

最近の災害現場ではボランティアの力が欠かせない存在になっていますが、特に専門性をもったボランティア団体が各地で育ち、避難所の運営や支援物資の輸送、介護・福祉のケアなどで大きな役割を担っています。

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ボランティアは都道府県の受援計画に位置づけられていますが、問題は、全国から集まってくるさまざまなボランティア団体の特徴やスキルを知っていて調整ができる「コーディネート役」がいないということでした。
熊本地震では地元のボランティア団体が中心になり県も参加して全体を調整する会議体が初めて設けられました。「火の国会議」と名づけられ、ここがいわば司令塔となってボランティア団体の力を引き出しました。

この経験を元に、地域ごとにボランティア団体と行政が、災害時の受入れ組織となるネットワークを平時から作っておく動きが始まっています。

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埼玉県では去年12月、県が呼びかけて「彩の国会議」というネットワークが発足しました。
37のNPOやボランティア団体、大学などが参加しています。県も受援計画に明確に位置づけて連携して活動します。地元が被災したときのための組織ですが、参加団体にとってはほかの地域の災害支援に行ったときに先方の自治体に認知してもらいやすくなるメリットも期待できます。
こうした地域ごとのボランティアの受援組織づくりは静岡、兵庫、岡山など7県で進んでいます。

では災害時に応援の力を最大限に活かして被災者の支援につなげるために何が必要なのでしょうか。

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▼まず市町村は受援計画づくりを急ぐ必要があります。小さな自治体で防災担当者が少なくノウハウもない場合は都道府県が積極的にサポートしてもらいたいと思います。また地域ごとのボランティアの受援組織、ネットワークづくりも急がなければなりません。

▼計画を作るだけではなくいざというときに役立てられるようにしなければなりません。訓練をすることに加えて、ほかの地域の災害応援に駆けつけた経験をフィードバックすることが自らの受援態勢の強化につながります。

▼さらに応援の効率を高めるために罹災証明や被害調査など自治体ごとに異なる災対対応業務の進め方を標準化したり、共通のマニュアルやシステムの開発も求められます。

「受援」というのはまだなじみが浅い言葉ですが、「応援」と表裏一体で、大災害のときに全国の力を最大限に引き出して発揮することでひとりでも多くの人を助けようという仕組みづくりです。「応援」と「受援」が有機的に機能する態勢をつくり、国全体の防災・減災の力を高めることが求められています。

(松本 浩司 解説委員)

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