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「ブラックホールを捉えた!天文学新時代の幕開け」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

アインシュタインの理論に基づく予言から100年余りを経て、ついにその姿がとらえられた。
日米欧などの研究グループは、ブラックホールを電波を使って撮影することに世界で初めて成功したとしてその画像を公開。
ブラックホールは一般相対性理論に基づいて予言され、その存在は間接的にはわかっていたものの強い重力で光をも飲み込んでしまうためその姿はこれまで捉えられていなかった。確実に存在することを示した今回の成果は極めて大きい。
このブラックホール撮影成功の意義について水野倫之解説委員の解説。

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今回研究グループが撮影したのは、地球から5500万光年にあるM87と呼ばれる銀河の中心にあるブラックホール。

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画像では、ブラックホールに落ち込むガスや塵が出す電波が赤や白のドーナツ状にとらえられ、その内側は電波も出てこないため黒くなっており、ここにブラックホールがある。
解析からその質量は太陽のおよそ65億倍と超巨大。

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この黒い部分の中に、「イベント・ホライズン」「事象の地平線」と呼ばれる、飲み込まれたらもう二度と出てくることができない境界線がある。

今回の撮影成功の意義は大きく2つ。
まずは予言から100年たってようやくその存在が完全に証明されたこと。
そして人類が、宇宙進化の謎に迫る新たな手段を手にした、この2点。

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まずブラックホール存在のきっかけはアインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論。重さ、つまり質量を持つ物体があると空間がゆがむという。
その後この理論に基づいた計算で、大質量の星を一点に限りなく収縮させると、きわめて強い重力で空間が無限にゆがみ、光さえ逃れられなくなるブラックホールができることがわかった。

天文学者たちは実際にその存在をとらえようと理論を発展させ様々観測。
その後実際に天文衛星の観測で星が死んだところに太陽の10倍のブラックホールの存在を示すデータが観測された。

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そしてその後理論的にもっと巨大なブラックホールがあるという考えが唱えられ始める。
星が数千億個集まった銀河の中心には星の密集地帯があり、星を引き寄せる強い重力源、つまり巨大なブラックホールがあるに違いないという。
20世紀終わりに大型望遠鏡が運用され始めると、私たちの太陽系がある天の川銀河を含め、今回観測されたM87など様々な銀河の中心に巨大ブラックホールの存在を示すデータが得られるようになった。

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特にM87銀河からは謎の白い噴きだしがあったが、その正体はブラックホールに飲み込まれるガスの一部が跳ね飛ばされたもので、根元には超巨大なブラックホールがあるとされてきた。
しかしこれらはいずれも周りの星やガスの様子からその存在が間接的に予想されているもので、直接ブラックホールが確認されたわけではなかった。
超巨大とはいっても、地球から極めて遠くにあるため見た目が小さく、普通の望遠鏡で捉えるには限界があったから。

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そこで直接証拠を見つけようと企画されたのが今回のプロジェクト。
日米欧などの13の機関が協力して観測。
そのカギは、世界各地の電波望遠鏡をつないで見る方法。
複数の電波望遠鏡をつなぐと巨大な一つの望遠鏡のような高性能を生み出すことができる。
今回はその規模が桁違い。ハワイ、南北アメリカ、ヨーロッパ、南極など世界6か所の電波望遠鏡をつなぐことで、直径1万キロ以上の地球規模の超巨大望遠鏡を構築、人間の視力の300万倍という史上最高の解像度を実現し、ブラックホールが確かに存在することを証明した。

そしてこの成功には日本が大きな貢献。
その一つがチリにある世界最高性能のアルマ電波望遠鏡。日本も16台建設し、運用にも携わる。今回アルマが全データの半分以上を占める重要な観測拠点となった。

また観測や解析した200人のうち、日本からは22人が参加、重要な役割を担った。
日本チームの代表、国立天文台の本間希樹教授はプロジェクトの中心メンバーの1人として観測・解析をけん引。
今回電波望遠鏡がないエリアはデータが得られないため、画像がぼやけたり、実際とは異なる画像になってしまうことがある。
そこでチームは医療分野で実用化が進む、少ないデータから正しい画像にたどりつく最新の情報処理の手法に目を付け、独自のプログラムを開発。ブラックホールの画像を得ることに成功した。

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ただこうした取り組みは基礎研究。ブラックホールの存在が証明されたからといっても、暮らしが大きく変わるわけではない。しかし宇宙では一体何が起きているのか、知的好奇心にはこたえてくれる。こうした取り組みは技術力がある国でなければできない。
天文学は欧米が世界をリードしてきましたが、はやぶさ2に続いて、今回再び日本の技術レベルの高さを世界に示すことができたわけで、この先も日本が大きな役割を果たしていかなければならない。

というのも、その姿が見えたとはいっても、ブラックホールが謎の多い天体であることに変わりはなく、銀河や宇宙の成り立ちに深くかかわっていると考えられているから。

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宇宙は138億年前にビッグバンで誕生し、その後ガスや塵が集まって太陽のような星が誕生。その星が数千億個集まって無数の銀河が構成されて宇宙は進化、今の形になったと考えられている。
その銀河の中心には、今回のような巨大なブラックホールが存在すると考えられ銀河の進化、つまり宇宙の進化に大きな影響を与えていると考えられている。しかし具体的なことはわかっていない。

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今回人類が手にした超高解像度の観測方法でさらに多くのブラックホールを継続的に観測していけば、銀河そして宇宙の進化の謎を紐解く手がかりが得られる可能性がある。今後もそうした研究に日本が大きな貢献をしていくことを期待したいし、政府もこうした基礎研究への支援に力を入れてほしい。

(水野 倫之 解説委員)

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