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「消える外国人 求められる対策は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

外国人材の受け入れを拡大する新たな制度が、1日にスタートしました。しかしその一方で、以前からの外国人技能実習生は、1年で9000人が「失踪した」とされるほか、留学生の行方不明なども起きています。
これで新たな外国人労働者の受け入れはうまくいくのでしょうか。今夜は姿を消す外国人労働者の問題と、必要な対策を考えます。

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【設置された出入国在留管理庁】
4月1日、法務省に出入国在留管理庁が設置されました。「特定技能」という新たな在留資格への対応だけでなく、日本で暮らす外国人へ必要な生活支援などを行う、いわば「司令塔」としての役割が求められます。

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今、日本で働く外国人労働者は146万人。最多を更新しています。その内訳は、技能実習生と留学生がいずれも2割ずつ。全体の4割に上ります。

都市部のコンビニエンスストアなど、いまや外国人労働者なしでは成り立たないいう職場も少なくありません。新しい「特定技能」の在留資格は、技能実習の経験が3年以上あれば無試験で移行が可能なほか、留学生から目指す人もいるとみられます。

【技能実習生はなぜ消える】
まずは技能実習生の実情です。その数は30万8000人。期間は最長で5年。賃金は「日本人と同等」以上とされています。

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ところが、法務省が先月末にまとめた調査結果では、去年1年間で9000人が「失踪した」とされています。5年前の2、5倍以上です。
なぜ急増しているのでしょうか。法務省が摘発された5000人あまりの現場を調査したところ、14%近い721人に労働関係の法律に違反する疑いがあったことが新たに分かりました。
報告書によると、縫製業で基本給が月額6万円だったケース。農業で時間外労働の時給が400円だったケースがありました。最低賃金を下回るなど、過酷な労働環境が「失踪」の理由の1つになっているとみられます。

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さらにこの6年間に技能実習生171人が死亡、しかも、17人は自殺だったことも分かりました。

しかし、この結果には調査への協力を拒否した企業や倒産した企業などは含まれていません。外国人の労働問題に詳しい弁護士の指宿昭一さんは「違法な件数はさらに多いはずで、法務省の調査は実態を反映していない」と指摘します。

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もちろん、法律を守り適切に受け入れている事業主もあります。
ただ、支援団体によると、出国前、悪質なブローカーから多額の金を払って来日する技能実習生もなくならないため、結局、借金を返済できず、それが理由で姿を消すケースもあるということです。

【留学生はなぜ消える】
では、留学生はどうでしょうか。こちらは29万8000人(資格外活動の人数)。政府が掲げた「留学生を30万人に増やす計画」のもと、私費で日本語学校に入る人や国費で大学に通う人など様々なケースがあります。アルバイトなどは週28時間以内と定められています。

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しかし、東京福祉大学では、留学生およそ700人が行方不明になっていることが分かり、先月、法務省と文部科学省は大学へ立ち入り調査に入りました。大学は、行方不明になった留学生を日本語学校から移ってきた「研究生」として受け入れていましたが、すでに除籍処分にしたとしています。こうした留学生の中には、最初から勉強よりも出稼ぎ目的だった者もいるとみられます。

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さらに、留学生も多額の借金を抱えているケースが少なくありません。
先月、ブータンの弁護士が来日して会見を行いました。730人を超えるブータンからの留学生の多くが、多額の借金と劣悪な環境に置かれていると訴えています。会見した弁護士や支援者によると、多くがブータン政府の融資制度を利用し、業者に120万円を払って来日しました。
留学生は「卒業すれば稼げる仕事を紹介する」と言われていたということですが、言われたような仕事の紹介はなく、借金の返済に追われ、満足な勉強ができていないといいます。

そもそも、留学生が働くことができるのは週28時間以内です。時給1000円でも11万円程度。これだけで学費と生活費をまかない、さらに借金を返すことは難しいでしょう。その結果、外国からの留学生の中には、違法と知りながら、アルバイトを掛け持して長時間働く者も少なくありません。

支援者によると、ブータンからの留学生の中には、過酷な生活で結核に感染し体を壊した人や、精神的な病気で入院した人、自殺の疑いで死亡した人もいるということです。すでに130人が目的を果たせないまま帰国し、夏までにさらに300人が帰国する予定です。

【取り巻く構図は同じ】
このように技能実習生や留学生の中には、多額の借金を抱え、劣悪な環境に置かれるという同じような構図があることが分かります。しかも、この課題は以前から指摘されてきました。

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しかし「留学生の増加」という政府の目標がある中で、「人手不足の労働現場」、「学生がほしい日本語学校など教育機関」、そして「悪質なブローカー」の間で、課題が置き去りにされてきたのではないでしょうか。
日本語学校も大幅に増えていますが、中には留学生に違法な長時間のアルバイトをさせ、手数料を得ていたとして、理事長が有罪判決を受けた事件もありました。
この現状について支援者からは、「貧しい国の若者から金を集める悪質な組織は、まるで貧困ビジネスだ」と指摘する声も上がっています。

【出入国在留管理庁に求められる役割は】
新しく設置された出入国在留管理庁には、問題を一刻も早く解決することが求められます。
まずは、悪質なブローカーの排除です。政府は実習生について、相手国との間で送り出し機関に関する取り決めをしていると説明していますが、「規制は形式的だ」という批判も多くあります。
今もなお留学生を含め、来日前の多額の借金を抱えることが姿を消す理由の1つになっていることを考えると、業者に法外な料金を支払わせることがないよう、より実効性のある対策が必要です。

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また、政府は留学生の数をただ増やすのではなく、審査を厳格にするとともに、悪質な日本語学校をなくすため必要な告示基準の見直しも求められます。法務省は、今後、日本語学校に対して生徒の出席率の基準の厳格化や、教育機関から留学生のアルバイトの実施状況を報告させることなども検討しているということです。ただ、指宿弁護士はこうした検討中の対策についても、「留学生が正直にアルバイトの時間を学校に報告するとは思えず、検討している対策の実効性は乏しい」と批判しています。
そして働く現場は、法令順守の一層の徹底を行った上で、出稼ぎが目的の人は、留学生ではなく、実習生や「特定技能」を目指すよう促すことも可能ではないでしょうか。
新しい「特定技能」でも、悪質なブローカーの関与の恐れが指摘されています。さらに専門家は、新たな制度のもとでも、ここまで見てきた技能実習生や留学生の課題はなくならないと指摘しています。
それだけに新しくできた出入国在留管理庁には、重い役割と責任があります。

【「共生社会」と日本への信頼のために】
支援者によると、ブータンからの留学生の1人は、「日本にはもう来たくない」と言い残して帰国したそうです。
実習生も留学生も、多くは日本に興味を持ち、夢を抱いて訪れたはずです。それが、失望で終わってもよいのでしょうか。
政府が掲げる「共生社会」を実現させるためだけでなく、日本という国への信頼を損なわないようにするためにも、形だけではない実効性のある取り組みが求められます。

(清永 聡 解説委員)

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