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「遠い幕引き ~ 統計不正問題」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

この迷走状態、いつまで続くんでしょうか?
統計不正問題をめぐって、厚生労働省の特別監察委員会がまとめた調査報告。
その後も、各方面から批判や疑問が相次いでいます。
真相究明のメドは一向に立っていません。
それどころか、この問題、いわば暗礁に乗り上げています。

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どういうことかといいますと、
国の基幹統計を所管する、総務省の統計委員会。
今週はじめ、ここで厚労省が、
毎月勤労統計をめぐる調査報告の内容や、不正の経緯について報告を行いました。
しかし、統計委員会は、報告は不十分で、評価できないとして、
厚労省に報告をやり直すよう求めました。

実は、すでに前回も、厚労省はここで同じ趣旨の報告をしていて、
これで2度、ダメだしを食らったことになります。
厚生労働省、このままでは打つ手なし、という状態です。

再発防止のためには、何としても真相の究明が必要です。
このままで終わるわけにはいきません。そのためには何が必要か、考えます。

[ 何が焦点か? ]
そこできょうは、
▼拡散する影響
▼ダメ出し続く調査報告
そして▼「第三者委員会」の重要性
この3点について考えます。

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[ 拡散する影響 ]
まず、この統計不正、発覚以来、影響や論点が広がるばかりです。
そもそもこの問題、
毎月勤労統計という、企業が払う賃金などのデータの集計で
不正な方法がとられていたというものです。

本来なら大企業についてはすべての企業を調べないといけないのに
数の多い東京都については15年前から3分の1の調査だけで済ませていた。
そのため、平均賃金が低く計算されて、このデータをもとに決定される
雇用保険や労災保険、船員保険などの手当てが本来より少なくなって、
述べ2000万人に対する手当てが500億円以上も少なかったという
大きな実害が出ています。

さらに、この過去の間違ったデータは修正する必要がありますが、
一部のデータはすでに廃棄されていて、
重要な経済データが、歴史からスッポリ消えてなくなるという
信じられないことまでおきています。

さらに、厚労省は、
なぜか、去年からこのデータを突然、ひそかに修正して発表しはじめました。
このため、統計的には、去年は賃金の伸びが前年比で大きくなりました。
これが、賃上げに重点を置く政権からの圧力や忖度があったのではないか、
という疑問につながり、国会の焦点となっているわけです。

さらに、賃金構造基本統計という別の統計でも不正が見つかるなど、
厚生労働省の調査のずさんな実態が次々と明らかになったわけです。

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[ ダメ出し続く調査報告 ]
では、なぜ、このようなデタラメが15年間も、だまって続けられていたのか?
そのために、厚労省が、第三者委員会として設置したのが
有識者からなる特別観察委員会でした。
統計の専門家や大学教授、弁護士などから構成されます。
この委員会に解明が求められるのは
何と言っても誰が、何の動機で、不正をしたのか?その一点です。
しかし、報告書には、大勢の職員からヒヤリングした結果が載っていますが、
結局、肝心の点は、よくわからない、というものでした。

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その一方で、この報告書は、
長年、多くの幹部や職員がウソを言っていたのにも関わらず、
そしてそれを虚偽だと、認定したにも関わらず、
それでも、組織的な隠蔽はなかった、という
一般的にはなかなか理解しにくい、
役所としての、組織防衛の色こい結論を出しました。
追加の調査も行われましたが、結論は変わりませんでした。

これに異論を唱えたのが、冒頭にふれた総務省の統計委員会です。
統計委員会は、国の基幹統計全体を統括する、この問題のカギとなる重要な組織です。
実は、そもそも今回の統計不正を最初に指摘したのも、ここです。
この統計委員会が、厚労省の報告には、
原因の究明がない、と、強く批判しているわけです。

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さらに、国会では、野党はもちろんですが与党からも疑問の声があがりました。

今月6日の参議院の予算委員会。
公明党の議員が、独立した調査機関で調査をやり直すよう求める、という
異例の展開を見せました。

これに対し安倍総理大臣は、
「中立的・客観的立場から精力的に検証作業を行っていただいた」と述べて
再調査には否定的な考えです。

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[ 「第三者委員会」の重要性 ]

では、この調査報告、今後、どうすればいいのか?
一つ、ヒントになるのが、「第三者委員会報告書格付け委員会」の発表です。

そもそも第三者委員会とは、何でしょうか?
企業や組織が不祥事や事件を起こしたときに
外部の人を中心に、客観的な立場で調べてもらう、という趣旨でよく設けられます。

しかし、別に法律上の定義があるわけではありません。
このため、社会的批判をかわすための
隠れ蓑のように使われているケースもあります。

そこで、チャンと、よりどころとなるものをつくろうと、
日本弁護士連合会が証券取引等監視委員会などの意見を聞きながら作成したのが、
「第三者委員会ガイドライン」です。
これが今では、企業が第三者委員会を立ち上げる際の基準となっています。
そのガイドラインを作ったメンバーが中心となっているのが、
この「第三者委員会報告書格付け委員会」、というわけです。

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この格付け委員会が厚労省の特別観察委員会の報告書を格付けすることになり、
その結果を、日本記者クラブで発表しました。
私はその際、記者クラブ側の担当者として司会役を勤めました。

で、その結果はどうだったのかというと、
格付けは評価の高い順に、A、B、C、D となっているんですが、
判定は、ランク外の最低評価のF、しかも、全員一致で、Fでした。

その最大の理由は、第三者委員会にとって、最も重要な独立性、中立性がない、
というものでした。
具体的には、特別観察委員会の樋口委員長が理事長を勤める独立法人には、
厚労省から年間20億円を超える交付金が配布されていること。

また、そのほかの委員も、
もともと厚労省に常設されている監察チームのメンバーが主体となっていること。
こうしたことから、今回の調査は第三者調査とは呼べない、と結論づけています。

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では、今後、どうすべきなのか?
格付け委員会のメンバーの一人である野村修也弁護士は、
かつて大きな社会問題となった、消えた年金問題のときに、
厚労省の調査委員会の中心メンバーを務めていました。
その野村弁護士は
「当時、作られた調査委員会はもっと独立した立場で調査をしていた。
 その経験が今回はいかされていない」と苦言を呈しました。

その上で、
「国会会期中は、政治の対立もあって、一度出した結論を変えることは難しい」
とも述べまして
国会終了後の落ち着いた環境で再調査すべきという考えを示しました。

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この問題で、今後、最も重要になるのは、再発防止策です
そのためには、原因を究明がどうしても必要です。
このままでは、カギをにぎる統計委員会と厚労省との間で膠着状態となって
問題は前進しません。

与野党を超えて、どうすれば、国民が納得できる調査が行えるのか
真摯に検討すべきだ時だと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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