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「原発事故8年 廃炉への遠い道」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島第一原発の事故から8年。現場では溶けた燃料とみられる堆積物が動くことが確認されるなど、廃炉作業はこの1年一歩前進。
しかし内部の全容解明には遠いほか、汚染水の処分など急いで解決しなければならない問題も残されており、長い廃炉の入り口段階。
福島の復興は廃炉の前進が大前提。
8年たった今、道筋をつけておかなければならない廃炉の課題について、水野倫之解説委員の解説。

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事故直後は混乱していた現場も、今は見た目は落ち着いている。
事故を起こした原子炉建屋を見下ろす高台は去年はマスクやくつカバーが必要だったが、今は装備は全く必要なくなり、作業員の負担は減。
放射性の塵の舞い上がりを防ぐ対策が進み、吸い込んで被ばくするリスクが減ったから。
とはいっても建屋から飛んでくる放射線は依然として強く、100m離れていても1時間あたり130μSvと一般人の年間限度に8時間で達する量で、1年前と不変。

1号機は骨組みだけとなった建屋上部にがれきが残り、使用済み燃料取り出しに向けて撤去進む。
3号機は建屋上部に放射性物質の舞い上がりを防ぐドームが設置され、来月以降の使用済み燃料の取り出しにむけて準備。
2号機は今後建屋上部を解体して使用済み燃料を取り出す計画で、ロボットによる調査。

この2号機の内部調査で、先月、大きな進展。

茶色い小石状の塊が調査機器の左右の指でつかむと動き、持ち上げることができた。溶けた燃料が容器内の構造物と混じりあったものとみられる。
細かく散らばった小石状のものはまとめて持ち上がった。
一方で冷えた溶岩のような堆積物は構造物とくっついているのか動かなかった。
事故では原子炉の核燃料が溶けて多くが原子炉を覆う格納容器の底の部分に落下していると見られる。
この溶けた燃料が最も危険でその取り出しは最難関、2021年から本格的に始める方針。
今はその準備期間で、東電は調査機器で初めて堆積物に触れて状況を確かめた。

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今回堆積物が動いたことにどんな意味があるのか。
東電は「小石状のものは取り出せる可能性が高まった。本格取り出しに向けて大きな成果だ」と強調。
確かにこの8年では一番の進展。
以前使った実績ある機器を改良し、早めに再調査にこぎつけた点も評価できる。
東電は今後堆積物の一部を試験的に取り出して、硬さや成分などを調べ、本格取り出しに備える方針。

ただこうした調査は2号機だけ、しかも容器内の1%にも満たない狭い範囲。
ほか3号機は燃料らしき堆積物が見えた程度。1号機に至っては全く確認できず。
溶けた燃料は3基で880トンもあると推定。
このうち溶岩状の堆積物は今回動かず、すべて取り出すことの困難さも。
特殊な機器が必要なことははっきりしたが、具体的にどんな機器が必要なのか見極めるためにも内部のより詳細な情報必要。
しかし調査はこれまで10回程度。原子炉内については全く情報なし。
拙速に取り出しを行って被ばく事故などを起こしてはならないわけで、安全確保のためにも、政府東電は原子炉も含めた容器内の全容解明に向けた調査計画を示していかなければ。

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さらに取り出し前に決めておかなければならないのが、保管方法。
溶けた燃料には核分裂するウランが含まれ、ドラム缶のような大きな容器にまとめて入れると自然に反応が進むおそれがあり、20センチ以下の容器に小分けにして管理。
福島県は廃棄物を県外に持ち出すよう求めているも議論は進まず、当面敷地内で保管するしかなく、政府東電は核物質防護上、建屋周辺の高台での保管が望ましいと。

しかし建屋まわりは処理水をためるタンクで埋め尽くされている。
取り出しを進めるためにはタンクを撤去して保管場所を確保する必要があると政府・東電は説明。
ただこの汚染水、今も増え続け、浄化しても放射性のトリチウムは取り除けず、すでに110万トン分の処理水などがタンクに貯まる。
東電は敷地の制約から137万トン分の貯蔵が限界だとしており、あと数年であふれかねない状況で、溶けた燃料の取り出しにかかわらず、今道筋をつけておかねばならない問題。

この処理水とはどんなものなのか。
原発構内で毎日発生する処理水は分析員が採取して分析室に運ぶ。
処理水は蒸留した上で特殊な薬品を混ぜて計測器でトリチウムの放射線量などを監視。

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トリチウムは、天然にも存在するも原発の運転でも発生し、これまでも各地の原発で基準以下にして海に放出。
政府や東電は、「トリチウムの放射線はほかの物質の放射線よりエネルギーが小さく、体内に取り込んでも速やかに排出されるため、濃度が低ければ健康への影響はほとんど考えられない」と説明。大気中への放出や地下への貯蔵も提示するも、事実上、海洋放出を軸に処分を検討。

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し政府が去年開いた公聴会では、福島の漁業者を中心に放出反対一色。
福島の魚は検査されるも消費は低迷。水揚げは事故前の1割あまり。処理水が放出されればもっと買い控えが進み、壊滅的な打撃を受けると訴えており、処分に向けた議論は進まず。

さらにここにきて、この処理水の処分問題があまり知られていない実態。

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東大のグループが5つの都府県でアンケートを行った結果、放射性物質を含む水が保管されていることを「知らない」と回答した人が40%。都府県別では福島は23%、東京で45%、大阪では55.3%に上る。

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また国が海や大気中に放出する可能性を検討していることについて53%が知らないと回答。福島は32%なのに対し、東京では56%、大阪では67.7%に上り、処分方法を決める議論の前提となる国民への周知が進んでいないことが明らかと。

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この問題は福島の漁業者だけに説明し理解を求めていても状況は変わらない。
漁業者が反対するのは、福島の魚をためらう消費者がいるから。処分方法を議論するためには全国の消費者にもこの問題について詳しく知ってもらい、考えてもらう必要。
公聴会はまだ2か所。政府東電はほかの主要な都市で消費者団体なども交えて議論の検討を。
福島の復興には福島第一原発の廃炉を前進させることが大前提で、そのためにも燃料の取り出しや汚染水処分を急がなければならない。

(水野 倫之 解説委員)

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