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「着陸成功! はやぶさ2の成果とこれから」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

日本が宇宙探査で快挙。探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウへの着陸に成功。直径6mという極めて狭い目標地点をほぼ完璧にとらえ、岩石のかけらも採取できたとみられる。
これで終わらないのが今回の探査。表面を破壊して小惑星内部の物質をとる野心的な挑戦も残されており、今後も大胆かつ慎重な対応が。

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小惑星は46億年前、太陽系ができたときに地球のような惑星になりきれなかった小天体で、当時の環境がそのまま残されている。

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この小惑星へはやぶさ2は、どうやって着陸したのか。
着陸成功のカギは何だったのか?
今後期待される成果について。以上3点から着陸成功の意義について水野倫之解説委員の解説。

着陸運用はきのう朝から始まるはずだったが、直前にプログラムに問題が見つかり5時間遅れ。チームは降下速度をはやめることでスケジュールを挽回。けさ早くには予定通り45mまで接近。
ただ着陸点は直径6mの極めて狭い円内。
あらかじめ地表に投下しておいた目印を視野にとらえながら降下。
最終アプローチで姿勢制御エンジンを噴射して斜めに飛行して円内に着陸。
パチンコの玉のような弾丸を発射して岩石のかけらを採取し、即座に飛び立った。

着陸直後の着陸点周辺の画像には黒くなった部分が。ちょうど目標の円のあたりで、着陸後に上昇するための噴射の跡とみられ、はやぶさ2が円の中に着陸したのは確実とチームは見ている。

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太陽系の天体で、6mという狭い範囲にピンポイントで着陸できたのは世界でも初めての快挙で、日本は将来の惑星探査に向けて重要な技術を獲得できたと言える。

このように今回ほぼ計画通りに着陸が成功したのは、トラブルが多発した初号機の苦い教訓をいかして、経験や技術を継承し、安全最優先の方針を徹底させたことが功を奏した。

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1号機では
▽1回目の着陸で不時着。
▽2回目は着陸したものの弾丸が発射されなかった。
▽さらに燃料が漏れて機体が回転し通信ができなくなり、一時行方不明に。
事前の備えや判断が甘い面もあったともいえる。
そこで今回は1号機の運用経験者が、当時起きたトラブルや対応策を一覧表にまとめ、チーム全員で経験や技術を共有。またトラブル対応訓練を繰り返し行うなどして、安全が確認されない限り前には進まない方針を徹底。

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その一つが着陸延期の判断。

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当初去年10月に100m四方の平たんな場所を探して着陸するという今から思えば楽観的な計画。1号機が着陸した小惑星イトカワを含めてこれまで観測された小惑星のほとんどに平坦な広い場所があったことから、リュウグウにも当然あると予想。
ところがリュウグウは数m以上の岩だらけで、広くて平坦な場所がない。
はやぶさ2は周りに60センチ以上の岩があると機体が損傷するおそれがあり、着陸できない。

このためチームは安全最優先の方針に従って一旦立ち止まることに。
チーム内で反対はなかった。

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その後着陸場所を探しは、まずは相手をよく知ること。
岩の一つ一つの高さや形の見直しを行い、立体地図を何回も作りなおしました。
その結果平坦な場所を見つけたが、そこは幅が6mしかなかったというわけ。
ただここに降りるためには真ん中を狙ったとしても半径分の3mの誤差しか許されず、機体誘導の精度を大幅に向上させなければならない。

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そこでチームは次におのれを知ることに力を注ぐ。
12個ある姿勢制御エンジンすべての噴き方のばらつきを調べ上げ、最終アプローチでそれぞれがどのタイミングでどれだけ噴射するのかを細かく決めたプログラムを作り、飛行精度を2.7mまで高めることができた。

しかしチームが最後まで心配したのは、本当に岩石のかけらがとれているのかという点。
1号機は弾が発射されなかった。打ち上げからすでに4年がたっており、発射装置が作動するか確証がなく、チームは先月、地上にある予備の装置で実験を行い
装置の機能に問題ないことが確認。
さらに今回チームは地表面に接する筒状の装置に折り返しをつけ、着陸の瞬間に砂などが付着し回収できることも実験で確認しているということで、前回よりもかなり多い岩石のかけらがとれていることは間違いないと説明。

はやぶさ2は来年末に地球に帰還する予定だが、ミッションはこれで終わりではない。太陽との位置関係から着陸が可能な今年7月までの間に、より大きめの砲弾を撃ち込んで地表面を砕いてクレーターを作り、再び着陸して小惑星内部の物質を採取することも計画。
これは太陽光による風化が進んでいない試料が得られるメリットがある反面、飛んでくる破片で機体が損傷する恐れもあり、今回よりもかなり難しい挑戦。
今回同様に地表面の検証を十分行って破壊する場所を決めたうえで、破片を確実によけることができるかリハーサルを繰り返すなどして慎重に対応していくことが求められる。

では、今回採取したかけらからどんな成果が期待されるのか。
最も注目されるのは、地球上の生命誕生のなぞに迫る成果。
地球上の生命は、有機物や水を含む小惑星が隕石となって地球に運ばれ、そこから生命が誕生した、つまり地球上の生命は宇宙からやってきたとする説が注目。

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そしてこれまでの探査で、リュウグウ表面の色の解析から炭素が多く存在していることがわかっているほか、リュウグウの表面からの光を分析したところ、全域に水がある可能性も浮上。研究者は表面より少し深いところに水が残されている可能性があるとみる。
今回採取したかけらに有機物や水が含まれていれば、生命誕生のメカニズムを解明する手掛かりが得られる可能性があるわけ。

日本の探査に刺激を受け、アメリカもNASAが探査機を打ち上げ、先日別の小惑星に到着して観測を始めたほか、ヨーロッパ宇宙機関も探査計画を立ち上げる方針を示すなど、今後この分野の競争は激しくなりそう。
ただ今のところ日本が世界をリード。
今回はぜひすべてを成功させて、その科学的成果でも世界をけん引していくことを期待。

(水野 倫之 解説委員)


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