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「馬毛島 米軍機訓練移転問題を考える」(時論公論)

増田 剛  解説委員

鹿児島県の種子島の沖合いにある馬毛島(まげしま)。
日米両政府は、この島を、現在、硫黄島で行われているFCLP・在日アメリカ軍による空母艦載機の離着陸訓練の移転候補地としており、今、防衛省は、移転に向けた現地調査を進めています。
その一方で、地元の市長や町長は、訓練に伴う騒音や安全性に加え、島の軍事基地化への懸念などから、慎重な姿勢を示していて、住民の間にも反対論が根強くあります。日米両政府による訓練移転計画の内容とその狙い、そして、地元の不安について考えます。

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解説のポイントです。
まず、アメリカ軍による空母艦載機の離着陸訓練・FCLPとは何か。その内容や歴史的経緯を押さえた上で、移転候補地となった馬毛島とは、どのような場所なのか。そして地元の自治体や住民は、今回の移転計画をどのように受け止めているのかをみていきます。

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今から8年前の2011年6月、民主党政権のもとで、日米の外務・防衛の閣僚協議が開かれ、安全保障に関する共同文書が取りまとめられました。この中で、在日アメリカ軍が現在、硫黄島で行っているFCLPの移転候補地として、鹿児島県の馬毛島が明記されました。
FCLPとは、アメリカ軍の空母に搭載される戦闘機が、陸上の滑走路を空母の飛行甲板に見立てて、タッチ・アンド・ゴー、離陸と着陸を繰り返す訓練です。
甲板の長さが300メートル程度しかない空母への離着陸は、高度な技術が必要とされるため、アメリカ軍は「パイロットの練度を維持するためには、一定の頻度で訓練を行う必要がある」としています。ただ、空母が港に入っている時は、甲板上での訓練ができないため、陸上の滑走路を利用してFCLPが行われるのです。

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元々、FCLPは、空母艦載機の拠点だった神奈川県の厚木基地で行われてきました。しかし、周辺住宅地の騒音問題が深刻化したため、1991年以降、厚木から1200キロ離れた、小笠原諸島の硫黄島で行われるようになりました。

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その後、在日アメリカ軍の再編に伴い、空母艦載機の拠点は、厚木基地から山口県の岩国基地に移りましたが、硫黄島との距離は1400キロとなり、厚木と比べてさらに遠くなりました。一方で、岩国と馬毛島の距離は400キロと、3分の1足らず。馬毛島でFCLPを行うことができれば、パイロットの負担は軽くなりますし、燃料も少なくて済みます。このためアメリカ軍は、パイロットの安全性の向上やコスト面での改善を理由に、馬毛島へのFCLP移転を強く求めていました。
では、アメリカ軍が注目する馬毛島とは、どのような場所なのか。
馬毛島は、鹿児島県の種子島の西12キロの海上にある、面積8平方キロの小さな島です。世界自然遺産に登録されている屋久島から40キロの距離にあります。ピーク時の1960年には、500人余りの住民が居住していましたが、その後、人口は減少し、1980年、ついに無人島となりました。現在は、島の面積の99%以上を東京の開発会社が所有しています。

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開発会社は2007年、FCLPの受け入れ先として名乗りを上げました。以来、防衛省は、開発会社との間で、島の買収交渉を進めてきました。関係者によりますと、防衛省は当初、土地の価格をおよそ45億円と鑑定。しかし会社側は、島に独自に滑走路を整備するなどの投資をしていたことを理由に、数百億円での買い取りを求め、折り合いがつきませんでした。ところが最近になって、両者は歩み寄り、およそ160億円で買収することで大筋合意します。先月9日、確認文書を交わしました。
ただ、買収額が鑑定額よりも大きく膨らんだことについては、野党を中心に、これを問題視する声も出ています。これに対し、ある防衛省幹部は「現在、FCLPを行っている硫黄島が本土から遠く離れているため、アメリカ軍から、より近い訓練施設の整備を強く求められていた。日米同盟に基づく両国の信頼関係を維持・強化するためには、必要な措置だ」と話しています。
では、日米両政府は今後、馬毛島をどのように活用する考えなのか。
防衛省は、買収交渉の大筋合意を受けて、先月30日、馬毛島の現地調査を開始しました。調査は「物件」「環境」「気象」「測量」の4つの観点から実施され、来月末までに完了する予定です。
その上で、調査結果に問題がなく、正式に買収契約が成立すれば、FCLPの馬毛島への移転を決定したい考えです。さらに、政府は、島にアメリカ軍と自衛隊が共同で使用できる施設を整備する方向で調整を進めています。つまり、政府は、馬毛島を、単にアメリカ軍の訓練の移転先としてではなく、南西諸島の有事や大規模災害に備えた、物資や人員の集積拠点とすることまで視野に入れているのです。
ただ、馬毛島への日米両政府の前のめりともいえる姿勢に対し、地元の自治体は、困惑を隠せません。
種子島にあり、馬毛島を管轄する西之表市の八板俊輔市長は、先月、説明に訪れた原田防衛副大臣に対し、島の買収契約が結ばれたかどうかを質問し、まだ契約が成立していないことを確認しました。

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八板市長は「まだ契約が成立していないのに、馬毛島への移転が決まったようにいわれるのは、不本意だ。私は、馬毛島には、FCLP以外にも、ふさわしい役割があると考えている。島には、マゲシカなどの希少な動植物が生息し、歴史的・文化的遺産もあるのに、これが無視されている。無人島という言葉のイメージだけで判断されるのは残念だ」と、FCLP移転に慎重な姿勢を示しています。
実際、西之表市は、馬毛島の活用法に関する検討チームを立ち上げ、すでに報告書をまとめています。

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この中では、▽種子島になじみの深い宇宙関連事業の展開、具体的には、宇宙から帰還する機体の着陸場の建設や▽将来の自然保護区設定を見据えた生態調査を行う研究施設の設置などを提言しています。八板市長は、こうした市の取り組みが無視され、FCLP移転を前提にした買収が行われるのであれば、国に対し、島の払い下げを求めることも考えるとしています。
また、屋久島町の荒木耕治町長も「戦闘機が大きな音を立てて、近くを飛んでいくという状況は、世界自然遺産の屋久島には、そぐわない。移転には反対だ」とコメントしています。

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ただ、馬毛島の近隣の住民がFCLPの移転に反対一色かというと、必ずしもそうではありません。馬毛島から12キロの種子島では、騒音や安全性への懸念に加え、「馬毛島が戦争の訓練所になるのではないか」と反対する住民がいる一方、訓練移転に伴い、自衛隊やアメリカ軍の施設が建設されることで、人口の増加や経済効果を期待できるとして、賛成する住民もいます。過疎化に悩む種子島にとっては、「背に腹は替えられない」ということでしょう。

日米安全保障体制の渦の中で、漂流するかのように見える馬毛島の姿は、防衛政策の遂行に伴って生じる様々なひずみやあつれきを、一部の地域の住民が背負っている日本の現状を象徴しています。
国の安全保障の必要性と、実際にそれを支える地域住民の理解とを、どう両立させていくのか。政府は、安全保障をめぐって、地域に多様な声がある現実を直視し、議論や結果に誠実に反映させていく責任があることを自覚すべきだと考えます。

(増田 剛 解説委員)

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