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「豚コレラ 感染拡大をどう防ぐか」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

豚やイノシシが感染する、家畜伝染病「豚コレラ」の拡大が止まりません。
去年9月に26年ぶりに岐阜県の農場で感染が見つかった後、次々と感染は広がり、先週には愛知や大阪、 長野など、4つの府県に飛び火しました。
政府は感染の拡大を止めるために、豚の殺処分を進めていますが、感染は野生イノシシにも広がっており、 ウイルスの封じ込めは難しくなっています。
今日は、感染が広がった背景を整理し、今後の対策について考えます。
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まず、豚コレラとはどういう病気かです。
豚コレラは、豚やイノシシ特有の感染病で、糞や唾液を通じて、極めて強い感染力を持ちます。人はその肉 を食べても感染しませんが、豚は高い熱や下痢などの症状を示し、多くは死に至ります。
アジアを中心に世界で感染が広がっており、日本では1992年を最後に感染が見られていませんでした。
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その豚コレラが新たに見つかったのは、去年9月です。岐阜県岐阜市の養豚農家で1例目が見つかったあと 、県内の農場や研究所など9ヶ所に次々と広がりました。
感染がみつかった農場などでは、豚の殺処分を進め、拡大の防止に努めましたが、先週6日には、県を超えて愛知県豊田市の農場に飛び火。その農場が大阪府や長野県などの農場に子豚を出荷していたため、出荷先でも次々と感染がみつかり、発生は一気に、1府4県にまで拡大しました。
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人に感染しないとはいえ、豚コレラは国内の養豚産業や豚肉の供給に大きな影響を与えます。今は豚肉の価格も落ち着いていますが、今後、感染が拡大すれば、その影響は私たちの食卓に及びかねません。まさに今はウイルスを封じ込める瀬戸際と言えます。
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それにしても、なぜこれほど広がったのか?3つの要因があると思います。

一つは、今回のウイルスが、感染がわかりにくい弱毒性だったことです。国内で過去に流行した豚コレラは、症状が急速に悪化し、5日ほどで死んでしまう強毒型でした。
ところが今回のウイルスは、毒性が弱く、一見しただけでは、感染を気づきにくいタイプです。豚がバタバタと死んでいけば、事の重大さにすぐに気がつくのでしょうが、今回は感染しても比較的元気だったと言います。
しかし毒性が弱くても、感染する力は強く、感染した豚はウイルスを吐き出し続けます。気がついたときには広範囲に広がっていました。
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また、イノシシの間に感染が広がっていることも、対応を難しくしています。
今回の感染は、中国やモンゴルで発生しているウイルスと遺伝子が近く、海外から侵入したウイルスに野生イノシシがまず感染し、それが農場の豚に伝播しているという見方が有力です。

豚コレラウイルスは、冷凍なら4年、餃子などの加工品でも冷蔵なら3ヶ月近く感染力を持ち続けます。発生地域からの、持ち込みは禁止されていますが、手荷物などで違法に持ち込まれた加工品が、家庭や行楽地などで廃棄され、それを食べたイノシシが感染した可能性は否定できない。そう専門家は見ています。
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岐阜県や愛知県では、捕獲されたり死んだイノシシを調査したところ、6頭に1頭が感染していることが分かりました。すでに高い濃度で、豚コレラが蔓延していると考えざるを得ず、感染したイノシシが広範囲を動き回っている可能性があります。
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さらに、問題だったのは農場関係者の対応です。家畜を飼育する農家や施設には、病気の侵入を防ぐ衛生管理基準を守ることが、法律で求められています。しかし岐阜県の農場や施設では、十分守られていませんでした。

例えば、畜舎やエサの保管場所などは、衛生管理区域として設定し、出入り口での消毒を徹底すること。また従業員も、管理区域専用の衣服や靴を用意するとされています。しかし、専用の服や靴を用意していなかったり、区域の中と外とで、重機などを洗浄せずに使い回していた農場や施設がありました。

また、ネズミやカラスなどの侵入を防ぐ柵や網を設置することが求められていますが、柵がなかったり、野良猫が農場に侵入して、死んだ豚などを食べたりしていた農場もありました。
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もちろん、管理基準を徹底していなかったことと、ウイルスの侵入に関連があるかは、はっきりしていません。
しかし、感染が疑われる症状が出ていたにも関わらず、子豚を長野や大阪などの農場に出荷し、感染を広げてしまった愛知県の事例など、近隣で病気が発生している中での対応とは思えない事態が相次いでいます。
気が緩んでいると批判されても仕方ないでしょう。

ウイルスを根絶するためには、病気の早期発見、早急な殺処分、そして何よりウイルスを農場に入れないことが、大前提です。今回はこの基本的なことが出来ていなかったことになります。
農林水産省や岐阜、愛知両県は、なぜこうした事態を招いたのか、徹底的に検証する必要があります。
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その上で、これ以上の、感染拡大を防ぐための方策です。焦点となっているのはワクチンの使用です。
飼育されている豚に、豚コレラのワクチンを打てば、体の中に抗体ができて感染しなくなり、結果的にウイルスの拡散を止めることができます。日本では、国内の豚コレラ対策として、1980年代にワクチンの使用を始め、ウイルスを根絶した実績があります。
今回感染が重なった岐阜県では、農家の不安が高まっており、その使用を国に強く求めています。

しかし、農林水産省は、今はワクチンを使用する段階ではないと、反対しています。一旦ワクチンを打ち始めれば、ウイルスを根絶するまでに、何年もかかること。まずは農場での衛生管理の徹底が先で、ワクチンは最終手段だという認識です。
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確かに、ワクチンを使用すれば、費用も膨大となり、病気が蔓延しているとして豚肉の輸出も難しくなります。ここは、慎重な判断が必要でしょう。
一方で、イノシシについては徹底した対応を急ぐべきだと思います。

岐阜や愛知では、罠を仕掛け、イノシシの捕獲作戦に乗り出していますが、ウイルスは罠をかいくぐって効果は出ていません。
ただ、いまのところ、二つの県以外では、豚コレラに感染したイノシシは見つかっていません。

農林水産省では、イノシシの罠を増やして捕獲を強化するとともに、新たにワクチンなどを混ぜたエサを、生息場所などに投与する案を検討しています。

イノシシの間にウイルスが蔓延していれば、衛生管理を徹底しても、農家の不安は消えません。農林水産省としては、野生イノシシについてはワクチンの使用も含めた、徹底した対応の検討を進めて欲しいと思います。
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さて、お隣の国、中国では去年8月、豚コレラとは別に、それ以上の脅威とされるアフリカ豚コレラに感染した豚が、アジアで始めて見つかり、あっという間に全土に広がりました。殺処分した豚は、半年で100万頭近くに及びます。
アフリカ豚コレラには、有効な治療薬もワクチンもなく、日本に侵入すれば、かつて、宮崎で発生して大きな被害をもたらした家畜伝染病、口蹄疫以上の影響が広がると、農林水産省では警戒しています。
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中国と日本、互いの交流はますます盛んになっています。成田空港などでは観光客がソーセージや餃子などの豚肉製品を持ち込んでいないか監視を強めていますが、十分ではありません。
岐阜や愛知での豚コレラの封じ込めと同様に、新たなウイルスに対する警戒も怠るべきではないと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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