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「イスラム革命40年 イランの今後は」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■中東情勢のカギを握る国イランは、きょう、1979年の「イスラム革命」から、ちょうど40年の記念日を迎えました。首都テヘランで行われた記念式典には、数十万人の市民が集まりました。演説に立ったロウハニ大統領は、「イランは、40年前とは比べられないほど強大な国になった。アメリカが制裁をかけてきているが、われわれは結束し、必ず困難を乗り越える」。このように訴えて、イランを敵視するアメリカ・トランプ政権の圧力には屈さず、イスラム体制を堅持してゆく決意を示しました。今夜は、内外に多くの難問を抱え、危機に直面するイランが、今後、どうなるのかを考えます。
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■解説のポイントは、▼イランのイスラム体制とはどういう体制か。▼イランが直面している内外の難問は何か。▼そして、イスラム体制の今後、とくに、アメリカの圧力にどう向き合うかです。
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■最初のポイントから見て行きます。
1979年2月、世界を驚かせた「イラン・イスラム革命」。東西冷戦のただ中、アメリカを強力な後ろ盾とするパーレビ国王の独裁体制が、民衆の抗議行動によって倒され、イスラム教シーア派の指導者ホメイニ師が亡命先のパリから帰国。その教えに則り、宗教指導者を頂点とする政教一致の体制に変わりました。
女性の服装、文化、娯楽、言論・表現の自由などが厳しく規制される一方で、大統領や議会を、国民が直接選挙で選ぶなど、民主的な制度も備えた、非常にユニークな体制です。
革命を機に、イランは「親米」から徹底した「反米」へと、180度舵を切りました。同じ79年、革命を支持する学生たちが、アメリカ大使館を占拠して、外交官など52人を、444日間、人質にする事件が起きました。この事件が、アメリカに与えた衝撃と不信感は大きく、両国は、今日まで国交を断絶したままです。
イランは、イスラエルとも激しく敵対しています。イスラム教徒の土地を占領しているとして、国家として認めず、軍事的な緊張も続いています。
一方、イランは、革命をアラブ諸国にも輸出しようとしたため、王制を敷くサウジアラビアなどの強い警戒を招き、今日に至る対立の背景となっています。
イスラエル、サウジアラビアと同盟関係にあり、両国に強く肩入れしているアメリカのトランプ大統領が、イランを目の敵にしている背景には、こうした事情があります。トランプ政権は、去年、「イラン核合意」から一方的に離脱し、イランに厳しい経済制裁を加え、圧力を強めています。
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■このような厳しい対外関係の影響で、イランのイスラム体制は、今、かつてない危機に直面しています。
最大の難問は、トランプ政権による経済制裁が、アメリカ以外の外国企業も対象としていることから、イラン経済に大きな打撃を与え、国民の暮らしが非常に厳しくなっていることです。とくに、イランの国家収入の柱である原油の輸出が制裁の対象となり、輸出と生産に強いブレーキがかかりました。原油生産量は、現在、日量でおよそ280万バレル、制裁が発動される前の4分の3にまで減りました。外国企業はイランとのビジネスを控えるようになり、イランの通貨リアルの価値も3分の1に暴落しました。その影響で、物価が高騰し、インフレ率はおよそ40%。中でも食料品の価格は、2倍から3倍に跳ね上がり、医薬品も手に入らなくなるなど、国民の生活を直撃しています。また、若者の失業率は、30%を超え、大学を卒業しても仕事に就けない若者が大勢います。賃金の未払いも起きており、政府の無策ぶりに抗議する民衆のデモが、国内各地で頻発しています。
さらに、革命後に生まれた世代が、人口の3分の2を超え、若者たちは、インターネットやSNSを通じて、欧米の自由や豊かさにあこがれを抱くようになっています。困難を打開できず、窮屈な今の体制を疎ましく感じる人々も少なくないと見られます。イランの将来に悲観して、有能な人材が国を出る動きも広がっています。
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■ここからは、危機に直面したイランのイスラム体制が、今後どうなるのかを考えます。
トランプ政権は、去年、核合意から一方的に離脱した後、イランの指導部に対し、▼ウラン濃縮などの核開発計画の完全な停止、▼弾道ミサイル開発の停止、▼シリア内戦からの撤退など、いわば、「全面降伏」を迫るような要求を突きつけました。
イランを再び交渉のテーブルに着かせ、これまでの核合意にかわる「新たな合意」を受け入れさせる狙いがあります。さらに、トランプ政権が描く究極の目標は、制裁によってイランを経済的に締め上げて、国民の間に不満を充満させ、イスラム体制を内部から崩壊させることにあると見られます。
トランプ大統領は、今月5日の一般教書演説でも、イランは、「世界最大のテロ支援国家」だと断じたうえで、その脅威に対抗するため、「あらゆる行動をとる」と強調しています。
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■こうしたトランプ政権の圧力に、イランはどう向き合おうとしているでしょうか。
イランは、核合意からは離脱せず、むしろ、これを確実に順守し、核合意を支持しているアメリカ以外の国々、具体的には、中国、ロシア、ヨーロッパの国々との経済関係を維持することに全力を傾ける方針と見られます。すでに、ヨーロッパの多くの企業が、アメリカの市場から締め出されることを恐れ、イランとのビジネスから撤退しています。
そうした中、先月末、イギリス、フランス、ドイツの3か国は、各国の企業がアメリカの制裁を回避してイランと取り引きできるようにする新たな貿易決済のしくみを立ち上げました。イランは、この新たなしくみに、できるだけ多くの外国企業が参加してくれることに期待をかけています。
今のイランの指導部を支えているのは、アメリカとの対立で、正しいのはイランだという自負です。イランとしては、国連安保理決議のお墨付きもある核合意を完全に守っており、核合意から一方的に離脱し、国際的に孤立しているのは、アメリカの方だという思いがあるだけに、トランプ政権が求める「新たな合意」を目指す交渉に応じるつもりはないと見られます。
イランの指導部は、来年11月のアメリカ大統領選挙で、トランプ大統領が敗れ、1期目で退場することに望みを託し、それまで辛抱強く困難に耐える戦略ではないか。いよいよ、国民生活が切羽詰まれば、食料の配給や物価の統制など、「戦時経済」の導入も考えているのではないか。多くの専門家は、そのように見ています。
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■革命当初、短命で終わるだろうと言う見方もあったイランのイスラム体制が、これまで40年も続いた背景には、次のような要因があったと指摘されます。▼超大国アメリカとの対立や、隣国イラクとの戦争を持ちこたえてきたイラン国民の強い愛国心と忍耐力。▼時には原則にこだわらず、現実的な決断を下した指導者の柔軟性。▼そして、イランが、もともと豊かな産油国で、教育水準も高く、経済的に自立できる国だったこと。
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これらの特質に加えて、現在のイランには、有力な反体制運動の指導者がいません。このため、イスラム体制は、まだしばらく続くだろうと言うのが、多くの専門家の見方です。
ただし、もし今後、敵対するアメリカなどの挑発に乗って軍事衝突を招くならば、体制にとって命取りになります。その点では、国の最も重要な意思決定を行う最高指導者の判断にかかってきます。2代目の最高指導者ハメネイ師は、今年、在任30年、そして80歳を迎えるだけに、次の最高指導者が誰になるかが、非常に注目されます。
イスラム体制の堅持を至上命題とするイラン、当面は、制裁による経済危機をどう切り抜けるのかを焦点に、トランプ政権との「がまん比べ」が続くことになると考えられます。

(出川 展恒 解説委員)

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