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「日独首脳会談 『自由貿易』と『国際協調』」(時論公論)

二村 伸  解説委員
増田 剛  解説委員

(二村)
ドイツのメルケル首相が昨日と今日の2日間、日本を訪問しました。アメリカのトランプ政権が自国第一主義と保護主義を推し進める中で、自由貿易と多国間主義を標榜する日独両国の連携がこれまで以上に重要になっています。今月1日には、自由貿易の象徴ともいえる日本とEUの経済連携協定が発効しました。アジアとヨーロッパの経済を牽引する日本とドイツはどのように連携していくのか、また6月のG20サミットに向けて議長国日本はどう外交を展開していくのか、政治・外交を担当する増田委員とともに考えます。

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解説のポイントは、▼日独首脳会談の成果と、▼日本とEUのEPA・経済連携協定発効の意味、▼そしてG20への課題、以上の3点です。

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まず、きのう行われた日独両首脳の会談を増田さんはどう評価しますか。

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(増田)
はい。会談では、▽日EUのEPAの発効を受けた、経済面の関係強化で合意しました。そして▽自由で開かれた経済システムの維持に向けた連携を確認するとともに、▽G20大阪サミットの成功に向けて協力していくことで一致しました。G20で安倍総理は議長を務めます。メルケル首相は、EUの要であるドイツのリーダーです。ともに国際的リーダーシップを発揮できる立場にある二人の首脳が、自由貿易と国際協調の重要性で足並みをそろえた意義は大きいと思います。

(二村)
メルケル首相の滞在は26時間あまりという駆け足の訪問でしたが、片道12時間かけて日本だけを訪れたのは、日本を重視している姿勢の表れだとドイツ政府関係者は述べています。訪問自体に強いメッセージがこめられているというのです。それは、保護主義に立ち向かう日独両国が密接で強固な関係にあるというメッセージです。

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メルケル首相は今年6月にもG20サミット出席のために来日しますが、国際会議の合間ではない公式訪問の場で、二国間関係や国際情勢について意見交換することは重要です。アメリカのトランプ大統領就任以来、自由と民主主義が脅かされていることに首相は強い危機感を抱き、価値観を共有する日本との連携強化の必要性を感じているのです。
さらに、中国一辺倒だった姿勢の変化も、日本との関係強化に乗り出した背景にあります。

(増田)
メルケル首相は中国へは何度も訪問していますが、今回は日本だけの訪問でしたね。

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(二村)
メルケル首相は、就任から13年と2か月で中国に11回と、毎年のように訪問する一方、日本へはわずか4回だけで、日本を軽視しているのではないかといった声も上がっていました。輸出国のドイツにとって巨大な市場を抱える中国との関係強化は不可欠で、自動車メーカーをはじめ多くのドイツ企業が中国に進出しました。しかし、この数年、中国資本によるドイツ企業の買収が相次ぎ、技術の流出への懸念も高まるなど対中警戒論が強まり、それが日本を再認識する結果となりました。つまり、アメリカや中国との関係をはじめ国際環境の変化が日本との連携強化に向かったのです。AIなどの技術協力も国際競争に生き残るために不可欠で、日独の思惑が一致した、お互いを必要としたといえます。今月1日には、日本とEUのEPAが発効し、貿易額が世界の4割近く、GDPの3割を占める巨大な自由貿易圏が誕生しました。自由貿易の推進役であるメルケル首相が協定発効後、EUの首脳の中で最初に日本を訪れた意義を、ドイツ側は強調しています。

(増田)
日本にとっても、このEPAは大きな意義があります。

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協定により、日本側は94%、EU側は99%の品目で関税が撤廃されます。日本の消費者は、ヨーロッパ産の食材、例えば、ワインやチーズを安く買えますし、ヨーロッパへの日本酒や和牛、自動車の輸出にも追い風になるでしょう。投資やサービスの分野でも自由化が進みます。政府は、このEPAによって貿易や投資が拡大し、日本の実質GDPをおよそ1%押し上げ、雇用も29万人増えると試算しています。

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日本には、このEPAをトランプ政権へのけん制に使う思惑もあります。日本は近く、アメリカとの貿易交渉を開始します。アメリカは自国農産物の輸入拡大を求めていますが、今回、ヨーロッパ産農産物の関税が下がることで、TPPを離脱したアメリカは、対日輸出で一段と不利になります。日本としては、これをテコに、トランプ政権の保護主義的な圧力に歯止めをかけたいところです。
今回のEPAを国際協調と自由貿易体制の再構築につなげられるかどうかも課題です。

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安倍総理は施政方針演説で、「今こそ、私たちは自由貿易の旗を高く掲げなければならない。自由で公正な経済圏を世界に広げることが日本の使命だ」と宣言しました。これを掛け声だけに終わらせないためにも、ドイツをはじめ自由貿易を志向する国々を巻き込んだ、緻密な外交戦略が求められています。
さらに首脳会談では、G20サミットの成功に向けた協力を確認しました。両首脳は、自国第一主義に傾くトランプ大統領らに自由貿易と国際協調の重要性を説き続ける責任があると思いますが、どうでしょうか。

(二村)
メルケル首相もその点を強く意識しています。
アメリカだけでなくEUもポピュリズムが蔓延し、大きく揺れています。イギリスはEUとの協調に背を向け離脱を選択、イタリアやハンガリーなども国際協調に反旗を翻し、排他的な動きが広がっています。さらに中国とロシアは力で国際秩序を塗り替えようとしています。
そうした時代だからこそ、価値観を共有し、世界第3、第4の経済規模の日本とドイツの協力が欠かせず、G20議長国の日本とともに保護主義に立ち向かうという意思が、ドイツ側に感じられます。

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(増田)
今、世界を見渡すと、国際協調に背を向け、偏狭なポピュリズムと自国優先主義を掲げる政治家や政党が支持を広げています。民主主義的なルールによる束縛を嫌い、権威主義的に振舞う指導者もいます。こうした中で、私が興味深く思う事実は、1930年代、ともに民主主義の崩壊を経験して軍国主義に走り、いわば世界を敵に回した日本とドイツが、現在、国際協調と自由貿易のけん引役たらんとしていることです。日本とドイツは、民主主義の瓦解を経験し、第二次大戦後、これを復興させました。戦後の国際秩序の恩恵を最も受けたのも、この両国です。さらに安倍総理は、トランプ大統領に最も信頼されるリーダーだといわれ、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領との関係も比較的良好です。だからこそ、日本は、権威主義的な体制がはらむ問題点と国際協調の重要性を積極的に発信していく、歴史的かつ政治的な責務があると思います。G20大阪サミットは、その絶好の機会となるはずです。一筋縄ではいかない相手がそろいますが、日本外交の真価が問われる重大な局面となるでしょう。

(二村)
保護主義とナショナリズムの高まりがどのような結果を招くか、ドイツも日本も歴史から学んできました。とはいえ、国際秩序が揺れ動く中で自由貿易や国際協調体制を維持することは容易でなく、日独の連携にも限界があります。メルケル体制も、かつてのように磐石ではありません。また、両首脳はともに1954年生まれの同年齢ながら政治信条は異なり、必ずしも肌が合う関係ではありませんでした。今の危機を脱するためにいかに信頼関係を築き、アメリカや中国と対決ではなく新しいルール作りにひき込むか、日独双方の課題です。そしてドイツとの協力関係の強化は、日本の外交や経済の幅を広げることにつながるだけにG20を実のあるものにすることができるか、問われることになります。

(二村 伸 解説委員 / 増田 剛 解説委員)

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