NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「ずさん次々 統計不正問題 ~国会は解明できるか?」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

ずさんな実態が次々と明らかになる厚生労働省の統計不正問題。
連日のように、新たな問題が出てきて
厚生労働省の失態は、目を覆わんばかり、といって過言でないと思います。

190201_00mado.jpg

《 何が焦点か 》
▼まず、この問題、
統計そのものも、そしてその問題を解明するための調査についても、
不信や混乱が広がっています。

▼また、国会では、与野党が、この問題を厳しく追及していますが、
特に野党側は、アベノミクスの成果、つまり、賃上げとの関連も問うています。

▼そして、この問題にキチンと取り組むには
とにかく早く、実態を解明・把握する必要があります。
国会論戦の重要性が増していると思います。

《 失態どこまで? 》
まず、統計不正問題の現状です。

190201_01_5.jpg

最初に明らかになったのが、毎月勤労統計の不正問題です。
企業が払っている賃金などのデータが、本来とは違う方法で集計されていた。
このため、平均賃金が本来より低く計算されて、
これを基準にしている雇用保険や労災保険などの手当てが本来より少なくなった。
影響はのべ2000万人。
必要な追加給付は600億円に及ぶと見られています。

さらに、これとはまた別の重要なデータ、
賃金構造基本統計というデータがあるんですが、
これについても調査方法でルール違反があった。
しかも、この違反を隠そうとした疑いが出ている。
さらに、問題なのは、毎月勤労統計の過去のデータのうち
永久保存の対象とされている一部のデータが勝手に廃棄されていたことがわかった。

データに不正があった以上、これから過去の分を修正しないといけないんですが、
それもできない、ということになってしまう。
重要な経済データが、なくなってしまう。
先進国としては、考えられない事態が起きているわけです。

では、こうしたことがなぜ、起こったのか
厚生労働省は、外部の有識者を中心にした
特別観察委員会というものを作って調査をし、
その結果、「組織的隠蔽はなかった」という報告がでたんですが、
実はこれにも、問題があった。
関係者に対する聞き取り調査の大半、
その7割は身内の厚労省の職員が行っていた。
その上、報告書の原案も、厚労省が書いていた。

190201_01_10.jpg

これでは、とても第三者による、中立の調査とはいえない。
ということで、強い批判が巻き起こって
特別監察委員会は現在、異例の再調査に追い込まれています。

このように、事態の解明ひとつ、なかなか進まない。
そこで、大きな役割を果たすことが求められているのが国会、というわけです。

《 アベノミクスとの関連は? 》

その国会では、きのうから代表質問が始まりました。
ここで野党側が、今回の問題と関連づけて取り上げているのが
アベノミクスの成果、つまり、賃上げとの関係です。

国民民主党の玉木代表は
「今回の問題発覚を受けて、統計が再集計された結果、
去年6月の名目賃金が下方修正された。
21年5ヶ月ぶりの高い伸び率だった、という主張は撤回するのか」
と質しました。
これについて安倍総理大臣は、
「去年6月の数値のみを示してアベノクスの成果だと強調したことはない」
とこたえました。

190201_02_2.jpg

なぜ、こういうやりとりが出てくるかといいますと、
実は、野党側は、去年の実質賃金の伸び率が、
修正の結果、大幅なマイナスになる可能性があると指摘しているんです。

というのも、今回の統計不正は2004年から15年間も続いている。
しかし、なぜか、厚生労働省は、
2018年からひそかに、データに修正を加えて発表をし始めた。
その結果、2018年は、前年に比べて賃金の伸び率が高くなった。

190201_03_6.jpg

つまり、去年、賃金が大きく伸びて、
アベノミクスの成果が出た、と政権が誇っていたのは、
結局、この、ひそかに行われたデータ修正のおかげではないか、
そう、見ているわけです。
この見方を裏付けるように、
厚生労働省が、先日、発表した問題発覚後の行った再集計の結果では、
年間の伸び率はマイナス0.05%に、下方修正されました。

さらに、野党側が、これをもっと本来の形に近づけて試算したところ
マイナス幅は、もっと拡大して、
マイナス0.53%と、大きく悪化することになった、
と指摘しているわけです。

そして、こうなると、意図的な“賃上げ偽装”と呼ぶべきではないか、
そう主張しているわけです。
ここは景気判断にもかかわる重要な問題ですので、
もっと議論を深めてほしいと思います。

そして、もう一つの論点は、政権としての、この問題をめぐる対応のありかたです。

190201_04_4.jpg

そもそもこの問題を根本厚生労働大臣が把握したのは
去年暮れの12月20日です。
翌日の21日には、その問題であることがわかった統計の
10月分の“確報”を、そのまま発表しました。

さらに、この統計などを前提として組まれた
新年度の予算案も、この日、閣議決定されました。
総理に報告があがったのは、さらにその一週間後でした。

なぜ、統計をそのまま出したのか?
なぜ閣議決定をとめなかったのか?

190201_04_5.jpg

野党側の質問に対し、根本大臣は
すでに統計の速報については発表済みであり、
その後の確報のことまでは事務方の思いがいたらなかった。

また、予算との関連については、
その時点では予算案との関係を判断できる状況にはなかった、と述べて
理解を求めました。

《 今後の国会論戦の焦点 》

今後、この問題の解明、把握を急ぐにはどうすればいいのか?

190201_05_2.jpg

まず論点となるのは、今ある厚生労働省の特別観察委員会のあり方です。

安倍総理大臣は、きょうの国会質疑の中で、
委員会については、さらに独立性を強め、
事務局機能を強化して作業を進めてもらうと答弁しました。

一方、野党側からは
委員をいれかえて、調査をやり直すべきだという意見も出ています。
いすれにしても、特別観察委員会が、
本当に、第三者委員会として、中立性、独立性を保てるのか、
ここは国会でもっと議論してほしいところです。

そして、もう一つは、国会自身が、本来の行政監視機能を発揮すべきです。
国の基盤であり、政策の基礎である重要な統計データが、
なぜ、ここまでゆがめられてしまったのか

参考人招致をふくめ、
国会みずからが解明に乗り出すことも必要なのではないでしょうか?

(竹田 忠 解説委員)

キーワード

関連記事