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「阪神・淡路大震災24年 耐震化を加速するために」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

きょうは阪神・淡路大震災の日です。多くの人が建物の倒壊で亡くなったこの震災以降、国は耐震化に力を入れ、最近は耐震性の足りない建物の名前を公表するという強い手段も取るようになりました。耐震化率は少しずつ改善してきましたが、それでも多くの危険な建物が残されています。耐震化の現状、そして課題を考えます。

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【ポイント】

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解説のポイントは
▼耐震化はどこまで進んだのか
▼建物名公表の効果は
▼耐震化を加速するために

【耐震化はどこまで進んだのか】

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24年前の阪神・淡路大震災では亡くなった人の8割近くが建物の倒壊などによる圧迫死が原因でした。このため国は震災後、「耐震改修促進法」という法律を作り、耐震化に力を入れてきました。2度の改正を経て所有者や自治体の責任をより明確にする一方、支援も充実させてきました。

耐震化はどこまで進んだのでしょうか。

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住宅の耐震化率は82パーセント、商業ビルやホテル・旅館、病院など多くの人が利用する建物は85パーセントまであがってきたと推計されています。それでも耐震性不足の住宅は900万戸、多数が利用する建物は6万棟が残されていると見られます。

このうち商業ビルやホテル・旅館、病院などは不特定多数の人が利用するわけですから所有者は耐震性の確保に重い責任を負っています。しかし古い建物の耐震化が進まないことから、国は6年前に、それまでより大きく踏み込んだ対策に乗り出しました。耐震診断と結果公表の義務付けです。

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象になったのは、耐震基準が厳しくなる昭和56年以前に建てられ、3階建て以上で床面積が5000平方メートル以上の商業ビルやホテル・旅館、病院などです。
所有者には耐震診断が義務付けられ、自治体にはその結果を公表することが義務付けられました。

公表はどこまで進んだのでしょうか。
去年10月、都道府県の公表がようやく出揃いました。
その結果、対象となった全国10,800棟のうち、
▼「震度6強や7の地震で倒壊する危険性が高い」とされたものがおよそ1000棟。
▼「倒壊する危険性がある」とされたものがおよそ700棟。
報告がない建物を含めて耐震性不足が17パーセントもあることがわかったのです。

【建物名公表の影響と効果は】
建物名公表の効果は出ているのでしょうか。

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東京都は去年3月、診断結果を公表。対象になった398棟のうち42棟で耐震性が不足していました。これらの中には名前がよく知られたビルや公的施設が多く含まれていました。
公表から9ヶ月、指摘された建物では耐震改修をしたり、取り壊したりする動きが出始めています。

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「危険性が高い」と公表された「紀伊國屋書店」が入る新宿の「紀伊國屋ビルディング」では耐震改修の設計が終わり、今年7月ごろ工事に着手する予定です。このビルは東京都の歴史的建造物に指定されていて外観を変えずに耐震性を高めることが求められ、設計に時間がかかりました。営業をしながらフロアーごとに工事を進め、3年間で完成をさせる計画です。

このほか6件で耐震改修が進められているほか、取り壊しをしたり、取り壊しを前提にテナントに退去をしてもらっているビルもあります。

一方、対応が決まっていないビルも少なくありません。所有者が一人ではなく、多くの人が共有しているビルの場合、合意に時間がかかっています。

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JR新橋駅前の「ニュー新橋ビル」もそのひとつです。飲食店や小売店が軒を連ね、多くのサラリーマンが立ち寄るこのビルは区分所有者が316人に上ります。所有者が多いことに加えて、このビルは再開発計画の対象になっていて、計画の進みかたによっては耐震改修をしても数年後に建て替えになる可能性もあり、合意を難しくしています。管理組合としては耐震改修を急ぎたい考えで、6月の総会で区分所有者全員に工事の方法や費用の案を示して決めることにしています。

建物によって事情はさまざまですが、取材をすると耐震診断結果の公表がきっかけになって耐震改修に向けた動きが広がっていると感じます。そして、この動きを後押ししているのが手厚い公的な支援です。

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建物名の公表とあわせて耐震改修への補助も大きく積み増されました。自治体が思い切った補助をすれば国もそれにあわせて補助額を増額する仕組みで、耐震改修にかかる費用の最大で8割が補助されます。この仕組みを使って地域をあげて耐震化を進めている市があります。

温泉地で有名な北海道・登別市は市内のホテル・旅館の6つの建物で耐震性不足が指摘されました。観光が主要産業なだけに登別市はいち早く補助制度を導入し、耐震化に取り組んでいます。ホテル・旅館を災害時の避難所にすることで国からの補助率があがる仕組みも利用し、2棟で耐震改修をほぼ終え、残る4棟も改修工事や設計が進められています。1棟あたりの補助額は1億円から3億6000万円になる見込みです。

補助の内容は都道府県や政令市によって差があり、地方ほど手厚い傾向があります。地域経済を支えるため議会を通じて住民が負担に同意すれば、国も同額の支援をするという考え方は合理的と言えます。ただ私有財産であるホテルや旅館などの耐震補強に億単位の税金を投入するというのはかつては考えられなかったことで、費用負担と効果をきちんと検証していく必要があるでしょう。

【耐震化を加速するために】
では、建物の耐震化をさらに進めるために何が必要なのでしょうか。

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▼耐震診断と公表は見てきた建物のほか、緊急輸送道路沿いなどの建物についても義務付けられています。こちらの公表はまだ一部の自治体にとどまっていて、公表を急ぐ必要があります。

▼ただ、これをあわせても診断と公表義務付けの対象は建物全体の一部でしかありません。多数の人が利用する建物で耐震性不足の建物は6万棟あると推計されていますが、中小規模の建物は対象になっていません。数が多いだけに、すべて義務化するというのは現実的ではないかもしれませんが、利用者が建物の耐震性を知って利用するかどうか選ぶことができる仕組みが必要です。東京都は新しい耐震基準で建てられた建物や古い基準でも耐震性が確認された建物、それに耐震改修を終えた建物であることを示すマークを作って、表示するよう呼びかけていて、こうした取組みを拡げる必要があります。

▼また公表の仕方にも問題が残っています。

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建物ごとの診断結果は自治体のホームページなどで公表されていますが、安全性についての3段階の評価を明記せず、専門的な数値だけを表記しているところが少なくありません。所有者側への配慮もあるものと見られますが、利用者にはわかりにくくなっていて公表することで利用者に判断してもらい耐震化を促すという趣旨にあいません。改善を検討してもらいたいと思います。

阪神・淡路大震災のあと取材をしていて専門家などから「地震が人を死なせるのではなく、人が作った建物が人を死なせるのだ」という言葉をよく聞きました。南海トラフ巨大地震の発生は確実に近づいていて、内陸直下型地震のリスクも高まっていると指摘されています。阪神・淡路大震災の教訓をあらためて確認し、耐震化を急ぐ必要があると思います。

(松本 浩司 解説委員)

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