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「地球温暖化 2050年"脱炭素社会"への課題(時論公論)」

土屋 敏之  解説委員

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 2018年は、世界で熱波や山火事、洪水など災害と異常気象が相次いだ一年でした。その背景にあるとされるのが地球温暖化です。こうした中、2020年つまり来年からの温室効果ガスの削減を合意した「パリ協定」の実施ルールがようやく採択されました。温暖化問題について3つのポイントから考えます。

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 パリ協定のルールを議論した先月のCOP24で決まったことと決まらなかったことを整理し、温暖化の被害はどこまで拡大していくのか?そして“脱炭素社会”への道のりはどのようなものか?探っていきます。
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 気象庁は1月4日、2018年の平均気温が東日本では統計開始以来、最も高かったと発表しました。日本だけでなく世界でも統計開始以来、最近4年間が平均気温の最高記録1位~4位を独占しています。そして世界気象機関は去年夏、西日本豪雨をはじめ世界で相次いだ災害や異常気象が長期的な地球温暖化の傾向と一致していると異例の警鐘を鳴らしています。
 こうした中で待ったなしの温室効果ガス削減に取り組むパリ協定は、先進国と途上国の対立を乗り越えて合意することを優先したため、具体的な中身が詰められていない、言わば総論合意に留まっていました。実施までおよそ1年に迫ったCOP24はルール作りのタイムリミットとも言える場だったのです。
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 そのCOP24で決まったのは主にこんな内容でした。まずCO2の排出削減などの検証方法は先進国・途上国を問わず原則同一の基準を適用する。これは先進国の主張に沿った形と言えます。一方、途上国が強く求めた資金の支援の強化については先進国が2年ごとに資金拠出の見通し額などを報告することが求められます。このように先進国と途上国が互いに歩み寄る形でパリ協定のルールが概ね採択されたことは大きな前進と言えるでしょう。
 一方で決められなかった点もあります。例えば、他の国と共同で削減に取り組む場合に削減量をどうカウントするかなどのルールは合意できず先送りとなりました。また、ルール作りと並んでCOP24の焦点となっていた、CO2の削減目標をさらに高める必要性についても明確な合意ができませんでした。
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 それでもなんとかルールの採択にこぎつけられたひとつの原動力は、温暖化の被害に対する危機感だったのではないでしょうか。
 IPCC・気候変動に関する政府間パネルは、10月に「1.5℃特別報告書」をまとめ今後起こりうる被害を科学的に予測しました。「1.5℃」というのは、パリ協定が今世紀末の気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く1.5℃に抑えることを目指すとしているため、そのケースを分析したものですが、報告書ではこのままだと熱波や気象災害、海面上昇、健康被害、食料・水不足、生態系の破壊など甚大な被害がもたらされるリスクを指摘しました。しかも1.5℃と2℃というわずか0.5℃の違いでも生息地を失う生物種の割合は倍以上異なるなど影響を具体的に示しています。
 また、トランプ大統領が温暖化問題に否定的なアメリカでも政府が報告書を出し、2015年以降だけで温暖化に関連したと見られる山火事やハリケーンなどで4千億ドル、日本円にして45兆円もの損失が既に出ていることなどを発表しました。温暖化は今現実に人類社会の脅威になっているのです。
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 パリ協定で各国が提出した対策を全て実施しても気温は3℃上昇すると見積もられていますが、気温上昇を1.5℃に抑えようとすると温室効果ガスをどれだけ削減すればよいのでしょうか?IPCCの特別報告書では2050年頃に世界のCO2排出量を実質ゼロにする、つまり“脱炭素社会”を実現する必要があると算出しています。またその途中段階では2030年までに45%もの削減が求められています。
 日本を例に取ると(基準年は異なりますが)削減目標として掲げているのは2030年に26%削減ですから、さらに大幅な削減が必要と言うことになります。また2050年には80%削減をめざすとはしていますが、これはまだ長期的な戦略を議論している段階です。パリ協定では各国に長期戦略も求められていますが、G7では日本とイタリアだけが未提出です。日本も速やかに長期戦略を作り世界に示すべきでしょう。
 気温上昇を1.5℃未満に抑えるのは非常に困難なのは確かですが、仮に1.5℃ではなく2℃上昇まで許容したとしても2075年頃にはやはり世界全体で「脱炭素社会」を実現する必要があると見積もられています。それはどうすれば可能なのでしょう?
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 脱炭素社会へのカギを握る再生可能エネルギーへの転換をさらに加速するためには、解決しなければならない課題が幾つもあります。
 まず太陽光や風力を安定したエネルギーとするには、電気を水素に変換して蓄えるなど蓄電・畜エネルギー技術のさらなる開発・普及が欠かせません。また近年、FIT・固定価格買い取り制度で再エネが高く買い取られることで、それを当て込んで各地の山林でメガソーラーの闇雲な建設も進み、その結果土砂災害や生態系破壊など地域の環境への悪影響も起きています。FIT制度の見直しと併せて、環境アセスメントの義務化なども本当の意味で成熟した再エネの育成のために必要でしょう。
 そして見直しが急がれるのが石炭火力発電所の扱いです。日本ではCO2排出量が特に多い電源である石炭火力の建設計画が未だ後を絶ちませんが、これでは他でいくら削減を強化しても排出ゼロに向かうことはできません。
 こうした課題の解決に向けては、炭素税や排出量取引などCO2排出のコストを見える化する「カーボンプライシング」の導入に向けた議論が現在行われています。環境と経済の両立のためにはCO2を出さないことが経済的にも有利になる仕組みが重要ですから、それが単なる増税にならないよう、他のエネルギー課税や自動車税なども含めた全体での制度設計が必要でしょう。
 西日本豪雨のような災害がさらに深刻化していくのを避けるためにも、こうした対策はもはや避けられないのではないでしょうか。
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 脱炭素社会への取り組みは新たなビジネスや地域の活性化につながるチャンスという面もあります。COP24でも各国政府の足並みが揃わない中、存在感を示したと言われるのが「非国家アクター」と呼ばれる、自治体や企業、NGOなど国家以外の組織です。
 アメリカではトランプ大統領がパリ協定離脱を表明した後、「We Are Still In パリ協定に留まる」と宣言した非国家アクターが次々現れ、参加する自治体の人口や総生産は全米のおよそ半分にも達しています。日本でも、経済界には依然温暖化対策が競争力の足かせになるとの考えが根強い中、温暖化対策に積極的な企業の集まりである「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」がCOP24に先立ち「2050年排出ゼロ」や日本は脱炭素ビジネス立国を目指すべきだとする提言を発表しました。
 かつて「省エネ先進国」と胸を張っていた日本ですが、24時間営業の店舗が全国に広がり、ネット通販の拡大にも伴い宅配便の再配達が増えるなどした今、見直せる点も少なくありません。この2019年が脱炭素社会へと踏み出す年になるのかは、大げさではなく私たちの未来を左右することになるかもしれません。

(土屋 敏之 解説委員)

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