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「あなたの職場は大丈夫? ~迫る 働き方改革法」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

きょうは成人の日です。
すでに働いている人も、これからの人も、
多くの人が社会に出て働くことになります。
その働く人や職場を取り巻くルールが、あと3ヶ月足らずで、大きく変わります。
それが、今年4月から段階的に施行される、働き方改革関連法です。
長時間労働をなくし、もっと働きやすい職場にすることが大きな狙いです。
日本の未来がかかっている、といっても過言ではありません。

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[ 何が焦点か? ]
ところが、衝撃のアンケート結果が、公表されました。
それは、この法律の柱である残業の上限規制について
中小企業の4割が、「知らない」と、こたえたというんです。
そうなると、このまま法律が適用された場合、
現場で混乱が起きたり、サービス残業が増えたりするおそれがあります。
これでは、本末転倒です。
では、どうすればいいのか?
大きな鍵を握るのは、36協定の重要性です。
この3点について考えます。

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[ 衝撃のアンケート ]
まず、その衝撃のアンケートから、見てみます。
これは日本商工会議所が、会員の中小企業に対して聞いたもので、先週発表されました。
今回の法律で、残業を減らしたり、休みを確保したりする、主なルールが、この二つ。
①    残業時間の上限規制
②    有給休暇の消化義務。 この二つです。

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アンケートでは、残業の上限規制について、内容を知っているが、およそ6割。
知らない、よく知らないを合わせた「知らない」がおよそ4割でした。

また、有給休暇の消化義務。
これは10日以上の年次有給休暇がある人に対して、
会社は、必ず5日、休ませないといけない、という新たなルールもですが、
知っているが、およそ75%。知らないが、およそ24%でした。

このうち、残業の上限規制は、この法律で最も重要なルールです。
それが、4割が知らないと答えた。
しかも、有給休暇の消化義務よりも、もっと知られていない。
これは衝撃です。

さらに、この二つのルール、単に、知らないでは済まされません。
それは、罰則があるからです。

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残業の上限規制に違反すれば、使用者は、罰則として
半年以下の懲役、または、30万円以下の罰金が課されるおそれがあります。

また、有給休暇を消化していない人がいれば、
会社側は、罰金30万円以下となるおそれがあります。
現場がチャンとわかっていないと、混乱が起きる可能性があります。

なぜ、これほど知られていないのか?
一つ考えられるのは、法律が適用される時期の違いです。
まず、有給休暇の義務は、大企業、中小企業を問わず、
一律に今年4月から、適用が始まります。
しかし、残業の上限規制は、大企業は今年4月からですが、
中小企業は一年遅れて、来年4月からの適用です。

つまり、有給休暇の義務化については、差し迫っているので、比較的知っているが
残業規制は、まだ余裕があるため、
それほどは知らない、そういうことかも知れません。

しかし、それでいいんでしょうか?
そもそもなぜ、中小企業の適用を遅らせているのかというと、
残業を減らすためには、会社の業務や人員態勢を大幅に見直す必要があります。

しかし、中小企業は、大企業と比べて
人事や労務などの専門の担当者に限りがあるので、時間がかかる。
そこで大企業より1年、適用を遅らせて
しっかり準備してもらおう、そういう趣旨です。
なのに、まだ知らない、というのであれが、チャンとした準備もできません。
ここは、政府も、商工会議所も、そして会社自身も、
危機感を持つことが重要だと思います。

[ 残業規制とは? ]
では、そもそも今回の残業規制とは、どういうものか? 整理します。
まず、残業は、基本的に法律で禁止されています。
労働基準法では、一日8時間、
週40時間を越えて働かせてはならない、と明確に定めています。

ただ、一定の条件があれば、残業は可能になります。
それが36(サブロク)協定です。

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これは、労働基準法36条に基づくのでこう呼ばれますが、
労使が、この36協定を結べば
「月45時間、年360時間」まで、残業させることが可能です。
さらに、この36協定に、特別条項というものをつければ、
年間6ヶ月まで、さらにもっと多くの残業をさせることが可能です。
しかも、こちらには、何時間までという制限がありません。
法律による残業の上限がない。
残業が事実上、青天井になっている、といわれるのは、このためです。

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これが、新たな制度では、大きく変わります。
無制限だった特別条項に、絶対に超えられない上限をはめます。
それが、この一番上の赤いライン。
年間としては、残業は720時間まで。
そして月単位としては、上限が、最大、月100時間未満まで。
さらに、この100時間未満が連続してできないよう、
複数月の平均で80時間までに制限されます。
ただ、この規制のうち、
最大、月100時間未満まで、という上限については、強い批判もあがっています。

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100時間というのは、働きすぎで倒れたときに労災として認定される場合の基準、
いわゆる過労死ラインになっています。
つまり、過労死ライン寸前まで働かせることを法律が容認していいのか、という批判です。

ただ、その一方で、それとは全く逆に、大企業を中心に、
今回の規制は、結構ハードルが高い、という不安の声もあがっています。
それは、36協定を結んでも、年間で6ヶ月以上は、
残業を月45時間以内に抑えないといけない、という、規制があるためです。
月45時間というのは、一月20日間働くとすると、
一日2時間ちょっとの残業ということになる。
長時間労働がすっかり当たり前になっている企業には、
残業をこの水準以下で抑え続けるのは、
かなり厳しいと受け止められているようです。

そうなると、ここは気をつけないと、
労働者は、忙しいときには過労死ライン寸前まで働かされて、
そうでない時は、残業が2時間ちょっとでは収まらず
止む無くもち帰り残業をしてしまう、ということになりかねません。
いうまでも無く、サービス残業や、持ち帰り残業をさせるのは
もちろん、法律違反です。
これは避けなければいけません。

[ 36協定の重要性 ]
では、どうすいればいいのか?
大きな鍵になるのは、36協定の重要性です。
冒頭でも触れましたが、残業をさせることは、法律で禁止されています。
会社が、組合と、36協定をむすぶことで、初めて残業が可能になります。

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今回、法律で決まった残業の上限も、
36協定で結ぶことのできる上限を決めた、という意味です。
実際に、その職場で残業の上限をいくらにするかは、
あくまで労使が36協定で決めるわけです。
しかし、組合の組織率は、今や17%にまで落ち込んでいて、
組合のない企業が多いのも事実です。

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そういう場合、会社側は、従業員に過半数を代表する人を選んでもらって、
その人と36協定を結ぶことが必要ですが、
どこまで、そういう正式な手続きを踏んで
36協定が結ばれているか、実態は必ずしも明確ではありません。

大企業も、中小企業も、まず労使が36協定についてキチンと話し合う。
そこから、本当に残業がどれだけ必要なのか?
そのためには業務をどう見直すのか?
労使の話し合いが始まることになります。
働き方改革法の段階的施行まで、あと3ヶ月足らず、余裕はありません。

(竹田 忠 解説委員)

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