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「2019年 ことしの朝鮮半島は」(時論公論)

塚本 壮一  解説委員

朝鮮半島情勢は年明け後も盛んな動きが続いています。北朝鮮はキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長が中国を訪問しました。2回目の米朝首脳会談に向けた布石とみられています。日韓関係は、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる裁判の問題に加えて韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射の問題もあり、悪化の一途をたどっています。現状を分析し、今年の動きを展望します。

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《解説のポイント》

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●北朝鮮は…

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キム・ジョンウン委員長が4回目となる中国訪問を10日、終えました。中国側の報道によりますと、キム委員長は習近平国家主席との首脳会談で、「非核化の立場を引き続き堅持し、アメリカとの2回目の首脳会談で、国際社会が歓迎する成果をえるために努力する」と述べたということで、トランプ大統領との再会談に意欲を見せました。

今回の訪問の最大の狙いは、2回目の米朝首脳会談に向けた足場固めです。キム委員長は米朝首脳会談への意欲を、元日に発表した新年の辞でも口にしていました。このなかで、「核兵器の生産、実験、使用、拡散は行わない」と述べたほか、「完全な非核化」という言葉を初めて肉声で国民向けに発しました。停滞するアメリカとの対話を再度動かしたいという強い意欲をアピールした形です。

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しかし、北朝鮮に非核化に向けた具体的な道筋、「工程表」を示すよう求めるアメリカと、経済制裁の解除を求める北朝鮮との立場には大きな隔たりがあります。北朝鮮側の報道によりますと、キム委員長は習主席との会談で、「アメリカとの協議の過程で困難と憂慮が生じた」と述べたということで、経済制裁の解除に応じないアリメカへの不満を露わにしました。ただ、中国が、貿易問題で対立するアメリカのために仲立ちをするのには限界があります。

結局のところ、非核化が進むかどうかは、米朝両国次第ということになります。懸念されるのが、両首脳とも首脳会談に前のめり気味であるゆえ、会談の開催自体が目的になってしまうことです。去年6月、シンガポールで行われた米朝首脳会談は、朝鮮半島の非核化で合意したものの、それに向けた具体的な手立ての交渉は先送りされました。ところが、これまでのところ、米朝両国の高官による事前協議は進んでいません。2回目の米朝首脳会談が開かれたとしても、具体策で合意できないまま、前回と同じようにムード先行で終わってしまう事態が懸念されるわけです。北朝鮮が核を持ったまま、それ以上の交渉は進まないというおそれがあるのです。

そうならないよう、まずは両国が事前協議で具体的な詰めを進めることが何より重要です。
仮に、首脳会談での直接交渉に委ねるとしても、北朝鮮の核やミサイルの脅威を確実になくす方向付けをしてほしいと思います。
 
●日韓関係は…

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続いて、日韓関係についてです。両国の間の最大の焦点は、いま、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる判決の問題です。韓国の原告側が日本企業の資産の差し押さえを裁判所に申し立てたことを受け、日本政府は日韓請求権協定に基づいて、韓国側に協議を要請しました。

この問題について、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領は10日、年頭にあたっての記者会見で、「日本の政治家や指導者がやたらと政治争点化し、論難の材料にし、拡散させるのは賢明な態度ではない」と述べて、日本側の対応を厳しく批判しました。大統領は、「この問題は韓国政府が作ったのではない」とも述べています。しかし、「徴用」で働かされたとする人たちの救済は日本企業ではなく、韓国が責任を持って行うという立場を韓国政府も続けてきたはずです。

この問題は、1965年の国交正常化からつないできた両国の関係の基本を根底から崩しかねず、重大です。また、もしも日本企業の資産が売却されるようなことになれば、影響が日韓関係全体に広がるのは間違いありません。司法の判断はそれとして、行政府としてはどうするのか、まさにいま、ムン大統領の政治決断が求められています。

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日韓は、海上自衛隊の哨戒機が韓国軍の駆逐艦からレーダーを照射された問題でも対立を深めています。韓国国防省が、レーダー照射をしていないと反論するために年明けに公開した動画には、おどろおどろしい音楽が付けられ、「事実のわい曲を即刻、中断せよ!」という激しい言葉が記されていました。国防省は、安倍総理大臣の発言についても、「高位当局者まで出てきて一方的な主張を繰り返している」と、隣国に対して異例の言葉遣いで非難を浴びせました。こうした対応が適切なのか、韓国側はいま一度考えるべきでしょう。

ただ、この問題では、両政府とも、防衛当局間で協議しようという姿勢では一致しています。
話し合いにより、再発防止で決着が図られることを期待したいと思います。

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今後の日韓関係で懸念されるのが、ムン・ジェイン政権に余裕がなくなりつつあることです。深刻な雇用問題などを背景に、80%あった大統領の支持率は46%まで落ち込んでいます。

さらに、これから、民族意識が高まる時期を迎えます。3月1日に日本の植民地下の1919年に起きた3.1独立運動、4月11日には大韓民国臨時政府の樹立からそれぞれ100年の記念日を迎えます。北朝鮮が韓国の祝賀行事に相乗りし、日本に対する共闘姿勢を示そうとする可能性もあります。

6月にはG20大阪サミットが開かれ、ムン大統領が来日します。これに向けて両国がどの程度歩み寄れるかがポイントになりそうですが、関係改善は容易ではなく、その兆しさえ見出せないまま推移していくおそれもあります。

こうしたなか、いっそのこと、徴用をめぐる韓国の対応を国際司法裁判所に提訴し、白黒をハッキリさせるべきだという考えもあります。しかし、別の指摘もあります。徴用問題が国際司法裁判所にかけられれば、韓国側から慰安婦問題や、韓国の原爆被害者、サハリン残留韓国人など、これまで日韓両政府が努力して人道問題として解決してきたはずの問題を持ち出されるおそれがあるといいます。日本側も、どのような対応が国益にかなうのか、十分な検討が必要です。

●日本に求められること

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私たち日本が、韓国政府に対して不信感を持つのには、相応の理由があります。ただ、日本国内でいま、韓国への反感と猜疑心をことさらに露骨に表す風潮もあるように見えます。レーダー照射問題では、「韓国の船が密かに北朝鮮の漁船に瀬取りと呼ばれる不法な取り引きをしていたのではないか」という憶測が流れました。小型漁船に大量の重油を積み込むことは不可能で、根拠は薄いと言わざるを得ません。「レーダーの照射は、ムン・ジェイン政権による反日政策の一環だ」と決めつける論評もありました。

こうした、過度に深読みをしたり、レッテルを貼ったりすることは、相手の出方を客観的に分析し、適切に対応していく機会を失うことにもなりかねません。厳しい状況だからこそ、国民感情を煽るような論調に惑わされることなく、日本と、私たち日本国民にとって何が最善の利益なのかを冷静に見極める姿勢が求められていると感じます。

(塚本 壮一 解説委員)

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