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「2019年 日本経済の内憂外患」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

年明けからの株価の乱高下。日本の景気は今後どうなるのか。方向感が見えないという方も多いのではないでしょうか。
米中経済摩擦や消費税率引き上げといった内外の懸念材料を控える今年の日本経済の課題について考えてゆきたいと思います。

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解説のポイントは三つです
1)    日本経済の基調と消費増税
2)    米中貿易摩擦がはらむリスク
3)    賃上げで回せ 経済のエンジン

 まず日本経済の基調を見てみます。

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日本企業の業績は、アメリカの力強い成長にひっぱられて世界経済が安定した成長を続ける中、過去最高に近い水準といわれます。その結果、大手企業のこの冬のボーナスの平均が初めて90万円を超えるなど所得が増加傾向にあるほか、雇用も改善が続き、個人消費がゆるやかに増加しています。投資もオリンピック関連の建設需要や、人手不足を補うためのIT投資など堅調な動きが続いています。こうしたなかで、民間のエコノミストの今年度と来年度の成長率の見通しはいずれも0.7%程度と、緩やかな回復が続くという見方が一般的です。

その一方で懸念材料のひとつが、今年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられることです。

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このグラフは2014年に消費税率を5%から8%に引き上げた前後の個人消費の推移です。税金が上がる前にものを買おうという駆け込み需要が増えた後、増税後は反動で大きく落ち込み、その後回復するのに3年もかかりました。このため政府は今回、駆け込み需要と反動減のでこぼこができるだけ平らになるようにさまざまな対策を打ちました。

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生活に欠かせない食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率を初めて導入するほか、クレジットカードなどの電子決済で買い物をした場合に、払った額の最大5%がポイントとして還元される制度や、住民税が非課税の世帯と二歳までの子供がいる世帯を対象とした「2万円払うと25000円分の商品券がもらえる」プレミアム商品券など、「買い物は10月まで待ったほうが得だ」と思わせる対策を用意しています。それでも増税ですから、出費が増えることに変わりはありません。消費者の財布のひもが締まることは避けられないという見方は根強く、今年の日本経済の大きな懸念材料といえます。

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一方、海外の最大の懸念材料は、アメリカと中国の貿易摩擦です。

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アメリカは中国が政府の補助金によって自国のハイテク産業を育成したり、知的財産権を侵害したりして、外国企業との競争が公正に行われていないなどとして中国から2500億ドル分の輸入品に10%から25%の関税を上乗せ。これに対し中国も同様の対抗措置をとる状況がもう半年以上も続いています。
とりわけ中国経済への影響は深刻です。中国は、おりしも持続的な成長を実現するための構造改革のさなかで、国有企業のリストラなど経済に悪影響を及ぼす政策を進めています。これに加えて貿易摩擦で輸出が落ち込めば、景気が一気に冷え込んでしまいかねない状況です。一方のアメリカも中国からの輸入品に高額の関税がかかることで、物価が上昇。企業の製造コストがあがり、収益の悪化が懸念されます。

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こうした中で、米中両国は問題の解決に向けてきのうから北京で次官級の協議を開始しました。この中で中国側は、アメリカからの輸入を増やして貿易不均衡を是正することや、知的財産権侵害の問題を改善する方針を示して理解を得たい考えです。しかし、米中対立はハイテク分野での覇権争いや安全保障面にも広がっていて、期限となる3月1日までに合意できるかどうかは不透明です。
もしこの協議で合意に至らず米中摩擦が一段と激しくなれば、日本経済ヘの影響もより深刻なものとなります。

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日本企業は中国にスマートホンのディスプレイなどハイテク製品の部品を提供しており、中国からアメリカへの輸出が減れば、日本企業の業績にも響くことになります。さらに米中という二大経済大国の景気が減速すれば、日本からの輸出全体が打撃を受けることになり、先行きの不透明感から企業の投資にもブレーキがかかるおそれがでてきます。

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その一方で、中国がアメリカに大幅に譲歩する形で摩擦が解消したとしても、懸念材料は残ります。トランプ政権は、今は中国との交渉に集中していますが、これが終われば、今度は、日本との貿易交渉に本腰をいれてくることになります。アメリカ政府は現在自動車に対する関税上乗せを検討していて、日米間の協議が続いている間はこれを発動しないとしていますが、協議が不調に終われば、高額の関税をちらつかせて譲歩をせまってくるおそれもあります。さらにアメリカからの輸出が有利になるようにトランプ大統領が為替相場をドル安円高に誘導するような口先介入を仕掛けてくることも考えられます。

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こうした中で注目されるのが、今年6月に大阪で開かれるG20サミットです。
議長国となる日本がトランプ政権の求めるWTO・世界貿易機関の改革を進めることや、中国を念頭に、知的財産権の保護など国際ルールの順守を確認するといった議論を主導し、アメリカの保護主義的な動きに歯止めをかけることができるのか。会議の結果は、自由貿易によってたつ日本経済の行方を大きく左右することになるでしょう。
このように、内憂外患が待ち受ける中で、日本経済は、大きなショックが起きた際にどうたちむかえばよいのでしょうか。日本の財政は巨額の赤字を抱えているうえ、日銀による異次元の金融緩和政策も様々な副作用が指摘されており、緊急時に景気を下支えする政策の余地はせばまっています。こうした中で私は、賃金の引上げなど民間企業の自らの力で衝撃に耐えられるような日本経済の体力をつけることが求められていると思います。

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もともとアベノミクスでは、財政と金融政策で景気を押し上げ、企業業績を向上させ、賃金が上昇し、それがまた消費を拡大させて景気を押し上げるという好循環をもくろんでいました。しかし企業の業績が上向いてきても、賃金は「使えるお金が増えた」と実感できるほどにはあがっていないという声が聞こえてきます。いわば経済のエンジンがまわりかけても、なかなかフル回転にならない状況が続いているのです。

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冒頭でもお話したように、企業の業績は好調で、保有する現金や預金は265兆円にものぼっています。こうした中で、安倍総理大臣は今年の春闘で6年連続の賃上げを要請し、経団連の中西会長も、「経済成長に向けた賃上げの重要性は認識している」と話しています。ただ気になるのが経営者の一部から、経済の先行きが不透明だから賃金は上げられないという声が聞こえてくることです。しかし、バブル崩壊以降、この国の経済の先行きは常に不透明でした。先行きが不透明であることを理由に賃上げができないとなれば、いつになってもあげられないのではないでしょうか。

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利益があがる中から、少しでも多く賃金に回して社員に還元する。その結果消費が拡大し、エンジンが力強く回り始めて、日本経済が衝撃に強い体質になる。そうした前向きな気持ちで春闘にのぞんでもらいたいと思います。

 思えば平成という時代は、バブル崩壊という昭和の後始末に追われ、金融機関への公的資金の導入、度重なる財政出動、そして異次元の金融緩和と、政府や日銀の政策におんぶにだっこの時代だったとも言えます。そのおかげもあって、企業は、過剰な設備や、過剰な債務といった問題を解消し、体質も機動的な動きがとれる筋肉質になりました。新しい時代は、政策頼みではなく、民間の資金と知恵で新たなビジネスを育て、景気をひっぱっていく。そうした日本経済の変貌を期待したいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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