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「ことしの政局 参院選で問われるもの」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

平成31年、2019年。日本は、内外の重要な課題に直面しています。政治決戦となる夏の参議院選挙で、何が問われるかを軸に、ことしの政治の動向を展望したいと思います。

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ことしの政治の最大の焦点は、いわゆる「安倍1強」の政治情勢が維持されるのか、それとも変化するのかです。年頭にあたって、安倍総理大臣は、「歴史の大きな転換点を迎える。平成のその先の時代に向かって『新たな日本を切り拓く』1年とする」として、安定した政権基盤で改革を進める決意を示しました。
これに対して、野党第一党・立憲民主党の枝野代表は、「新しい時代がスタートする。多様性を認め合い、支えあい、社会を底上げする新たな社会像を示す」と述べ、これまでの政治の流れを転換する必要性を強調しています。

「安倍1強」という政治情勢は、アベノミクスのもと景気回復が続く「経済」と安倍総理が各国首脳と信頼関係を築いたと胸を張る「外交」。そして、国政選挙で5連勝という「選挙の強さ」が、よりどころになっています。ことしの政治日程は、この「経済」と「外交」が「選挙」の焦点になることが特徴といっていいでしょう。

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安倍総理は、このまま政権を担当すれば、11月には、在任期間が憲政史上最も長い長期政権になります。政権にとって、まずは、4月から5月にかけての天皇陛下の退位と皇太子さまの即位。そして、外国からの要人が多数参列する10月の「即位礼正殿の儀」などを「つつがなく」実施できるよう万全を期すことが、安定した政権運営の大前提になります。

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その上で、「経済」について考えます。日本経済は、実感が伴わないという声はあるものの、景気回復の期間が戦後最長になった可能性が高まっています。そうした中で、ことし10月には、国民生活に大きな影響を与える消費税率の10%への引き上げが控えています。景気の落ち込みが長く続けば、政権の求心力の低下につながりかねません。アメリカと中国の貿易摩擦など世界経済の減速への不安もある中で、過去2回見送った税率の引き上げを、今回は、実施できる経済環境を整えられるのかが問われます。そして、税率の引き上げを前にして、参議院選挙が行われます。増税は国民がもろ手をあげて歓迎する政策ではありません。野党側は、「税率を引き上げる経済状況ではない」などとして、反対しています。参議院選挙では、新たに導入される軽減税率や2兆円を超える規模の景気対策の是非も含めて、大きな争点になりそうです。

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「外交」はどうでしょうか。参議院選挙を目前に控えた、6月には 日本が初めて議長国を務めるG20サミットが大阪で開催されます。アメリカのトランプ大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領の出席が見込まれています。安倍総理にとっては、対立が目立つ世界のリーダーたちの間で、できるだけ多くの一致点を見出し、外交手腕を大いに発揮したいところでしょう。一方で、戦後日本外交の総決算を掲げて取り組む、ロシアとの平和条約、北方領土交渉や政権の最重要課題の一つと位置づける拉致問題を含む北朝鮮との交渉に、メドがついている訳ではありません。このうち、ロシアとの交渉については、G20までに、大きな前進や成果が得られれば、参議院選挙で具体的な実績として強調できます。ただ、外交には、相手があり、日本側が圧倒的に有利になるような決着は容易ではありません。今後の交渉次第ですが、仮に、「北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結する」という、日本の従来の方針が変更されるような場合、国民の理解は得られるのか、野党側も、その整合性を追及してくるでしょうから、決して楽観できる状況にはありません。

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次に「経済」と「外交」が焦点となる、ことしの「選挙」について見ていきます。
ことしは、12年に1度、統一地方選挙と参議院選挙が重なる選挙の年です。
統一地方選は、人口減少と少子高齢化が進む地方の活性化策など、それぞれの地域の課題がテーマになります。さらに、各党にとって、地方議員は、地域での活動を支える存在ですので、その伸張、議員が増えるか減るかは、党の組織力に重大な影響を与えます。
そして、参議院選挙の結果は、まさに「安倍1強」が続くかどうかに直結してきます。例えば、憲法改正問題。安倍総理は、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」という考えを重ねて示しています。現在、参議院では、自民党と公明党に憲法改正に前向きな勢力を加えて、発議に必要な3分の2の勢力を維持していますが、参議院選挙で、こうした勢力が議席を減らすことになれば、憲法改正への道のりは、より険しいものになってきます。
さらに、ことしの参議院選挙は、自民党にとって、決して楽な環境にはないことも指摘できます。

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過去4回の与野党第一党の獲得議席を見ます。自民党は、過去2回の勝利によって参議院で単独過半数を確保しています。ただ、統一地方選挙と参議院選挙が重なった12年前、第1次安倍政権で自民党は敗北し、その後、当時の安倍総理は退陣しています。
また、ことし改選を迎える6年前に自民党が獲得したのは65議席と多く、3年前の56議席と同じ程度の勝ち方でも、議席を減らすことになってしまいます。

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では、参議院選挙の勝敗を左右するのは何か。それは、32ある定員が1人の「1人区」の帰趨といわれます。このところの選挙を見ると、自民党の1人区の勝敗が、選挙全体の結果を決定づけてきたことが分かります。そこでポイントになるのが、「1人区」での立憲民主党など野党側の候補者一本化の動きです。3年前は、一定の成果を挙げた一本化が、今回どこまで進むのか、野党側の協議の行方が、これからの焦点になります。

ここで、与野党の中から取りざたされている参議院と衆議院の同日選挙の可能性にも触れておきます。安倍総理は、年明けから「頭の片隅にもない」と繰り返していますが、与野党の中からは、「参議院選挙を有利にするために、ダブル選挙で野党を分断するのではないか」などという見方があります。一方で、「同日選挙に慎重な公明党を押し切るほどの効果は見込めない」などとして否定的な見方もあります。ただ、同日選挙に言及すること自体が、与野党にとって、相手をけん制したり、内部を引き締めたりする効果もあるだけに、解散風は、通常国会の会期中、強弱を繰り返しながら、政局の底流で吹き続けることになりそうです。

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参議院選挙では、国民生活に直結する「アベノミクスと消費税」、「外交政策」、それに、「憲法改正」などが争点になりそうです。加えて、私は、「全世代型の社会保障制度改革」や「外国人材の受け入れ拡大」も焦点になってくると見ています。いずれも、大きな方向性では、与野党は一致しています。しかし、制度設計によっては、すべての人が納得できるものはならないでしょうし、場合によっては痛みを分かち合わなければならない可能性もある課題です。そこで重要になってくるのは、国会の役割です。去年の国会では、政府の不祥事に対する監視機能を十分果たせず、政策論争も深まらなかったという指摘がありました。参議院選挙を控えた通常国会では、与野党の対決色が強まることはやむをえないかも知れません。しかし、「社会保障」や「外国人との共生」など日本の将来にとって避けて通れない重要な課題では、各党が、政策を示しあい、そのプラス面とマイナス面を率直に国民に説明し、必要性を理解してもらう「説得力」を競い合って欲しいと思います。国民が判断を示す政治決戦の年だからこそ、各党が、論戦の内容を生かして、政策を磨いていく「論争」と「政策」の好循環に期待したいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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