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「人手不足は解消するか? 迫る『外国人就労拡大』」(時論公論)

竹田 忠  解説委員
飯野 奈津子  解説委員

竹田)日本の転換点というべき、新たな制度のスタートが、
もう、あと3ヶ月後に迫っています。
来年4月から始まる、日本で働く外国人労働者を大幅に増やすという新たな制度。
政府は、先の臨時国会で、制度の詳しいことは、
後で運用方針や省令で定める、と述べて詳しい説明を避けてきました。
その省令案と運用方針が、どちらも、きょう(28日)までにまとまりました。
制度の全容が示されたことになります。
しかし、依然として曖昧な点も多く、
地方からは、これで本当に人手不足解消になるのか?
不安の声もあがっています。
この問題について共に取材しています、
飯野奈津子 解説委員と共に考えたいと思います。

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飯野)外国人労働者を受け入れるためには、
外国人が地域で安心して暮らすための生活支援策が必要。
しかし、これも、臨時国会では、政府が年内にまとめるといって、
くわしい議論がされませんでした。
それがようやくまとまってきたのですが、実は、これも課題だらけです。
番組の後半で詳しくお伝えします。

[ 何が焦点か? ]

竹田)きょうの焦点は三つ。

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▼来年4月に間に合うのか?
▼見えない生活支援
▼そして、地方の人手不足は?
この3点です。

[ 日本の転換点 ]
まず、今回の制度は、「特定技能」と呼ばれる、新たな在留資格を作って
いわゆる単純労働分野で外国人を受け入れます。

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1号、2号、二つあって、
2号は、1号よりも、高い技能が必要とされます。
また2号は、1号よりも、長い期間働けて、家族も呼べます。
つまり事実上、永住への道を開くことになる、とみられていて、
まさに、転換点といえる制度です。

[ 新たに決まったこと ]

では、どういう仕事が、対象となるのか?
ご覧の14の分野です。

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ただ、このうち、2号についての対象となるのは、二つの分野だけ。
建設と、造船だけです。
あとは期間限定の1号です。
あくまで、単純労働分野では
外国人は働いたら帰ってもらうのが基本、という考えです。

受けいれる労働者の数は、
今後5年間で、最大34万5000人を受け入れます。
また、分野ごとの最大受け入れ数も示されました。

ここで、問題なのは、この数字の根拠は何なのか?
これが依然としてわかりません。
というのも、たとえば、この建設分野を例にとると、
建設、と一口にいっても、いろんな仕事があるわけです。
たとえば、左官、型枠施工、電気通信、内装仕上げ、トンネル推進工などなど。

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それぞれ、必要な技能が違います。
ですから、こうした仕事ごとに、どうしても日本人では足りない。
外国人に頼るしかない、という数字を足したのが
この、建設4万人、という数字になるはずです。
なので、臨時国会でも、野党側は、
この仕事ごとの内訳の数字を出すよう求めていました。
しかし、結局、今回も、政府は、
分野ごとで一まとめにした数字しか出しませんでした。
本当にこれだけの外国人労働者が必要なのか?
日本人の雇用への悪影響はないのか?
ここは、来年の通常国会でも引き続き議論になると思われます。

[ 間に合うのか? ]

次も大きな課題。
制度が始まるのは、わずか3ヶ月後です。
間に合うんでしょうか?
ハッキリ言って、厳しい状況です。

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たとえば、この制度で外国人労働者を受け入れるためには、
受け入れる企業などが、相手の国に出向いて、そこで試験を行う必要があります。
しかし、特定技能1号の場合、
この試験を来年4月から実施できるのは、3つの分野だけです。
介護、宿泊、外食、の3つだけなんです。
それ以外はどうかというと、
多くの分野では、当面、技能実習から移ってくる人が中心になりそうです。
というのも、技能実習の経験が3年以上あれば、
特定技能1号に無試験で移ることができるためです。
受け入れる企業は
技能実習制度で問題になっているようなことが起きないよう
万全を期す責任があります。

竹田)では、ここからは、もう一つの大きな柱、
外国人が地域で暮らすための支援策について考えます。

飯野)外国人に、その地域に住んでみたいと思ってもらえるかどうか、
そのために欠かせないのが、
安心して生活するための手厚い支援策です。
今回まとまった支援策は、新たに日本に来る外国人だけでなく、
すでに日本に暮らす264万人の外国人も対象です。

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たとえば生活全般に関わる相談に応じるワンストップセンターを全国100か所に設置するほか、
生活・就労ガイドブックも作成する。
いずれも、11か国語で対応するとしています。
地域の基幹的な医療機関に通訳を配置するほか、
防災・気象情報などを多言語化するなど、とにかく数が多い。
その数、126項目に上ります。
ただ、メニューはずらりと並んでいますが、
具体的な制度設計がこれからというものも多く、
急ごしらえの対応策といわざるをえません。

竹田)その支援策で、多くの人が重要な課題にあげるのが、
日本語教育だと思うんですが、これはどうなんでしょう?

飯野)外国人が地域に溶け込むために日本語は大事で、
今回の対応策にも日本語教育の充実が盛り込まれていますが、
こちらも中身が詰まっていません。

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たとえば、地域に暮らす外国人のための日本語教室。
全国の自治体の3分の1にしかできていません。残りの自治体にはないんですね。
そこで、全国に行き渡らせようと、各地に日本語教育コーディネーターを配置して、
教室の設置を支援するとしています。

竹田)突然出てきた、耳なれない言葉。
日本語教育コーディネーターって、何するんですか?

飯野)地域の状況を調査して、どこにどのくらいの規模の教室を作り、
だれに教育をお願いするかなどを調整するということです。
ですが、そうしたコーディネーターや日本語を教える人材をどう確保するのでしょうか。
すでに取り組みを進める自治体からは不安の声があがっています。

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たとえば、日系人を中心に外国人住民が多く暮らす群馬県太田市の例です。
ここでは、住民ボランティアが中心となって、20年以上前から、日本語の会話や
読み書きを無料で教える日本語教室を開いています。
生徒と一緒に料理を作ったり、旅行に出かけたり。
この教室が住民同士の交流を深める重要な場にもなっています。
しかし、増え続ける外国人に対応しようと思っても、ボランティアが思うように集まらない上に、
コーディネーターを通じた今回の国の支援の枠組みから外れる可能性もあって、
この先の運営に、不安を感じるというのです。

竹田)それから、今回の特定技能2号は、家族が呼べますし、
1号の人も日本で結婚して子供が生まれることもあるでしょう。
こどもの教育はどうするんですか?

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飯野)そこも問題です。対応策で示されたのは、小中学校の教員を余分に配置する
「過員」を拡充するという、一部の地域で実施していることを広げることくらいです。
先ほどの太田市でも教員は増えていますが、それでは十分対応できないので、
独自にバイリンガルの教員や指導助手など25人を配置しています。
そうした地域の現実を踏まえた国の支援の充実が欠かせないと思います。
そして、実は、今回見落とされているのが、
義務教育を受けられずにいる子供たちの存在なんです。

竹田)義務教育が受けられない!それは、どういうことですか?

外国籍の子供は就学義務が課せられていないので、
親が希望しなければ教育は受けられません。
放置すれば、将来の職業の選択肢が限られてしまい、貧困に陥る可能性もあります。
国はそうした子供たちの実態を把握して、
十分な教育を受けられるような手立てを考える必要があると思います。

 [ 地方の人手不足は? ]

竹田)最後は、この制度の根幹に関わる、大きな問題。
それは、この新たな制度によって
「地方の人手不足は緩和できるのか?」、という根本問題です。
どういうことかというと、
たとえば、技能実習制度では、転職の自由が認められていません。
決められた職場で、ずっと働くしかない。
それが、様々な人権侵害などの背景にあるとみられています。

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しかし、新たな制度では、転職の自由が認められます。
そうなれば、外国人労働者は、より賃金の高い都会へ流れてしまい、
地方の人手不足は緩和されない、むしろ悪化するのでは?という懸念です。
このため、今回、制度の運用方針には、
都市部への外国人労働者の集中を避けるよう努める、
という文言まで入っています。
そしてその対策として、政府は3ヶ月に一度、
都道府県ごとに労働者の数を把握して、チェックする方針です。

しかし、問題はここからです。
チェックをして、労働者が都市部に集中していることが判明したとして、
それで一体、どうするんでしょうか?
転職の自由を外国人だけ制限するんでしょうか?
それは簡単には許されないことだと思いますが、
飯野さんは、この問題、どうみますか?

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飯野)外国人が自ら進んで地方での仕事を選択できるようにするために、
地方での生活支援策を充実させることが重要だと思います。
人口規模が小さい地方の自治体の中には、生活を支援したくても
ノウハウがない、人材がいない、予算の確保も難しいというケースがあります。
そうした地域格差をなくして、
外国人がどこにいても支援が受けられる環境をどう整えるのか。
海外のように日本でも、法律で国の責任を明確にして
必要な予算を確保し、先進的に取り組む自治体に学びながら、
環境を整える必要があると思います。

竹田)私は、この問題、制度の作りが関係していると思います。
というのも、たとえば特定技能1号は、
家族を呼んではだめ、5年たったら帰ってください、という制度です。
だったら、5年間、少しでも賃金の高いところで
稼ぐだけ稼いで帰ろう、ということになるでしょう。
でも、もし、長く住めるのなら、家族が呼べるなら、
物価も安い、家賃も安い、人のつがなりもある、
そういう暮らしやすい地方を選ぶ、そういう判断も出てくるはずです。

地方への定住を将来、どう促していけるのか?
制度は2年後に見直すことになっています。
急ごしらえで作った制度をどう良くしていくのか?
しっかりした議論を
来年の国会に期待したいと思います。

(竹田 忠 解説委員 / 飯野 奈津子 解説委員)

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