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「トランプ政権 波乱は越年へ」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

トランプ政権は、波乱の年の瀬を迎えようとしています。議会との対立から政府機関は一部閉鎖。国防長官は辞任。株価も乱高下。政権運営の先行きに不透明感が漂っているにもかかわらず、大統領その人は強気の姿勢を崩しません。はたしてトランプ政権にいま何が起きているのでしょうか?一連の混乱をもたらした原因と背景を考え、年明け以降の見通しを探ります。
 
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ポイントは3つあります。
 
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▼まず「公約への“こだわり”」中間選挙を終えたいま、自らの再選をいよいよ意識し始めたトランプ氏にとって、“コアな支持者”との約束を果たすことは至上命題のようです。
▼次に「誰が大統領を止めるのか?」政権内の“諫め役”が姿を消すことで、大統領を監視する議会本来のチェック機能に注目が集まります。
▼2年後の再選をめざすトランプ大統領の政権運営には、どんな課題があるでしょうか?

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“可哀想な僕はひとりきりのクリスマス・イブ。民主党との交渉を待っている”歌の文句か戯れか?大統領は先日そんなツイートを書き込みました。フロリダの別荘で予定していた冬休みを返上したのは、議会との予算折衝が行き詰まったからでした。“メキシコ国境に壁を建設する費用として50億ドル=日本円でおよそ5500億円を盛り込みたい”そうした大統領の求めは民主党指導部によって拒まれ、政府機関は一部閉鎖。与野党の対立はこのまま年を越す気配が濃厚です。

そもそも、こうした事態は大統領が避けようと思えば避けられたことでした。民主党が示した少ない予算額で妥協することも、壁の建設費用はひとまず先送りし、ほかの当座の予算を延長することも出来たはずでした。ところが、敢えて対決の道を選んだトランプ大統領。先の中間選挙の結果、議会下院は、来月から民主党が多数派となり、“コアなトランプ支持者”が求める壁の予算確保はいっそう難しくなるからです。
公約順守に努める姿勢を支持者に向けてアピールするため、影響が比較的少ないこの時期を狙って、与野党の対立を演出した節もうかがえます。いわば“仕組まれた対立”。こうした光景は来年ますます増えていくかも知れません。

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過激派組織のIS=イスラミックステートの壊滅を宣言し、中東シリアからアメリカ軍を帰国させる。そうした突然の発表にも、公約順守のアピールが見え隠れしています。
現にISの残存勢力との戦闘は続き、撤退の具体的な期限も明らかにしていません。
“性急な撤退はISが勢いを盛り返すリスクを高め、ロシアやイランの影響も拡大しかねない”そう反対していたマティス国防長官は、“抗議”の辞表を提出しました。
“党派の違いを超えて信任の厚かったマティス長官がついにトランプ大統領を見限った”そんな報道が相次ぐや、大統領は、長官が「来年2月末」としていた辞任のタイミングを年内に早め、あくまでも自分が解任したとする体裁を取り繕ったのです。

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これでトランプ政権内の“大人”と呼ばれて大統領をしばしば諌めてきた閣僚や高官は、全員姿を消します。国際協調を重んじたマティス長官らが政権を去ることで、アメリカ第一主義には、ますます拍車がかかるでしょう。“もう誰も大統領は止められない”。与党・共和党にも日本や他の同盟諸国にも、そうした警戒感が広がっています。

そんな反響も意識して、トランプ大統領はシリアの隣国イラクを予告なしに電撃訪問。大統領が戦闘地域のアメリカ軍部隊を視察したのは就任以来これが初めてです。国防長官の解任やシリア撤退に対する批判をかわす狙いもうかがえます。

トランプ政権の閣僚交代は今後も続くでしょう。大統領が周囲の助言を受けて政策を決定すると言うよりは、大統領の意向に沿って周囲は助言し、意に沿わない人物は排除するのがトランプ流だからです。ただ、大統領の“歯止め役”を閣僚に期待すること自体は異常です。大統領をチェックするのは本来、議会の役割です。激しい政権人事に振りまわされることなく、私たちは冷静に見守っていくべきでしょう。

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トランプ大統領の支持率は意外なほど安定しています。こちらの保守系の世論調査によると、おおむね40%台で高くもなく低くもなく。政権発足以降2年間をオバマ前大統領と比べると、トランプ大統領は遜色ないばかりか、最近は上まわることもあるのです。
「トランプ大統領を強く支持する」と答えた“コアな支持者”の支持率も見てみましょう。こちらも“トランプ離れ”の兆候はありません。
党派による分断が深まっているアメリカ。その分断を大統領が巧みに利用し、対立をいわば煽ることで、支持固めをさらに進めている構図が浮かび上がります。

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しかし一見、トランプ政権を一致団結して支えているようにも見える共和党も、実は、ひと皮めくると一枚岩ではありません。
大きく分けて2つ。▼議会上院トップのマコーネル院内総務や、かつての共和党の大統領候補で今回上院議員に当選したロムニー氏などの「主流派」と、▼ペンス副大統領、ポンペイオ国務長官、首席補佐官代行に指名されたマルバニー行政管理予算局長などの「保守派」に分かれます。トランプ政権は共和党内の「主流派」と「保守派」のいわば“連立”が支えているのです。
両者の考え方には微妙な違いがあります。「主流派」は穏健な上院議員に多く、国際協調や自由貿易を重んじて、財政支出にも積極的な傾向があるのに対し、「保守派」は強硬な下院議員や下院出身者に多く、アメリカ一国で行動することも辞さず、貿易には保護主義的、財政規律を重んじる傾向があります。

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これまでトランプ大統領は「保守派」に軸足を置いてきました。しかし、先の中間選挙で、共和党は上院で議席を増やす一方、下院は多数派の座を失ったため、両者の影響力のバランスが崩れる可能性が高まっているのです。このため来年以降トランプ政権は「主流派」の意見にも配慮するか、もしそうでないなら大統領の“独断専行”に議会上院からストップがかかる場面も出てくるでしょう。

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2年後の再選をめざすトランプ大統領にとって、来年は多くの不確定要素があります。
ひとつは大統領を取り巻く一連の疑惑追及です。ロシア疑惑を一貫して否定してきた大統領ですが、捜査にあたるモラー特別検察官が来年2月にも報告書をまとめて司法省に提出するという観測があります。民主党は大統領周辺への追及を強めるでしょう。与野党の攻防はいっそう激しくなりそうです。

ふたつ目は、アメリカ経済の好調をどこまで維持できるかです。もし経済が変調を来たし、景気減速が顕著になった場合、トランプ大統領の再選には、たちまち赤信号が灯ります。このため、来年のトランプ政権は、中国との貿易摩擦が“これまで以上に経済に悪い影響を与えかねない”と仮に判断すれば、ひとまず“和解”に応じるかも知れません。

3つ目は、大統領選挙に向けた候補者選びです。2年後の予備選挙の開始を前に、民主党の「新しい顔」に誰が名乗りを挙げるかが焦点です。ただ、一連の疑惑追及や経済の動向次第では、共和党内にも大統領への造反が起きる可能性もゼロではありません。マティス国防長官やヘイリー前国連大使など、トランプ政権から去った人々が、仮にそうした動きに加われば、大統領はたちまち窮地に追い込まれてしまうかも知れません。


来年、平成が新しい元号に変わったあと、トランプ大統領の来日も調整されています。波乱に満ちた政権運営を続けるこの大統領と、どのように向き合っていくのか?それは、私たち自身があらためて真剣に考えるべき課題となるでしょう。

(髙橋 祐介 解説委員)


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