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「移民・難民危機 国際協力をどう進めるか」(時論公論)

二村 伸  解説委員

世界が直面する移民と難民の危機に各国がどう取り組んでいくか、その規範となる枠組みが今月(12月)相次いで採択されました。国連と各国政府、市民社会などが2年かけて協議を重ねた末まとまったものです。アメリカやヨーロッパで移民や難民に対する風当たりが強まる中での正式採択は大きな一歩であり、外国人労働者や難民の受け入れ態勢の見直しを進めている日本にとっても重要です。とはいえ、危機的な状況が改善されるかどうかは、今後の各国の取り組み次第です。初めて採択された移民と難民に関する国際的な枠組みの意味と、実効性のあるものにするためには何が必要か考えます。

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まず、採択された国際的枠組みは以下の2つです。

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1つは、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」、長いタイトルですが、簡単に言えば、移民の安全と権利を守るための対策と協力のあり方を定めた、いわば国際合意で、今月10日、モロッコの会議で正式採択されました。
もう1つが、「難民に関するグローバルコンパクト」、難民の支援のための国際社会の取り組みで、17日、17日、国連総会の本会議で採択されました。2つの「グローバルコンパクト」は、100万人を越す人々がヨーロッパに流入し、第二次世界大戦後最悪の移民・難民危機といわれたおととし、国連総会で開かれた「難民と移民に関する国連サミット」で、加盟193か国の全会一致で採択された「ニューヨーク宣言」によって策定が決まったものです。条約などとは違って法的拘束力はありませんが、国際社会が負担と責任を分かちあい、一体となって取り組む枠組みが作られたことは画期的なことです。

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このうち「移住に関するグローバルコンパクト」では、▼移民を柔軟に認め、数を増やすこと、▼移民に対する差別の撤廃、▼基本的サービスと▼社会保障の提供など受け入れ態勢を強化し、移民にとって働きがいのある環境を作る他、▼移民を人身取引の被害者にさせないことや▼移住せざるを得ない出身国の状況を改善し、帰国を支援することなど23項目の目標が設定されました。この枠組みは、アメリカがトランプ政権発足後「国家の主権が犠牲になる恐れがある」として離脱したのに続いて、当初は合意したハンガリーやオーストリア、ポーランドなどのヨーロッパ諸国とオーストラリアなどあわせて10か国余りが相次いで離脱や反対に回り、移民問題の根深さを浮き彫りにしました。

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一方、「難民に関するグローバルコンパクト」の主なポイントは、▼難民を受け入れている国の負担軽減と、▼難民の自立支援、▼第三国定住、難民の避難先以外の国の受け入れの拡充です。そして▼安全な帰還のための環境整備、つまり難民の出身国の紛争終結や貧困解消に向けた支援です。こうした取り組みに国際社会の責任分担と、各国政府と市民社会、民間企業などの連携が求められています。
500万人を越えるシリア難民をはじめ世界の難民の8割以上が途上国にとどまったままでで、受け入れ国の負担は重く、国際社会の支援が不可欠です。また、ミャンマーからバングラデシュに逃れた90万人のロヒンギャの難民は、祖国での安全が保障されないため帰還のめどが立っていません。

国連によりますと、世界では2017年時点で移住した人が有史以来最も多い10億人、このうち国境を越えで移動した人が2億5800万人に上っています。世界の30人に1人の割合で、2000年より5割も増えています。

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この中には、出稼ぎ労働者などの経済的理由による移民のほか、永住者や留学生、技能実習生、それに強制的に移住を強いられた人、つまり難民も含まれています。「移民」とはどんな人を指すのか正式な定義はありませんが、IOM・国際移住機関は、法的な地位や理由、自発的か強制的かを問わず、住む場所を移動したあらゆる人を移民と呼んでいます。難民は、人種や宗教、政治的理由などから迫害を受けたり、受ける恐れがあったりして祖国を逃れた人と定義され、条約で保護が義務付けられていますが、難民に該当しない移民を守るための国際的な枠組みはこれまでありませんでした。

移民労働者が生み出す利益は世界のGDPの10%近くに上るとも言われますが、イギリスは、増え続けるEU域内からの移民の流入に歯止めをかけるため、EU離脱を選択しました。また、アメリカのトランプ政権は、移民の流入を阻止するためにメキシコとの国境に壁を築こうとしています。ヨーロッパでは、移民や難民の排斥を叫ぶ極右やポピュリストの政党が台頭するなど排他的な風潮が広がっています。移民に支えられながら経済成長を遂げ、今大量の移民・難民流入に手を焼くヨーロッパやアメリカこそこの問題に目をそらすのではなく、解決のために主導的に取り組むべきです。

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国連のグテーレス事務総長は、国際的な枠組みが「各国の主権を侵害する」という主張を根拠のないウソだと反論し、各国が協調して取り組むよう呼びかけています。不法移民を減らすためには国境管理の国際協調が欠かせません。

では、日本はどのような取り組みが必要でしょうか。移民、難民に関する2つの国際的枠組みを支持した日本は、今後、具体的な行動が求められます。

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安倍総理大臣はことし10月、臨時国会の所信表明演説で、外国人材の受け入れを進めるにあたって「世界から尊敬される日本、世界中から優秀な人材が集まる日本を創り上げる」と述べました。一方で総理は、外国人材の受け入れ拡大は「移民政策ではない」と言い続けています。この説明は国際社会では通用しないといった指摘もありますが、いずれにせよ早急に必要なのは秩序ある受け入れ態勢の構築です。今回示された差別の撤廃、賃金や住民サービス、社会保障など待遇の改善は急務です。

日本で働く外国人は120万人をこえ、政府は来年以降5年間で最大34万人を受け入れる方針です。外国人との共生をどのように進めていくのかも含めて、将来像を国民に丁寧に説明する必要があると思います。
難民政策についてもより積極的な姿勢が求められることが予想されます。

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日本の難民認定は、去年20人にとどまり、申請者に対する認定率は0.2%でした。
先進国の中では極めて少なく、難民に閉鎖的だとして国際社会の目はますます厳しくなっています。そうした中で政府は、第三国定住による受け入れ制度の改正に乗り出しました。日本は、8年前からタイなどに逃れたミャンマー難民を毎年30人前後受け入れ、これまでに44家族174人が日本で第二の人生を歩み始めました。国際的取り組みの一環として、来年から受け入れる数や、対象となる難民をミャンマー出身者以外に拡大することなどを検討しています。世界では毎年10万人以上の難民が第三国に移住していることを考えれば数はわずかですが、国際社会の責任分担という意味では重要な一歩です。今後、難民を受け入れる自治体や民間団体に対する財政面も含めた支援が必要になってきます。

とはいえ、日本が受け入れを表明したとしても、必ずしも希望者が殺到するわけではありません。第三国定住で日本への希望者が最終的にゼロだった年もあります。外国人労働者も、世界各国が確保に力を入れています。誰もが行きたいと思うような魅力的な国になるためには、受け入れ態勢の整備とともに国民一人ひとりの意識の改革が求められているように思います。
最後に、世界の移民や難民をはじめ困難に直面している人たちが平和なクリスマスを迎えられますように祈っています。

(二村 伸 解説委員)

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