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「平成最後の政府予算案~将来への教訓」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

来年度の政府予算案がまとまりました。一般会計の規模は、初めて100兆円を超えます。この予算案は、平成最後の予算案でもあります。来年度の予算の特長とともに、借金まみれとなった平成30年間の財政の歴史を見ることで、新たな時代にむけた課題について考えたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
1)    消費税対策で膨らんだ予算規模
2)    平成の財政“失政“からの教訓
3)    負担を見える化し 責任ある財政を
です。

まず来年度予算の全体像を見てみます。

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一般会計の総額は101兆4564億円と、初めて100兆円をこえました。
このうち政府の政策の実施に必要な一般歳出は、今年度に比べて3兆円あまり増えました。その最大の理由は、大掛かりな消費税対策が盛り込まれたことです。一方歳入面では、歳出に対して足りない部分を補うための新たな借金、つまり国債の発行額が今年も30兆円を上回りました。

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この結果、来年度末の政府の借金の総額は、897兆円に達します。これを国民一人あたりにすると赤ちゃんからお年寄りまで713万円の借金を抱える計算となります。

次に、消費税率引き上げに伴う景気対策の予算を具体的に見ていきます。

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▼クレジットカードなどの電子決済で買い物をした場合に、払った額の一部がポイントとして還元される制度の予算が2798億円。▼住民税が非課税の世帯と2歳までの子供がいる世帯が、2万円払うと25000円分の商品券がもらえる制度に、1723億円。▼省エネ住宅などの新築やリフォームに、商品と交換できるポイントを付与する制度に1300億円の予算が盛り込まれました。▼さらに、防災や減災、国土強靭化にむけた公共事業のための1兆3475億円の予算も、経済を広く下支えする効果があるため消費税関連対策としてカウントすると政府は説明しており、対策の規模はあわせて2兆円を上回ります。

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これに対し来年度の消費税引き上げによる私たちの負担は、減税が年度半ばの10月から始まることや、増税分のうち半分は、幼児教育などの無償化や年金生活者の支援などにあてられることなどから、実質的には6000億円程度とされています。6000億円の負担に対して2兆円を超える対策がうたれることに対しては、消費税対策に名を借りた予算のばらまきではないかといった批判の声も聞かれます。これに対し、財務当局は、「前回消費税を5%から8%に引き上げた際に、増税による影響が6兆6000億円に上ったのに対して、対策の規模は、3兆9000億円と大きく下回った。その結果、消費税引き上げ後の景気の落ち込みから回復するまでに3年もかかったという経験を踏まえ、今回は十二分な対策をとったと説明しています。
おりしも来年はアメリカをはじめとする世界経済の減速が予想され、経済の地合いが弱い中での増税が、想定を超える景気の落ち込みを招く可能性も考えられます。実際に今回の景気対策が適切な規模かどうか、ふたを開けてみるまではわからないと思います。

さて今回は平成の時代の最後の予算編成となります。ここからは、この30年の財政の歴史振り返り、そこから学び取れる教訓について考えてみたいと思います。
まずはこのグラフをごらんください。

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これは、昭和50年以降の一般会計の歳出と税収の推移を示したものです。
平成の時代が始まるとともに、歳出と税収のギャップが大きく開きだしたことがわかります。そのギャップを埋めるための国債発行の額も平成の初期のころは10兆円以下にとどまっていましたが、平成10年度以降は、ほぼ毎年30兆円を上回っています。

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どうしてこうなってしまったのでしょう。平成最初の予算編成となった2年度と来年度予算案を比べると、社会保障費が11兆6000億円だったのに対し、来年度は34兆円とおよそ3倍に上っています。その一方で、税収は消費税導入と二度にわたる税率引き上げにも関わらず、経済の低成長や法人税の引き下げなどを理由に、あまり伸びませんでした。平成2年度が60兆1000億円だったのに対し、来年度の見通しはおよそ62兆5000億円とほとんど増えていません。

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財政面からみた平成の時代とは、高齢化に伴って医療や介護など政府が国民に提供するサービスつまり給付が拡大したのにたいし、そのためにかかる費用の負担を、国民に対し十分に求めてこなかった時代だったといえます。

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確かにこの30年の間には、バブル崩壊、金融危機、リーマンショックなど、日本経済が激しく痛む中で増税したくともできない実情がありました。ただその一方で、金融危機のショックを乗り越えた平成17年ごろや、アメリカの好景気に引っ張られたおととしから今年にかけてなど、日本と世界の景気が比較的順調に拡大してきた時期もありました。そうした時期を逃してしまうと、たとえ必要があっても増税はますます難しくなるということを、平成の財政失政の教訓としてとらえることもできるのではないでしょうか。

最後に、財政再建を進めるにあたっては、財政の問題を自らにもかかわる問題だということを国民一人一人が認識していることが議論の出発点になると思います。そのためには身の回りで提供を受ける公的なサービスのコストを、誰がどのようにして負担をしているのかを日頃から意識してもらう必要がありますが、現状では、それが実感できないケースもあります。
その一つの例を医療費と国民健康保険の関係でみてみます。

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国民健康保険の加入者の医療費は、窓口負担をのぞくと、保険の加入者が支払う保険料と国と都道府県の予算によって半分ずつ賄われています。ある地方自治体の医療費が増えた場合には、国などからの持ち出しが増えるとともに、保険料の水準を決める権限をもつ市町村が、本来であれば、保険料を値上げして足りない分を確保することが求められています。保険料があがれば、個人の負担も増え、コストに対する意識をもつことにつながります。

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ところが実際には多くの市町村が、市民に痛みを求めることを避け、自治体の一般会計の財源で穴埋めしています。個人にとっては、保険料という形で自らの負担にはねかえってくることがないため、コスト意識ももちにくくなっているのです。

 こうした状況を是正しようという動きが今年奈良県で新たに始まりました。

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奈良県では、保険財政の運営の責任が今年度から市町村から都道府県に移行されたのを機に、市町村が赤字を穴埋めしていた分を県が肩代わりし、保険財政のイニシアティブをとりました。その上で、各市町村がばらばらな水準で決めていた保険料について今後6年かけて県が決めた水準に徐々に統一していきます。その後は、県全体の医療費の増減に応じて保険料を上げ下げします。つまり行政サービスにかかるコストと負担の関係を見えやすくすることで、市民にコストの意識をもってもらおうとしているのです。
私はこうした動きは財政問題の解決にむけて重要なステップだと思います。行政のサービスを受けることと、そのコストの負担が1対1で対応して見えなければ、財政の問題を自らの問題として受け止めることができないと思うからです。

 日本では今後高齢化が進む中で、医療や介護などさまざまなコストが拡大していきます。そのコストを自分たちで負担をするのか、それとも政府に借金をして負担してもらい、その付けをこれから生まれてくる後世の世代にまわすのか。平成の時代が終わる前に、財政に対する責任ある態度について、政治の責任をはじめ今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。

(神子田 章博 解説委員)

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