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「問われるFRB アメリカ経済の行方」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

10年近く景気の拡大が続いてきたアメリカ経済の潮目が、今、変わりつつあるのではないか。
こういった見方が広がる中、世界中から注目を集めていたアメリカの金融政策を決める会合の結果が発表されました。
足元では利上げをする一方、来年以降の見通しについては軌道修正をはかり、景気の減速にも備える形です。
そこでアメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会の最新の決定と、その背景や見通しについて考えます。

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最初に、FRBの決定内容をあらためて振り返ってみます。

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まず、政策金利については0.25%引き上げ、2.25から2.5%の範囲にすると決めました。
これは、ことし4回目の利上げになり、これまでの「段階的利上げ」を続ける方針に沿った形です。
一方で、来年・2019年については、利上げの回数を想定されていた3回から2回に減らし、利上げのペースを緩めていく見通しを示しました。
つまりこれまでの利上げ一辺倒による「景気の過熱を防ぐ」政策から、来年以降は「景気の減速にも目配りする」政策へと転換をはかることになります。

なぜ、FRBは政策の転換をはかるのか。
それを読み解くために、まずはアメリカ経済の現状を点検してみます。

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ことし一年の成長率はおよそ3パーセントと、ほかの先進国を大きく上回る好調ぶりで世界経済をけん引してきました。
その要因には堅調な個人消費があります。年末商戦も昨年を上回る滑り出しをみせています。
また、トランプ大統領が導入した大型減税の効果により企業業績も上向き、設備投資もすすんでいます。
なにより、失業率は3.7%。49年ぶりの低さです。
こうした現状を踏まえて、景気を引き締めるための利上げを決めたのです。

しかし来年以降の見通しとなると、話が違ってきます。
パウエル議長は会合後の会見で、このところの株価下落や世界経済の減速に触れた上で、「2019年は成長がより緩やかになることが予想される」と説明しました。
その要因、主に3つあると考えられます。

一つは景気循環と金利上昇の影響で、これまで好調だった消費が鈍ってくる兆しがあることです。

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アメリカは2009年の夏以来、9年半にわたって景気の拡大を続けており、すでにピークは過ぎたのではないかと指摘されています。
特に注目されているのが住宅や自動車市場の先行きを示す指標です。
住宅投資は3期連続のマイナス。12月の住宅市場指数も3年ぶりの低水準となり、建設業者たちが来年以降の販売に不安を感じていることがみてとれます。
また、全米自動車ディーラー協会も来年・2019年の新車販売台数は、ことしを下回ると予想しています。
金利の上昇に伴い、住宅や自動車ローンの負担が重くなっているのも、減速の要因になるとみられています。

二つ目はトランプ大統領が導入した景気刺激策の効果が一巡するのではないかとみられることです。

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景気が息切れすれば、自らの支持率も下がることを警戒し、大統領は30年ぶりともいわれる大型減税を導入して一定の支持を得てきました。
しかし、こうした政策の効果も徐々に落ち着いてくるとみられています。
そして、むしろこの大型減税によって財政赤字が拡大し、アメリカ経済の足をひっぱる重石になりそうです。
2020年度には財政赤字が1兆ドルを突破する見通しで、この赤字をまかなうための国債の利払いが嵩みつつあります。
さらに2023年度には、この利払いが、国防費を上回ると予想されています。
トランプ大統領は、景気を冷え込ませないよう、新たなインフラ投資や中間所得層向けの減税を導入しようと、野党・民主党との妥協を探っています。
が、財源は限られており、仮に実現したとしても、規模の大きいものは難しいとみられています。
財政出動で景気を支えるには限りがあるということです。

そして、FRBの判断の三つ目の要因は、中国との対立による悪影響が長期化するのではないかという懸念です。

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先に行われた米中首脳会談での一時休戦の合意もむなしく、中国の通信機器大手ファーウェイの幹部がアメリカの要請で逮捕されたことで、再び緊張が走っています。
両国の対立が貿易戦争にとどまらず、デジタル覇権、世界一の座を巡る経済覇権争いでもあることが、あらためて浮き彫りとなったからです。
実際、中国はアメリカを超えようと、着々とハイテク産業の育成をすすめています。
「中国製造2025」の中核的な役割を担うファーウェイはことしの夏アップルを抜き、世界第2位のシェアをもつスマートフォンメーカーとなりました。
また、清華大学の研究チームが今年はじめに発表した新型半導体“THINKER”は世界中の業界関係者を驚かせました。
消費電力がこれまでのわずか1千分の1という驚異的な少なさですむとみられるAIチップが開発されたからです。
世界の半導体業界のトップを走るアメリカが警戒心を強めるのは間違いなく、そうなれば、中国への圧力を緩める可能性は低いのではないか。
両国の歩み寄りと対立が限りなく繰り返され、輸出や投資などへの悪影響が続くという見方が広がっています。

こうした懸念材料を念頭に、パウエル議長は会合後の会見で「経済指標を注意深く見ながら金融政策を調整していく」と強調しました。
しかし19日のNY株式市場では、FRBの発表後株価が値下がりし、ダウ平均株価はことしの最安値で取引を終えました。
景気の先行きに配慮した姿勢が足りなかったと受けとめられたのです。
こうなってくるとFRBに対する風当たりがさらに厳しくなってくることも予想されます。

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トランプ大統領は今回の会合の直前までFRBに利上げを止めるよう自らのツイートなどを通じてプレッシャーをかけてきました。
これに対し、パウエル議長は「政府は何の影響力も持たない。我々は独立している」と一蹴しましたが、2020年の次期大統領選を前に、政府からの圧力が一段と高まることも考えられます。
市場では次の利上げは来年3月になるとの見方が大勢を占めています。
ですが、景気後退のリスクが高まれば、利上げそのものを打ち止めにすべきではないかという議論が活発化するものとみられます。

一方、日本への影響についてですが、アメリカ経済が悪化すれば輸出などの面で打撃を受けるのは避けられません。
さらに注目されるのは今後の為替相場の動向です。
アメリカの利上げが打ち止めになれば、円高がすすむ可能性があるからです。
今はマイナス金利を導入している日本よりアメリカの金利のほうが高いため、円を売ってドルを運用する動きが続き、比較的円安の水準に落ち着いています。
しかし日米の金利差が縮まれば、ドルを運用する動きが鈍り、円高にふれやすくなることも予想されます。
日本企業の業績が堅調なのも円安の恩恵を受けている側面が大きいため、注意が必要になりそうです。

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FRBは来年から、年8回行われる金融政策を決める会合のうち、年4回のみ、議長会見を開いていたのを改め、すべての会合後に開くことにしています。
これまでは大きな政策変更は議長会見がある4回の会合のみ、というのが暗黙のルールとなっていたため、今後は、より柔軟かつ頻繁に政策変更をしやすくなります。

中国やヨーロッパ経済の雲行きが怪しくなる中、「頼みの綱」であるアメリカ経済まで失速すれば、世界経済全体にも大きな影響を与えることになります。
パウエル議長が率いるFRBがアメリカ経済を軟着陸させることができるのか、その手腕がこれまでにも増して、問われています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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