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「延命は必要か?高速炉開発」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

2年前廃炉が決まったもんじゅに続く高速炉の開発について、政府は今週「実用化は今世紀後半」とするあらたな工程表の案をまとめた。
これまでより数10年先送りとなるが、あくまで高速炉開発にこだわる姿勢を鮮明に。
しかし一般の原発の燃料のウランは当面枯渇の心配もなく、共同研究であてにするフランスも計画を大幅に縮小する方針。
このまま高速炉にこだわってもんじゅの失敗を繰り返すことになりはしないのか。水野倫之解説委員の解説。

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ポイントは3つ。
▽あらたな高速炉の工程表について、
▽なぜ高速炉にこだわるのか。
▽政策の見直しは

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まず工程表の案のポイントは、まず、
▽天然資源が少ない日本にとって高速炉は、ウラン資源を有効に利用できて、一般の原発から出る高レベルの放射性廃棄物の量も減らせることから、引き続き意義があると強調。
▽そして今後はメーカーなど民間にも早い段階から開発に参加してもらい、国際協力も念頭に幅広く技術開発を行っていく。
▽もんじゅの後継となる実用化手前の炉を今世紀半ば頃に運転開始し、実用化は今世紀後半になる。

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実用化はこれまでより数10年先送りされることになるが、あくまで高速炉開発にこだわり、プルトニウムを利用する核燃料サイクルを堅持する方針を鮮明にした形。
ただこれは是が非でも高速炉を実用化していくことを表明したというよりは、すぐにはやめられない事情があり、当面時間稼ぎをしておきたいという意味合いが強い。

この高速炉。一般の原発のようなウランではなく、プルトニウムを効率よく燃やすことができる特殊な原子炉。
天然資源に乏しい日本は原子力の研究開発を始めた当初から、一般の原発の使用済み燃料はすべて再利用してプルトニウムを取り出し、高速炉で繰り返し使う核燃料サイクルを目指すことを原子力政策の大原則として掲げ高速炉がその要に。

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それから40年ほどたち原型「もんじゅ」が運転開始も、ナトリウムの取り扱いが難しくトラブルが相次いだうえに、運営する原子力機構のずさんな点検も問題となり、政府はおととし廃炉を決定。
もんじゅはどれだけ成果をあげたのか、
会計検査院があらためて検査。
その結果、少なくとも1兆1300億円以上の国費が投じられたものの、研究の達成度は16%にとどまっていたことがわかったとしている。
つまりもんじゅは研究開発炉としての役割はほとんど果たすことができず、プロジェクトとしては失敗に終わったと見るべき。

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ところが政府は、後継炉の開発に生かせる技術的知見は得られたとして、いまだもんじゅを失敗とは認めていない。
そしてフランスが研究を進める実用化一歩手前の高速炉の共同研究を軸に、さらに先の開発を目指そうとまとめたのが今回の工程表。

しかしOECD/NEAがまとめた世界の最新のウランの埋蔵量は135年分と、天然ガスの倍以上。ウラン資源を有効活用する高速炉の必要性は薄れている。
これを受けて日本があてにしていたフランスも、今年、大幅に縮小方針。
また国内でも原発再稼働は進まず、民間に高速炉の開発に参加する余裕があるのか疑問符も。

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こうした状況にもかかわらず高速炉の開発を進める姿勢を示したのは高速炉を要とした核燃料サイクルの旗を降ろしたわけではないということを内外に示すのが狙いではないか。

理由の1つは核兵器の原料ともなるプルトニウムを大量に抱えている問題。
福島の事故を受けてプルサーマル方式もあまり進まず、現在、47tものプルトニウムがたまる。国際社会の厳しい目があり、国の原子力委員会はこの夏、今後電力会社が利用計画を作り削減していくとする方針を内外に示したばかりで、高速炉などでプルトニウムを使う核燃料サイクル政策を今やめるわけにはいかない事情。

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もう1つは、一般の原発から出る使用済み核燃料が行き場を失い、再稼働に影響しかねないという問題。
青森県の再処理工場にはすでに3000t近い使用済み核燃料が運び込まれている。
青森県はサイクルをやめるのであれば使用済み核燃料を各原発に送り返す方針を示しており、原発の稼働が難しくなるかも。

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しかしこのまま見通しの立たない核燃料サイクルを掲げていたとしても、いずれ破綻し使用済み核燃料の扱いにさらに窮することが目に見えている。
今やるべきことは核燃料サイクルの見直し。
高レベル廃棄物の最終処分場は全くめどが立っていないので、当面は使用済み燃料の貯蔵場所を確保することが重要。乾式貯蔵を勧めなければならない。
また47tのプルトニウムについても、一般の原発で消費しきれない場合に備えて、安全に最終処分する方法の検討も。

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今回の高速炉の工程表はもんじゅを推進してきたメンバーだけで決めているので、今後高速炉の利害関係者ではない有識者も入れた委員会を設置し、見直し作業を進めていかねば。

(水野 倫之 解説委員)


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