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「水産改革関連法成立 漁業は復活できるか」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

安倍政権が70年ぶりの抜本的改革と位置づける水産改革関連法が、先週、可決、成立しました。資源の枯渇などで水産業が低迷する中、資源管理を強化し、養殖などで企業の新規参入を促すなどして、漁業の成長産業化につなげるのが目的です。
しかし、その実現には課題も多く、漁業関係者の中には、不安も広がっています。
成立した水産改革関連法の課題について考えます。

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今回、なぜ漁業法などを大幅改正する必要があったのか。背景には漁獲量の減少と、担い手不足があります。

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日本の水揚げ量は、1984年に1200万トン以上と過去最高を記録した後、去年には430万トンと、30年間で3分の1程度に減少しました。

マイワシが捕れなくなったことや、200海里が設定されていく中で、遠洋漁業が閉め出されたことが主な原因ですが、それ以外にも日本近海に生息するサバやスケトウダラ、ホッケなどが、乱獲などもあり、軒並み、とれなくなっているのです。

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漁業者の減少も深刻です。国内の漁業者の数は現在15万人と、この10年で7万人減少し、平均年齢も57歳と高齢化が進んでいます。今後も漁業者の数が減ることが予想され、漁場の有効利用という面でも懸念が広まっています。

もちろん、食卓に並ぶ水産物のうち、足りないものについては海外から輸入しています。しかし世界では水産物需要が増え続け、地球温暖化で海洋環境も変わっています。
将来にわたって、安定的に消費者に、水産物を供給するためには、国内での水揚げ増加と、意欲のある漁業者の確保が、不可欠になっているのです。

では今回の法律で何が変わるのでしょうか?

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まずは、資源管理の強化です。日本近海には様々な魚介類が生息し、世界有数の漁場とされています。ところがそのうち、規制を行っているものは、サンマやクロマグロなど8魚種に過ぎません。まずは規制の魚種を20程度にまで増やし、資源の減少に歯止めをかけます。

その上で規制のあり方を変えます。これまで、全体で獲る量を決め、後は自由競争に任せていた規制を、今後は船ごとに数量を割り当て、それぞれの水揚げ量を厳しく監視します。その代わり、船の大きさなどの規制を廃止し、今後は自由に船の能力を高め、効率の良い、漁業を目指します。

さらに、養殖などにおいては、国が固定してきた、漁場を漁協が優先的に利用できる順位を廃止し、企業なども、容易に参入できるようにしました。
そしてこうした改革の結果、漁業の成長産業化を目指すとしています。

もちろん、これまで日本としても、資源管理に取り組んで来なかった訳ではありません。
しかし国内で規制しても、他の国の漁船が獲ってしまうとか、零細漁業が多い日本では個別割り当てなどは難しいと、導入には消極的でした。
そうした意味からは、今回の法律、日本の水産行政の大きな転換とも言えます。課題となるのは漁業者の理解と協力です。

まずは、資源の管理強化です。

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これは水産庁が今後の資源管理のあり方を示した図です。
増減を繰り返す水産資源に対し、これまでは安定した子魚を確保するための、最低限の親の量、この水準までの回復を目指して資源管理を行ってきました。

しかし欧米では、この水準では不十分で、子魚の発生が最大となる親魚の確保、その水準を目指した資源管理を行っています。

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水産庁としても今後は、この水準まで引き上げる考えです。
もちろん、資源管理を厳しくすれば、長期的には資源量は増えます。しかし漁業者としては、規制の水準が引き上げられることで、その間の漁獲を我慢しなければなりません。
将来のメリットを、今の漁業者が納得し、協力してくれるかです。

また、漁獲枠配分の方法も難題です。

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今回、法律では、全体の漁獲量で管理する方法を止め、漁船ごとに漁獲枠を割り当てる方式に転換するとしました。
全体で管理する方法は、参加者全員が漁獲枠に達するまで、競争して魚をとり続けるため、乱獲になりやすいとして、その見直しが専門家などから強く求められてきました。

これを個別割り当て制にすれば、自分の獲り分は確保されますから、自らの経営の中で最も価値の高い時期にとることが出来るようになり、資源管理にも取り組みやすくなります。
問題はその配分方法です。

法律では、大型船が操業する沖合と、小型の船が多数操業する沿岸漁業に分け、それぞれ船ごとに、漁獲枠の配分を行うことになっています。
しかしどのようなルールに基づいて配分するかは決まっていません。零細漁業者の中には配分が少なくなるのではないかと不安視する人もいます。

これまで日本の資源管理は、漁獲する水産物の量を、科学的にと言うよりは、漁業者の経営に配慮して決められてきました。
その結果、漁獲枠が資源量より多く設定されたり、漁獲実績がわずかしか無いのに、過大な漁獲枠が維持されたりと、非科学的な資源管理が続けられてきました。
資源以上の過大な漁獲枠を設定することで、漁船同士の対立を避けてきたわけです。

しかしそうしたことを続ければ、資源は枯渇します。今後、欧米並みの資源管理を行うとなれば、痛みを受け入れてもらうことが必要です。
水産庁には、漁業者の不安と反発と向き合う覚悟が求められます。

さらに、企業の参入です。
現在、養殖など海面利用の漁業権は国が、その利用順位を細かく決めています。

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今回の法律は漁協に優先的に与えられてきた順位を廃止し、漁場を「適切かつ有効に」利用していなかった場合、地域の発展に寄与すると、認められた企業などにも、都道府県知事の判断で免許を与えることが、出来るようにしました。

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もちろん、これまでも企業が参入できないことはありませんでした。クロマグロ養殖など大手企業が漁協の一員となって養殖に参入する例は全国にあります。
それでも順位を廃止したのは、企業が参入するに当たってのプロセスや協力金などの要求が不透明だとする指摘もあり、新たな投資を促し、地域の活性化に結びつけるためには、必要だと判断したからだと思われます。

高齢化などで、使われない漁場が増えてきている現状を考えると、新たな参入者を確保することは重要です。
ただ、優先順位の廃止が、地域の特に零細な漁業者に不安と反発をもたらしていることも事実で、国会でもこの点に議論が集中しました。
水産庁としては、どのような場合に、漁業権を企業などに付与するのか、今後考え方を示すとしていますが、現場に混乱をもたらさないような丁寧な説明が必要でしょう。

今回の改正は、70年間行われてきた漁業管理や海面の使い方を大きく変えるもので、2年後には施行を迎えます。しかし法律の中身を見てみますと、今後詰めなければならない点が沢山残っています。

新たな資源管理で水揚げを増やし、漁業の担い手を増やせるのか。改革の成否は漁業者の間に残る不安を払拭し、理解と協力を得るための、政府の取り組みにかかっていると思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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