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「問われる国会・与野党の責任」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

秋の臨時国会は、48日間の会期を終えて、きのう(10日)閉会しました。重要な法律が成立し、“安倍1強”とされる、いまの政治状況を改めて印象付けましたが、一方で、結論ありきの姿勢には疑問の声もあがり、議会のあり方が問われています。今夜の時論公論は、この国会を振り返り、国会、そして与野党の責任について考えます。
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まず、はじめに、この国会の位置づけをおさらいしましょう。
この秋の臨時国会は、▽安倍総理大臣が、9月の自民党総裁選挙で3選を決めてから初めての国会で、残り3年間、どのような姿勢で政権運営にあたるかが注目されました。また、▽次の参議院選挙まで1年を切り、春には統一地方選挙が控えている中、与野党が対立姿勢を強めることが予想されました。一方、▽国会としては、行政の不祥事が相次いだ先の通常国会の反省も踏まえ、行政の監視役としての機能を十分果たせるかが厳しく問われました。
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臨時国会の最大の焦点は、深刻な人手不足に対応する、外国人材受け入れ拡大法案の取り扱いでした。欧米諸国では、いま、外国人の流入が、国家的な問題となっています。しかし、結果からみれば、この法律は、衆議院の委員会で、およそ17時間、参議院でもおよそ20時間という、異例のスピード審議で、可決・成立しました。
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それにしても、なぜ、こんな厳しい日程となったのか。もともと、この国会の会期は48日間と、長くはありませんでしたが、期間中、目だったのは総理の外交日程です。冒頭の演説で、安倍総理は、「戦後日本外交の総決算を行う」と強調。与野党の代表質問を受ける前に中国に出発し、日中首脳会談に臨みました。その後も、ASEAN首脳会議やG20サミットなど数々の外交日程をこなし、48日の会期のうち14日を海外出張にあてました。
世界のグローバル化が進み、外交がより重要性を増していることは間違いありませんし、総理がいなくとも法案の審議はできます。とは言え、審議の節目には、総理の出席が求められるため、日程調整の高いハードルとなりました。
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では、そうした中にあって、国会では十分な審議が行われたのか。
まず、問われるべきは、政府の対応です。政府は、制度を4月からスタートさせるため、この国会で法律を成立させるよう強く求めました。しかし、▽外国人労働者の受け入れ見込み数の取りまとめに手間取った上、▽失踪した外国人技能実習生に関する調査に誤りが見つかるなど、事前の準備不足が明らかになり、審議は冒頭から躓きました。
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また、外国人労働者を、どの分野に、どれだけ受け入れるかについては、『法律の制定後、政府が定める』ことになっており、審議でも、「検討中」あるいは、「今後、検討していく」という答弁が目立ちました。
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外国人労働者の受け入れは、その範囲や規模によって、社会制度、あるいは、国民生活に与える影響は大きく変わり、それが分からなければ審議も深まりません。だだでさえ総理の外交日程で窮屈な審議が強いられるなか、「時差が激しく残っている中、委員会でややこしい質問を受ける」という安倍総理の発言は、「国会軽視」と野党から厳しい反発を受けました。
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その上で、与党も、この国会で、その責任を果たしたと言えるでしょうか。
今回、直面している深刻な人手不足解消のため、外国人の雇用に新たな道を開いたという点は、与党の成果と言えるでしょう。ただ、そもそも、「人口減少が続く中、外国人労働者の受け入れが必要だ」という点は、与野党に大きな考えの違いはありませんでした。であるのなら、単に「法案成立」ではなく、時には、政府に妥協を求めても、議会での幅広い合意形成に努めるのが与党の役割だった筈です。野党の反対を押し切る形で採決したことについて、ある与党議員は、「総理の外交日程や、会期内成立という縛りがあり、苦渋の判断だった」と説明しますが、そこには、『政府への配慮』はあっても、『議会運営に責任』を負う、与党の姿は見えません。
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取材で直接話を聞くと、与党議員でも、「法案の内容や答弁が粗すぎる」と懸念する声は多くありました。しかし、実際に、与党が指導力を発揮する場面は、最後までありませんでした。
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対する野党側も、「問題の本質をつき、与党にストップを掛ける」という野党の役割を十分果たしたでしょうか。
確かに、いまの技能実習制度が抱える深刻な問題点をあぶり出したのは野党の成果です。ただ、審議時間の制約はあったにせよ、この法律が、「本当に地方や中小企業の人手不足解消につながるのか」「劣悪な労働環境の改善が進まなくなるのではないか」といった点について、議論が深まったようには思えません。また、国会対応をめぐっても、選挙を意識した、各党の思惑の違いから足並みが乱れる場面もあり、巨大与党にブレーキを掛ける圧力にはなりませんでした。
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そして、もっとも大きな問題。それは、一連の審議を通じ、国民の理解が深まったかという点です。多くの外国人と共に働き、生活していくには、地域社会の理解と協力が欠かせません。しかし、直接、多くの外国人と向き合うことになる自治体の関係者や、地域住民などから意見を聞く、『公聴会』は開かれず、現場の声がどこまで生かされているかは疑問です。では、今回の法律を、国民は、どう見ているのか。きのうまとまったNHKの世論調査で、この法律が成立したことを、▽「評価する」は38%。逆に、▽「評価しない」は54%と、半数を超えています。
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日本で働く外国人労働者は、去年10月の時点で、127万人あまりに上っており、今後も増え続けることが予想されます。国民の間には、受け入れ環境が整わないまま、多くの外国人が日本に来れば、治安の悪化、あるいは、社会の分断の火種になるのではないかという不安の声もあります。安倍総理は、来年4月の法律の施行前に、今回の制度の全体像を国会に報告する、としています。政府として、十分な説明責任が求められるのは当然ですし、国民の代表として、国会がきちんとチェックすべきなのは言うまでもありません。

日本では、これまで、いわゆる“官僚主導”から“政治主導”への転換を目指し、総理大臣のリーダーシップや総理官邸の機能強化が進んできました。しかし、その強くなった行政をチェックする国会の行政監視の機能は、『旧態依然』のままです。議員の中にも、「このままでは、国会は国民の信頼を失う」という危機感は、与野党の枠を超えて広がりつつあります。しかし、そうした国会改革の議論は、この国会でも、与野党対立のあおりを受け、真正面から議論されることはありませんでした。
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最新のNHKの世論調査で、安倍内閣の支持率は、▽「支持する」は41%、▽「支持しない」は38%でした。「支持する」が先月より5ポイント減ったものの、国会での騒動の割には、全体として大きな変化は見られませんでした。更に詳細な分析が必要ですが、仮に、それを有権者と国会との距離、あるいは国会への関心度の反映と見るならば、国会は、もっと危機感を持つべきでしょう。
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欧米各国では、いま、極端なナショナリズム、あるいは格差の拡大などを背景に、テロや暴動が頻発しています。それは、健全な民主主義が、ある意味、機能不全を起こし、本来、国民の代表たるべき政治家、または、議会が、国民の不信や不満の声を放置してきたことへの怒りが限界を超えた表れと言えるでしょう。
日本の政治、そして、国会は、きちんと国民の声、そして、期待に応えているのか。
その問いかけは、この国会後、ますます重く、さらに深刻化していることを、政治は真剣に受け止める必要があります。

(太田 真嗣 解説委員)

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