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「米朝 本格交渉への正念場」(時論公論)

塚本 壮一  解説委員

北朝鮮の非核化に向けた動きが止まっています。アメリカ・トランプ大統領とキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長による2回目の米朝首脳会談は年内に行われるという見通しも一時、あっただけに、対話の停滞は明らかです。また、キム委員長と韓国ムン・ジェイン大統領が年内に開くことで合意した南北首脳会談も、すでに12月に入ったのに開催のメドが立っていません。

こうしたなか、トランプ大統領は先頃、2回目の米朝首脳会談を年明けに行いたいという考えを示しました。

米朝の対立の深層はどこにあるのか、そして、北朝鮮の非核化は本当に進むのかを探ります。

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《解説のポイント》
▼米朝交渉はなぜ止まったのか
▼韓国の仲介はうまくいくのか
▼米朝は今後どう出るのか

●米朝協議 停滞の理由

米朝の話し合いが停滞するに至った経緯です。

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6月の米朝首脳会談以降、北朝鮮は朝鮮戦争の終戦宣言をアメリカに求めました。一方のアメリカは、まずは北朝鮮が非核化に向けた具体的な手順を示すべきだという立場で、交渉は膠着状態に陥りました。11月初めには、ポンペイオ国務長官とキム・ヨンチョル副委員長がニューヨークで会談することが発表されたものの、北朝鮮が延期を申し入れ、不発に終わりました。

トランプ大統領は先頃、2回目の首脳会談を2019年の1月か2月に開催する見通しで、開催地として3か所を検討していることを明らかにしました。しかし、事前協議が行われているのか、ハッキリしません。

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北朝鮮はこの間に、アメリカに対する要求を、朝鮮戦争の終戦宣言から経済制裁の解除に切り替えました。アメリカにとっては、いっそう受け入れがたい話です。北朝鮮にとって、経済制裁の解除は、まさに宿願です。キム・ジョンウン体制の永続的な維持のためには、アメリカとの国交正常化と経済制裁の解除が欠かせないと考えているからです。北朝鮮は、制裁の解除や緩和をアメリカに飲ませることは、キム委員長とトランプ大統領、トップ同士の会談でしか果たせないと思い定めているのでしょう。

北朝鮮の国営メディアは最近になって、核と経済建設の「並進路線」、つまり、去年まで、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返した強硬路線に復帰する可能性を伝えました。アメリカへの牽制です。しかし、その発表の仕方は抑制されたものでした。

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キム委員長が1年ぶりに兵器の実験を視察したことも伝えられましたが、公開された写真に兵器は写っていませんでした。アメリカを牽制しつつも、トランプ政権を刺激することを避けているのは、首脳会談を睨んでのことです。

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一方のアメリカも、トップ同士の会談で制裁解除に向けた道筋を付けたいという北朝鮮の思惑はわかっています。それを承知の上で、会談の開催をテコに、北朝鮮から非核化に向けたできるだけの譲歩を引き出す考えと見られます。アメリカも、また、来年春の米韓合同軍事演習の規模を縮小すると発表するなど、北朝鮮との対話にオープンな姿勢を維持しています。

米朝双方とも、首脳会談への意欲はありながら、それに向けた手がかりを見出すことができていないというのが、いまの構図です。

●韓国の仲介は有効か

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その両者の仲介役を自認するのが韓国のムン・ジェイン大統領です。この秋、仲立ちを越えてアメリカに対話を促す姿勢を強めました。9月の国連総会で行った演説では、「いまや国際社会が北の新たな選択と努力に応じる時だ」と主張したほか、この時に開かれたシンポジウムでは、「キム委員長は今回こそ信じて欲しいと話していた」とまで述べていました。10月のヨーロッパ訪問では、ローマ法王の訪朝の約束を取り付け、北朝鮮が平和を求めていると印象づけようとしました。

ムン大統領が北朝鮮問題をなんとか進展させたいと考えるのは、支持率のアップが狙いでもあります。経済の不振などで、半年前は80%あったムン大統領の支持率は50%近くまで下落しています。

しかし、ムン大統領の前のめりとも言える姿勢をアメリカは歓迎するはずがありません。北朝鮮に対する国際社会の圧力が緩んでしまうからです。慶応義塾大学の西野純也教授は、「韓国はかえって主導権を失う」と分析しています。

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実際、アメリカは、韓国との間で合同の作業部会を設置し、南北問題もその中で協議することを決めました。韓国が核問題を置いて南北関係を優先することのないよう、牽制したわけです。

いまのところ韓国は南北首脳会談を一方的に推進することは思いとどまっているように見えます。ただ、米朝がいつまでも動かなければ、しびれを切らせて南北首脳会談に踏み切ってしまう可能性も排除できません。しかし、もしそうなったとしても、核問題の進展に韓国が果たせる役割は限定的と見るほかありません。

では、中国はどうでしょうか。確かに北朝鮮との関係は改善しましたが、アメリカとは貿易問題で依然として厳しく対立しています。中国が直ちに米朝の仲立ちを果たすことは困難です。

●米朝の出方は

結局のところ、非核化に向けて再度動き出すかは、米朝それぞれの出方にかかっています。

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まず、北朝鮮はどう出るかです。2回目の米朝首脳会談が行われれば、非核化に向けた具体的な手順を盛り込んだ工程表で合意しなければなりません。それは北朝鮮も分かっているはずです。北朝鮮がいま、制裁解除の要求を強めているのも、トランプ大統領との間でディール、つまり、取り引きが可能かどうかを探りたいからでしょう。首脳会談に向けた水面下の話し合いが再び始まったときに、アメリカ側の出方を北朝鮮がどう判断するかです。

それから、北朝鮮自身の経済状況も判断の大きな材料になると見られます。現時点で北朝鮮経済が危機的な状況にあるとは見られていませんが、厳しい制裁の影響は遅かれ早かれ、避けられません。制裁解除をめぐるアメリカの出方と国内の経済状況を見比べながら、合意が可能かどうかを見極めようとすると見られます。

一方のアメリカの出方です。トランプ大統領はキム委員長との会談に変わらず意欲的で、韓国のムン大統領に、キム委員長宛てのメッセージを託すこともしました。ただ、その中で、「キム委員長が好きだ」という一方で、非核化を約束した6月の首脳会談での合意を履行して欲しいとクギも刺しています。また、トランプ大統領は解決を急がないとも繰り返しています。大統領が北朝鮮による核放棄を確実にしたいと考えているのは確かだと思います。ただ、トップ同士でディールをしようという北朝鮮の呼びかけに、そうしたディールを好むトランプ大統領が、事前の準備が不十分なまま乗ってしまう可能性はないのか、懸念しないわけにいきません。

●これからが正念場

米朝の動きは、表面上、止まっています。しかし、両国はいま、非核化に向けた具体的な工程表と経済制裁解除という、北朝鮮の核問題進展に向けた本格的な話し合いに入る可能性がありながら、北朝鮮が演出するゲームにアメリカが乗ってしまう危うさもはらんでいます。私たち日本にとっては、これから年明けにかけて、むしろ、重要な時期を迎えつつあるように思われます。これまで、はかばかしい進展がなかった核問題です。この際、米朝両国は非核化が確実に進むよう、しっかり取り組むべきです。

また、日本も、北朝鮮が拉致・核・ミサイルを包括的に解決すれば明るい未来を描くことができるというメッセージを引き続き打ち出し、北朝鮮の決断を促すことが求められています。

(塚本 壮一 解説委員)

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