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「障害者雇用水増し 問われる 選考試験の役割」(時論公論)

竹内 哲哉  解説委員

中央省庁の8割以上が障害者手帳などを確認せず、障害者の雇用を水増ししていた問題で、政府は雇用達成のために国家公務員試験では初となる障害者限定の統一試験を導入し、その受付がきのうから始まっています。

この試験も含め、政府が雇用率達成のために2019年中に計画している採用人数はおよそ4000人。一度にこれだけの障害者を採用する計画はかつてなく、障害者団体からは「単なる数あわせになるのではないか」と懸念する声が上がっています。

きょうは政府がどのように障害者雇用を進めていくのか。選考方法とその課題について解説します。

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<解説のポイント>
解説のポイントです。

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●新たな障害者採用の枠組み
●次に統一試験の課題
●採用面接の重要性

<新たな障害者採用の枠組み>

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さて、中央省庁が満たさなければならなかった障害者の法定雇用率は去年6月の時点で2.3%でした。しかし、今回の雇用水増し問題を受けて行われた検証委員会の報告書によると、雇用率は1.18%だったことが発覚。雇用率を満たすためには、およそ3700人が不足していたことが分かりました。

法定雇用率は今年度2.5%に引き上げられており、雇用率達成のために、政府はおよそ4000人の採用を目指すとしました。このために作られたのが、新たに障害者に限定した採用の枠組みです。

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採用には常勤職員と非常勤職員があり、常勤職員は、人事院が実施する筆記試験と各省庁の面接で合否を決定する統一試験と、各省庁が実施する個別選考があります。

非常勤職員は、各省庁が個別に書類選考や実技試験などを行って合否を判定します。

採用人数はそれぞれ常勤職員がおよそ1210人、非常勤職員はおよそ3150人となっています。

この新たな採用の枠組みを設けたことは、これまでの採用方法に比べ、障害者の国家公務員への門戸を大きく広げたという点で評価ができます。
国家公務員として働けるというのは、安定した生活と収入を得られるという点で、まだまだ一般の人と比べると就職先が見つけにくい障害者にとっては大きな魅力です。先月27日に開かれた省庁の合同説明会には、定員300人のところ、400人以上の申し込みがあったことからも、その関心の高さはうかがえます。

一方で、これだけの人数を1年で雇用することに関しては、「いきなり4000人もの仕事があるのか」、「ただ雇われるだけにならないか」といった疑問の声も上がっています。

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<統一試験における課題①能力に見合った職務の提示を>
その懸念が、一部表面化しているのが統一試験による採用です。

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人事院によれば、この試験の難易度は高校卒業程度とされ、人文科学や社会科学などの知識を問う問題のほか、課題処理や数的処理などが出題され、作文も課せられます。

公務員としての基礎的能力のほか、将来的には政策・立案に携わる能力があるかも見る試験となっています。

しかし、合同説明会に参加した29省庁に取材したところ、「コピーやデータ入力といった事務補助業務に従事して欲しい」あるいは「郵便物の仕分けなどの軽作業も視野に入れている」とするところがなかにはありました。

必ずしも試験ではかられる能力を発揮できる職務とは一致していません。

「どんな障害者が応募してくるか分からない」というのが理由ですが、雇い主ならば、「試験を突破する人材には能力がある」ということをきちんと評価し、それに見合った職務を提示するのが本来あるべき姿です。

<統一試験における課題②試験の公平性は担保されるか>
試験を突破するためには、一人一人が能力を発揮できる配慮が必要になります。
今回の受験資格は「障害者手帳」あるいは「医師の診断書など」があるということですので、ほとんどの障害者に門戸が開かれているといえます。そのため、試験の公平性を担保するためには、それぞれの障害特性に応じた配慮は必要不可欠です。

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人事院が示している受験上の配慮には、視覚障害者には点字や拡大文字を使用できるようにしているほか、パソコンによる音声読み上げを補助として使うことなどが書かれています。また、聴覚障害者には「書面による伝達」、手に障害のある人には「パソコンの使用」を認めています。しかし、明記されている配慮は、能力をはかるという点で同じような性質を持つ大学入試センター試験と比べると少なく不十分です。たとえば、センター試験には書かれていて、統一試験で書かれていないものには、手話通訳士、介助者などの配置のほか、病弱者や発達障害者に対する配慮があります。

もちろん、試験の公正・公平が担保できないような配慮はされるべきではありません。しかし、障害者にとって配慮の申し出は試験を受けることと同じくらい神経を使います。人事院は申し出があれば可能な限り配慮をするとしていますが、少しでもその負担を減らし、受験生が能力を発揮できるようにするためにも、試験の本質に抵触しないのであれば、それぞれの特性に見合った配慮を丁寧に明記することが必要だと考えます。

しかし、どのような配慮をしても統一試験が能力をはかる試験のため、障害の種類によっては、適応できない場合もあります。人事院の担当者も「知的障害者には事実上、難しい」と認めています。

知的障害者に限らず、統一試験では能力をはかりきれない障害者を、個別選考で採用していくことは障害者雇用を進める上では必須であり義務だと考えます。
障害者の特性は人それぞれであり、だからこそ採用試験や雇用が難しいのは事実です。

そのため、本来は時間をかけて、仕事の切り出しや試験における配慮を決めていく必要があります。今回は1年という期間が切られてしまったため、あまりにも拙速すぎて、対応が追い付いてないというのが実感です。

さらに、4000人という大量の採用。障害者の継続的かつ持続的な採用への歪みとならないか、方針も含め見直す必要があるのではないでしょうか。

<採用面接の重要性>
こうしたなか、障害者雇用の採用にあたって最も重要だと考えるのは面接です。仕事への適性はもちろん、働く際に必要な配慮を各省庁が障害者から引き出せる機会だからです。

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各省庁に取材をすると、様々な障害者を雇ったことがないので「どのように対応していいか分からない」というのが現状です。そこで、一つ提案するのは障害者雇用を長年続けてきた専門家の面接官として同席です。いま職場で一緒に働いている障害のある当事者でもいいかもしれません。これにより、障害者一人一人の留意点を見極めることができる可能性が増します。

一方、障害者も配慮を受けるためには、まずは自分から必要なことを発信することがとても重要です。面接官は情報を持ち合わせていませんから、細かく伝えることが必要です。自分で伝えるのが難しい場合には、支援者の同伴を要求することも必要です。

大事なのは障害者を「戦力」としてとらえているかどうかです。省庁のなかには、障害者が雇用されている現場を見学したり、専門のアドバイザーに意見を求めたり、障害者が働くにあたって必要となる人的支援を検討したりしているところも出てきています。

障害者から選ばれる職場となれるか。民間企業に比べて遅れている現実を真摯に受け止め、これを好機として、様々な障害者とともに働ける職場にかえるきっかけにしてほしいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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