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「大詰め迎える学校の働き方改革議論」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

学校の働き方改革の議論が大詰めを迎えています。26日開かれた文部科学省の中教審・中央教育審議会の総会で、学校の働き方改革の方策を示す答申の骨子案が示されました。しかし、教育の質の確保という命題を抱える中で、子どもたちへの対応という時間で区切ることが難しい学校の働き方改革にはまだまだ高いハードルがあります。

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▽蔓延する学校現場の長時間労働の実態と原因
▽学校の働き方改革に向けた答申骨子案の内容
▽答申に向け、具体的に求められるものは何か
以上3点をポイントに、この問題を考えます。

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まずは、学校現場の長時間労働の実態を見てみましょう。文部科学省はおととし、10年ぶりに公立の小中学校の先生たちおよそ2万人を対象に勤務実態調査を行いました。その結果、平日の勤務時間の平均は▽小学校が11時間15分、▽中学校が11時間32分で、いずれも10年前と比べて30分以上増えました。1日あたりの時間外勤務は、いずれも3時間前後となります。先生は通常の公務員とは異なり、月給の4%が上乗せされて支給されるものの時間外手当はありません。この分はほぼただ働きという形です。さらに過労死ラインとされる月平均80時間以上の時間外勤務となっている先生が小学校ではおよそ3割、中学校ではおよそ6割に上ることも明らかになりました。これを受けて、去年6月、当時の松野文部科学大臣が、学校現場での働き方改革に向けた具体策を検討するよう中教審に諮問していました。

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なぜ学校現場に長時間労働が蔓延するような事態になっているのでしょうか。
そもそも本来業務が子どもたちへの対応ですから、時間で区切るのは難しい仕事です。さらに国や教育委員会から降りてくる様々な調査や研修などが先生たちの仕事を増幅していると指摘されて来ました。これに加え、中教審の議論の中で明らかになってきたのは、一般的な労働現場とは異なり、時間を最大の資源とはみない、いわば“学校現場の文化”とも言うべき現状です。
子どもたちは先生の所定の勤務時間より早く学校にやって来ます。これに合わせて多くの先生たちは始業時間前に登校しています。朝の段階ですでに1時間近い時間外勤務をすることになっても「子どもたちを教室で迎えてあげたい」というのが先生たちの本音です。先生たちには授業に加えて部活動や生徒指導などが求められています。学習指導要領上、部活動は学校で行わなければならない教育活動ではないものの、ほとんどの先生が当然のように指導に当たっています。放課後にこうした対応をしただけで、働き方改革関連法で企業などの時間外の上限となる1か月あたり45時間は簡単に超えてしまいます。授業の準備はそれからとなれば、時間外の勤務時間は雪だるま式に増えて当然です。
学校には、地域や保護者の要望やニーズに応えようとして仕事を増やしてきたという側面も指摘されました。本来家庭が担うしつけや食育、掃除の指導も学校教育が担うのがいつの間にか当たり前と考えられるようになりました。学校が担うべき業務以外の要望やニーズであっても献身的に対応する熱心でまじめな先生がその献身性ゆえに倒れてしまうような実態が明らかになってきたのです。

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どうすればこうした状況を改善できるのか。中教審の答申骨子案には、2つの柱があります。1つは、学校と先生たちが担うべき業務の明確化・適正化。もう1つは、勤務時間をどう見直すか、管理や縮減の方策です。

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まず、学校と先生たちが担うべき業務の明確化・適正化です。基本的な考え方として、“子どもたちのため”として行われている業務の担い手を先生以外に積極的に移行すること、学校が慣習的に受けているような業務を廃止するとしています。仕組みを構築するため、文部科学省、教育委員会、学校の責任者である校長と、それぞれが果たすべき役割を明示しました。取りやめるべき事例の1つとして、学校の実績をアピールすることを目的に文部科学省の研究校に手を上げるケースが示されています。現場の協力で新たな教育施策の有効性を検証することは重要ですが、それが学校現場に負担を強いていることに国がようやく気づいた形です。

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次に、勤務時間の管理や縮減の方策です。時間外手当がなく時間外勤務という概念そのものが学校現場に欠けていることが指摘されています。このため勤務時間の原則を適用する必要があるとして、国が勤務時間の上限の目安を含む勤務管理のガイドラインを作り、これを参考に各教育委員会や学校単位でもそれぞれのガイドラインを作成して勤務時間を管理していくことを求めています。さらに手当が付かない学期中の時間外勤務分を夏休みや冬休みといった長期休業期間中の休日にまとめて振り替えることができる「変形労働時間制」を地方自治体の判断で導入できる仕組み作りを検討するべきとしています。

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2つの柱は、事態の改善に向けた方向性としては妥当なものだと思います。では、骨子をもとにこれから作成される答申をより実効性のあるものにし、学校の働き方改革を現実のものとするには、何が必要なのでしょうか。
まず、求められるのは、大胆かつ具体的に先生の仕事をスリム化することです。本来、仕事量に見合った人員配置を行うのが筋でしょう。しかし、多様化複雑化する学校現場に対応するため、小中学校の先生の定数はおととし見直されたばかりで、厳しい財政状況の中、さらに大幅な増員には相当な政治的決断が必要です。事態の改善には仕事を減らすしかありません。場合によっては準備に時間がかかる学芸会や音楽会といった学校行事の縮小や、夏休みの部活を休止することなど、保護者や地域の理解が不可欠なものの他、競技団体との調整が必要なことにも踏み込む必要があるという意見もあります。ただ、こうした活動に熱心に取り組む学校があるなど、地域や学校ごとに様々な事情を抱えていることも事実です。

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勤務時間の管理・縮減のために検討が提案された「変形労働時間制」には、中教審の委員や教育政策の専門家から「有力な見直しの選択肢」との意見があります。ただ、結局学期中の長時間労働は変わらないおそれがあります。さらに現状では、地方公務員は法律上1年単位での変形労働時間制は導入できないことになっていて、総務省や厚生労働省との調整も必要です。ここは、文部科学省が地域や団体が納得できる説明役となれるのか、国の機関同士の調整役を担えるか、本気度が問われることになります。

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先生たちには、これまで学校が担ってきたものはすべて教育効果のあることだという自負があります。それだけに、多くのことを学校任せにしてきたわれわれ地域や保護者が意識を変える必要があります。中教審はこのあと、答申の素案をまとめ、来年1月には柴山文部科学大臣に答申する方針です。一連の議論の中では、学校現場はブラックだという印象が広がり、教職志望の学生が減り続けることを懸念する声も聞かれます。「授業を深める」という先生本来の役割をいかに取り戻すかが、学校の働き方改革の鍵になるように思います。

(西川 龍一 解説委員)

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