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「激変する仕事環境 人材をどう生かす」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

企業での仕事が大きく変わろうとしています。大学をでて一斉に入社、60歳になると定年をむかえるという画一的な雇用の在り方は、急速な技術の発展や働き手の高齢化を前に、モデルチェンジを迫られています。企業はどう対応すべきか。今夜はこの問題を考えてみたいと思います。

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解説のポイントは三つです。

1)    激変する仕事と採用の在り方
2)    人生100年時代を迎える働き手の高齢化
3)    あらゆる世代の働き手を生かすには

まず会社の入り口=採用のあり方が変革を迫られる背景には、技術の発達で仕事の内容が急速に変わりつつあることがあります。その一例を見てみます。

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いま多くの企業では、RPA=ロボティック・プロセス・オートメーションと呼ばれる技術の導入が広がっています。高い画像認識の技術をそなえ、顧客や取引先に関する手書きの情報をコンピューターが識別して表計算などのソフトウェアに自動的に書き込んでくれます。こうした技術は深刻な人手不足の解消や仕事の効率化につながる一方、これまでその業務を担当していた人の仕事がなくなることにもなります。

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さらにAI・人工知能の導入で、事務の仕事以外でも、機械にとって替わられる業種が出てくることも予想されます。
きのうまで当たり前にあった仕事がなくなるかもしれないという変化の激しい時代に、企業は必要な人材をどう確保していったらよいでしょうか。。

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これまでの日本の会社員は、大学を卒業したら一斉に会社に就職し、社内研修によって一人前の社員に育ててもらい、ある時期がきたら管理職になり、といった似たようなコースを歩んできました。しかし必要な専門能力をもつ人材をとるのに、年に一度の新人の採用を待っていては時代に遅れてしまう、あるいは、じっくりと育成している時間の余裕がないというケースも予想されます。この秋経団連が企業の採用活動の解禁時期を定めたルールを撤廃したのも、こうした新卒一括採用の限界を認識したうえでの問題提起でした。

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今後は一年を通じて必要な人材を獲得する通年採用、高い専門能力をもつ経験者を他社から招く中途採用、さらに外国人を採用したり、一度外資企業にでてスキルアップした人材に幹部として戻ってきてもらうなど、様々な採用の仕方が一段とひろがっていきそうです。

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これを大雑把なたとえでいうと、プロ野球のドラフトによる新人獲得、FAによる補強、外国人の強力な助っ人、そして大リーグから日本球界に復帰した元広島カープの黒田投手といったところでしょうか。プロ野球のドラフトでは、「投手力が弱いから今年は投手を中心に指名しよう」とか、「いま陣容であと5年は安泰だから、高校生をとってじっくり育てよう」など、チームごとに戦略があるといいます。

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企業の採用活動にあたっても、時代の先を読みながら、将来どの分野の事業が有望かを見極める。そのうえでどういった人材を補強すべきか、これまで以上に緻密な戦略にもとづいた採用活動が、求められることになります。   

もう一つ、企業が早急なに求められるのが、人生100年時代が唱えられる中での「働き手の高齢化」への対応です。

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政府はこの秋、希望する人が70歳まで働き続けられるよう、現在65歳となっている雇用年齢を引きあげるための法整備を進める方針を打ち出しました。背景には、高齢化が進み医療や介護などの費用が増える中で、社会保障制度が維持できなくなるという危機感があります。とりわけ深刻なのが、現在支え手となっている64歳以下の現役世代が、今後急速に減っていくことです。そこで高齢者が働く期間を延ばすことで、支え手を増やそうという思惑が見え隠れします。
これに対し、産業界からは、政府の財政悪化のつけを企業に回すのかという声も聞こえてきます。

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しかし働く人のうち60歳以上の割合は、現在でも5人に一人程度、2030年には4人に一人を占めることになるといわれます。そのなかには、ある分野の業務に深く通じていて高い専門性をもつとか、人生経験が豊富でひとをまとめる力があるなど、企業が求める資質をもつ人も少なくありません。そうした人材を「法律で決まっているから雇う」という受け身の姿勢ではなく、会社の戦力として積極的に活用していけるかどうかは、企業自身の今後の生き残りのカギを握る問題でもあると思います。

そこでここからは高齢化した働き手を生かしていくにはどうしたらよいか考えていきたいと思います。
もっとも重要なのは報酬の問題です。こちらのグラフをごらんください。

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これは年齢に応じて賃金がどう推移していくかを示したものです。欧米各国と比較すると、日本では20代から30代にかけて賃金が抑えられ、40代から50代にかけて急激にあがり、50代半ばで一気に下がるカーブを描いています。しかし、賃金が急激に下がることで高齢の従業員が働く意欲を失いかねません。そもそも高齢になると賃金が低くなるのは、企業側が、戦力としてみなしてこなかったという面もあるように思います。
確かに実質的に意味のある仕事をしてもらわなければ、企業にとって経済的な負担が増すばかりでしょう。しかし、今後若年層の人手不足が深刻となる中では、高齢層に戦力になってもらうことが欠かせません。

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従業員や労働組合の了解も得たうえで賃金カーブをゆるやかなものとし、高齢層の賃金の下がり方を抑えることで、やる気をひきだし、能力を発揮してもらうことが必要になってくるのではないでしょうか。
さらに専門性の高い人材を獲得したいのであれば、若いうちから、その能力に応じて特別高い報酬を支払うことも必要になるでしょう。

企業で働く期間が延びることで、もう一つ必要になるのは、再教育システムの充実です。

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時代が急速に変化する中では、必要な事業の内容と、抱える要員の間にミスマッチが生じることもしばしばでてくることが予想されます。入社の前後に身に着けた専門知識が古くなり、新たな業務で通用しないとなった場合には、何歳になっても新しい分野を学び直すことが求められるようになります。欧米では、こうした再教育を行うために、地元の高等教育の場に企業が資金を出したり講師を派遣したりして、地域の産業が必要とする人材を育てる仕組みがあるといいます。日本でも来年から専門性をもつ職業人の育成を主な目的とした専門職大学の制度が始まりますが、そこで課題となるのが実務の経験をもつ講師の確保です。IT分野であればIT企業で、観光であれば旅行代理店などで長年の経験を積んだ人材が、教え役にまわれることになれば、再教育の場はより実践的なものとなります。人材の育成は日本経済の発展のカギとなるわけですから、企業はこうした再教育に人的な支援や資金面などで積極的な協力をおこなっていくべきではないでしょうか。

最後に高齢の働き手を生かすにあたっては、注意すべき点もあります。

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ひとにはもともと個人差がありますが、歳をとればとるほど、身体能力や健康状態にばらつきがでてきます。働く意欲のある人でも、週五日フルタイムで働きたい人もいれば、午前中だけ、あるいは週に2,3日だけ働きたいという人もいるでしょう。これに対し企業側は、例えば営業であれば二人でペアを組んでひとつの取引先を担当してもらうなど、より多様な働き方の選択肢を用意することが求められていると思います

人生100年時代を迎える中あらゆる世代の働き手にいきいきと活躍してもらうには、画一的でない、個々の状況に則した雇用の在り方が必要となります。それは複雑な方程式を解くようで決して容易ではないと思いますが、企業は自らの生き残りをかけてその答えを探していくことが求められています。

 (神子田 章博 解説委員)

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