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「どうする日韓関係」(時論公論)

出石 直  解説委員

日本と韓国の間に冷たい北風が吹き荒れています。
韓国政府は、3年前の両国の合意に基づいて設立された元慰安婦を支援するための財団を解散することを決めました。先月末には、元徴用工をめぐる裁判で韓国の最高裁判所が新日鉄住金に賠償を支払うよう命じる判決を言い渡しています。
外交交渉によって解決したはずの問題が蒸し返された、覆されたと受け止められても仕方がありません。日本と韓国の関係はこのまま氷河期に突入してしまうのでしょうか。

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解説のポイントです。
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▽解決されたはずの問題が、なぜ蒸し返されてしまうのか。
そこには35年間に及んだ植民地支配に対する両者の認識の埋めがたい隔たりがあります。
▽この認識の隔たりは、今後、さらに広がっていくかも知れません。
▽これからの日韓関係はどうなっていくのでしょうか。

【慰安婦合意】
まずきのうの韓国政府の発表から見ていきたいと思います。

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財団の解散をきめた理由についてチン・ソンミ女性家族相は「被害者中心主義の原則で、多様な意見を集めた結果」だとしています。

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元慰安婦を支援する「和解・癒やし」財団は、3年前の12月、当時の岸田外務大臣とユン・ビョンセ外相との合意を受けて設立されました。この合意によって両外相は慰安婦問題が“最終的かつ不可逆的”、つまり後戻りしない形で解決されることを確認しました。日本政府は財団に10億円を拠出し全体の4分3にあたる36人の元慰安婦とその遺族に44億ウォン、およそ4億4000万円の支援金が支給されています。
ところが、この合意は「国民の理解が得られていない」と主張していたムン・ジェイン政権が誕生すると、財団の活動は停止し、きのう解散が決まったのです。

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両外相の合意で解決したはずの問題が、反故にされてしまった形です。韓国政府は「合意の破棄や再協議は求めない」としていますが、「国際約束が守れないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう」という日本政府の強い反発は当然でしょう。
今回の韓国政府の決定はあまりに思慮に欠けていると言わざるを得ません。

【元徴用工問題】
次に元徴用工をめぐる問題です。

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先月30日、韓国の最高裁判所は原告側の請求を認め、新日鉄住金に対してひとりあたり日本円にしておよそ1000万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。この問題についても、日韓両政府は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」という立場です。

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しかし韓国の最高裁判所は「この問題は請求権協定の対象外だ」とする両政府とは異なる判断を示したのです。判決は、▽植民地支配は不法なものだった、としたうえで、
▽植民地支配に対する賠償は
請求権協定には含まれていない。
▽したがって植民地支配に対する賠償はまだ終わっていない。
このように結論づけたのです。
日本政府は「国際法に照らしてあり得ない判決」「常識では考えられない判決」と強く抗議しています。一方、韓国政府は「司法の判断を尊重する」としながらも政府としての対応策をまだ示していません。従来の立場とは異なる判断を司法から突き付けられ韓国政府は苦しい立場に追い込まれています。

【問題の背景】
元慰安婦を支援する財団の解散、元徴用工をめぐる韓国最高裁の判決。

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こうした判断が示された背景には、1910年から終戦まで続いた植民地支配に対する認識の隔たりがあります。

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▽併合は、日韓両政府が締結した併合条約によって合法的に行われたとして、植民地支配に対する賠償はしないとする日本。
▽併合は強制的な占領であり不法で無効だとする韓国。
1965年に日韓基本条約が結ばれて両国の国交が正常化した際も、この認識の隔たりは埋まりませんでした。日韓基本条約には、併合条約は「もはや無効である」と記されています。
つまり「いつから無効なのか」は明記されず、併合条約が無効だったのかどうか、どちらとも解釈できる玉虫色の決着で落ち着いたのです。

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ところが、今回の韓国の最高裁判所の判決は、外交交渉によって一度は玉虫色の決着で閉じられたはずの蓋をこじ開けてしまったのです。日韓の対立の根源にある非常にやっかいな問題が再び浮上してきてしまったのです。

【広がる隔たり】
さらに、こうした歴史認識の隔たりと葛藤は、これからさらに大きくなっていく恐れがあります。来年2019年は韓国にとって特別な年だからです。

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1919年の3月1日、日本の統治下にあったソウルで独立運動が始まりました。三・一運動と呼ばれる独立運動は次第に朝鮮全土に広がりこの年の4月には独立運動の指導者らよって中国の上海に大韓民国臨時政府が設立されました。ムン・ジェイン政権は来年2019年を、この独立運動から100年の記念の年と位置付けているのです。来年に入れば韓国国内で民族意識がさらに高まり、日本に対する要求が勢いを増すことも予想されます。韓国政府がこうした国民感情の高まりを抑えきれず、むしろ迎合してしまうのではないかと心配されるところです。

【これからの日韓関係】
ではこれからの日韓関係はどうあるべきなのでしょうか。

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3つのことを申し上げたいと思います。
▽まず希望的観測は禁物です。「日韓両国は何度も危機を乗り越えてきた。今回の関係悪化も
一時的なものだ」という人もいます。しかし、あまり楽観的な観測は現実を見誤ってしまうおそれがあります。来週の29日には三菱重工業に賠償を求めている元徴用工の裁判の判決が韓国の最高裁判所で言い渡されることになっており、前回同様の判断が示されることは確実です。
短期的には、冷え切った関係が続くことは避けられないでしょう。

▽だからといって互いに相手を非難するだけでは状況は改善されません。国のプライドに関わる問題だけに、とかく感情的な議論になりがちですが、非難の応酬は互いの悪感情を増幅するだけです。戦時下とはいえ、当時、多くの朝鮮半島出身の人達が不幸な状況に陥ったことは否定できません。感情論ではなく、相手の認識や論理を精査した上で、ひとつひとつ冷静に理路整然と反論していく態度が必要と考えます。

▽最後に、互いを必要とする関係になることです。
今から20年前の10月、当時の小渕総理大臣は、植民地支配によって多大な損害と苦痛を与えたことを率直に認め「痛切な反省と心からのおわび」を表明しました。一方、キム・デジュン大統領も日本側の謝罪を受け入れ、日韓パートナーシップ宣言と呼ばれる歴史的な文書に署名しました。20年前、日韓両首脳が歴史的な和解を果たし、未来志向の日韓関係に踏み出したのは、まさに互いを必要としているという共通認識があったからです。

今の東アジア情勢を考えれば、日本にとって韓国ほど戦略的に重要な国はないのではないでしょうか。これは韓国にとっても同様でしょう。しばらくは冷え切った関係が続くかも知れませんが、
それを乗り越える知恵と努力が今こそ求められているように思います。

(出石 直 解説委員)

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