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「『ゴーンショック』がつきつけたもの」(時論公論)

神子田 章博  解説委員 清永 聡  解説委員

世界第2の自動車グループのトップを務める日産のゴーン会長が逮捕されたニュースは、世界に衝撃をもたらしました。事件が突き付けた課題や今後の影響を考えていきます。

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【逮捕容疑は】
(清永)
日産自動車の会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)は、平成27年までの5年間に有価証券報告書にみずからの報酬を実際より50億円あまり少なく記載したとして、代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)とともに、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。
特捜部は会長が容疑を認めているかどうかを明らかにしていません。

Q:ゴーン会長は日産にとってどういう存在だったのでしょうか。

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(神子田)
ゴーン会長はおよそ20年前、日産自動車が深刻な経営危機に陥り、ルノーからの出資を仰がざるをなかった際に、当時のルノーの副社長から日産に転じ、翌年からは社長として経営の立て直しの陣頭指揮をとりました。その際、▼主力だった工場の閉鎖や、▼グループ全体で2万1000人の人員削減。▼さらに採算のとれない部品メーカーとの取引は容赦なく断つなど、外国人経営者による徹底した合理化の手法は、日本人に大きな衝撃を与え、「ゴーンショック」とも言われました。
私も直接インタビューをしたことが二度ほどあるのですが、日本のしらがみにとらわれず、グローバルな視野から冷徹な経営判断を下す姿勢が印象的でした。
その後ゴーン会長はルノーのトップを兼任。おととしには三菱自動車を事実上の傘下におさめて自ら会長となります。日産社内では、今回の不正が明るみに出た後でも、会長が積み上げてきた功績は否定することはできない」とする声が出ています。
日産の経営は、ゴーン会長の力強いリーダーシップによるところが大きかっただけに、経営への影響は避けられない見通しです。

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(清永)
今回虚偽記載があったとされる「有価証券報告書」は、業績や役員報酬といった会社の情報を株主などに報告するものです。過去にもこの報告書にうそを書いたという事件はいくつもありますが、売り上げを多く見せる、あるいは負債を隠蔽する。これで企業の業績を良く見せかけるというケースが多くみられました。
しかし今回は、ゴーン会長が自分の報酬のため、つまり自らの利益のため虚偽を書いたとされる点が、異例です。今回、自らの報酬ということもあって、いきなりトップの逮捕になったとみられます。
また、関係者によりますと、「世界4か国で住宅の提供を受けていた」「家族旅行の代金も会社に負担させた」など、会社の経費が私的に使われていた疑いが明らかになっています。
「コストカッター」として社員たちに節約を求めながら、もし、自分だけは不当に経費を使っていたとすれば、従業員には、とうてい許しがたいでしょう。

Q:ゴーン会長の報酬の高さをめぐっては、以前から、高すぎるのではないかという声が上がっていましたね。

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(神子田)
こちらは、ゴーン会長の役員報酬の推移です。毎年10億円程度の収入を得ていたと公表されていましたが、実際にはその倍の報酬を受け取っていたとされています。一方、この間、日産の最終利益は3000億円あまりから4500億を超えるまでに拡大しています。この業績拡大にゴーン会長ならではの経営手腕が大きく貢献したのであれば、高い報酬もそれに見合うという考え方もあります。しかし、その額をきちんと株主に説明する必要があることはいうまでもありません。
さらにここで私が思い出すのはリーマンショックの際に指摘された、強欲資本主義という言葉です。報酬が高いから不正に走るというわけではありませんが、自らの報酬を増やすために不正な行為を行うということであったとすれば、話は違ってきます。企業は社会とかかわりの深い存在であり、私物化は許されません。
高い報酬を受け取る経営者にはそれに見合うだけのインテグリティ=高潔さが備わっていて欲しいと私は思います。

Q:今回の事件が日産自動車の経営に与える影響も懸念されますね。

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(神子田)
最大の焦点は、日産、ルノー、三菱自動車の三社連合の行方です。ゴーン会長は、企業風土も異なり、微妙な力関係にある3社を強力なリーダーシップでまとめてきました。実は、ルノーにとっても、自動運転などに必要な莫大な開発コストを分担できることや、日産の技術開発力など、三社連合から得るメリットは大きく、連合関係が崩れれば最も影響を受けるのはルノーだという指摘するフランスの専門家もいます。ルノーの大株主でもあるフランス政府は、以前から、両者の関係を一層強固なものにするため日産との合併を求めていて、これに対してゴーン会長は、お互いの自主性を重んじる立場から反対してきたとも伝えられています。このため、ゴーン会長が日産の会長職を退いた後、フランス政府の意を受けたルノーが日産に新たな人材を送り込んでくるのか、また今後の3社連合についてどのような意向を示すのか注目されます。
 
(清永)
この事件はもう1つ大きな特徴があります。
今回、東京地検特捜部は日産の執行役員との間で「司法取引」に合意していたことが関係者への取材で分かりました。

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この司法取引は6月にスタートしたばかりです。他人の犯罪の捜査に協力すれば検察が見返りとして起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりするという制度です。
制度ができた時には、部下だけが刑事責任を問われ、経営者や会社が起訴を免れる、いわば「とかげのしっぽ切り」になるのではないかという意見もありました。
しかし、今回はいわば下からの内部告発がトップの逮捕につながりました。今回の司法取引は2例目とみられますが、法律の狙い通りのケースとなりました。
ただし、司法取引によって法人が免責されるというわけではありません。逮捕容疑では虚偽の記載は5年間に及ぶとされます。捜査よりも前に、社内で不正の芽を摘み取ることができなかったことは、反省すべき点です。

(神子田)
その通りです。
日産は、今後なるべく早い時期に第三者の専門家もまじえた委員会を設け、今回の問題の背景や原因を調べたうえで経営体制の在り方を抜本的に見直すとしています。

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ただ、19日の西川社長の記者会見では、ゴーン会長が、日産の43%の株式をもつ大株主のルノーのトップを兼ねた時点から、巨大な権限の集中が始まっていた。しかしその権限をもつ会長の周辺に監視の目がとどく体制が築かれていなかったことが、今回の事態を誘発したと振り返っていました。
不正の芽をいち早く見つけて摘み取ることができなかったという意味で、サイカワ社長以下の経営陣も責任は免れないと思います。

Q:コンプライアンスを徹底する新たな体制を築く意味でも、今回の事件の解明が求められますが、今後の捜査のポイントはどういう点になりますか?

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(清永)
有価証券報告書の記載は、今回逮捕された2人だけで書き換えることができたとは考えにくいと思います。まずは、実際よりも少ない報酬が記載された経緯を、明らかにする必要があります。
加えて、記載されなかった50億円はどこから出てきたのか。巨額の資金の流れの解明が必要になりますし、会社として今後は賠償請求を検討することもあるでしょう。
専門家からは、会社に損害を与えた「特別背任」にあたる可能性を指摘する意見もあります。今後の捜査や第三者委員会の調査を通じて、事件の全容解明が求められます。

(神子田)
忘れてはならないのは、日産が自動車という、品質に問題があれば、人の命にかかわる事故が起きかねない製品をつくっている会社だということです。社内で不正がある、また不正があっても長期間発覚しない、そうした体質のままでは、肝心の製品に対する信頼も失ってしまいかねないと思います。私は日産の工場や系列の部品メーカーを何度も取材したことがありますが、多くの従業員が、いい車をつくろうという思いで日々まじめに働かれています。そうした人たちの車づくりへの思いを裏切らないよう、不正の再発を防ぐための体質改善を早急に進めてもらいたいと思います。

(清永)
今回の事件の背景にあるこうした企業風土は、これまでも繰り返し指摘されてきました。企業が自らを律するとはどういうことなのか。改めて問い直すことが求められています。

(神子田 章博 解説委員 / 清永 聡 解説委員)

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