NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「『所有者不明土地』求められる対策は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

誰のものかがすぐには分からない「所有者不明土地」。その対策を盛り込んだ新たな法律が、11月、施行されました。
民間の研究会の推計では、登記簿からでは所有者が確認できない土地は、その面積が全国で九州に相当する広さとされています。
所有者不明土地への新たな取り組みと、これからの課題を考えます。

181119_00mado.jpg

【解説のポイント】

181119_01_0.jpg

●今どのような支障が起きているのか。
●新しい法律の内容と、今後の課題について。
●最後に「いらない土地」をどうすればいいのでしょう。

【所有者不明土地とは】
皆さんの中にも、仕事などのため両親や祖父母がいた実家から離れ、都市部へ出てきた人も多いと思います。
もし何十年もたち、子どもも新しい場所での生活に馴染み、両親や祖父母が亡くなって、今後も実家に帰る予定がなかった場合はどうなるでしょう。

181119_02_1.jpg

181119_02_2.jpg

残してきた土地を使う人はおらず、山林や農地の場合は買い手もつかない。行政も不要な土地は引き取りません。少子化と都市部への人口集中で、このように土地の行き場がなくなり、管理に困るケースは珍しくないでしょう。

181119_02_6.jpg

どこのどのくらいの不動産があって、誰に権利があるかは、「登記簿」という書類に書かれます。しかしこの登記は義務ではありません。不要だからと相続登記を行わず、亡くなった両親あるいは祖父母の名義のまま放置してしまう。さらに世代が変われば、その土地が誰のものかを探すのは、やがて困難になるでしょう。これが「所有者不明土地」の問題です。
今のまま放置していると、所有者不明土地は年々、増え続けていくとみられます。

【相次ぐ支障も】
今、現場ではさまざまな支障が出ています。国土交通省が事例をまとめた資料の一部です。

181119_03_3.jpg

青いシートがかけられているところは台風で斜面の一部が崩壊しました。ところが、工事に取り掛かることができません。相続登記が行われていない場合、法律上は子供や孫などが全員権利を持ちます。自治体は、相続人を一人ずつ調べて全員の同意を得ることが必要になるため、時間がかかっているのです。
こちらは荒れ地に、ゴミが放置されています。ところが、土地の所有者が分からないため、自治体は無断で運び出すことができません。
このように所有者不明土地は防災対策の遅れや環境の悪化につながっています。しかも、この問題は、都市部でもみられますが、より深刻なのが過疎地や山林、農地です。

【新しい法律の内容は】
そこで、新しい法律が作られ、11月15日に施行されました。その柱は2つあります。

181119_04_5.jpg

1つは不動産の登記を促すことです。登記の申請を受け付けるだけだった法務局が、今後は自ら相続人を調べます。また、これまで個人情報保護のため認められなかった固定資産税の納税者の情報なども、行政が利用できるようになりました。
もう1つは所有者の分からない土地に「利用権」という権利を新たに設定します。公共的な事業に一定期間土地を使うことを認めるというものです。こちらは来年6月に施行される予定です。
新しい法律は、いわば取り組みの第一歩ですが、例えば「利用権」はあくまで一時的なもので、災害復興などで恒久的に活用できる制度ではありません。現状では「抜本的な対策」とまでは言えず、さらに取り組みが求められます。

【「土地を引き取る」鳥取県日南町の取り組み】
さらに、大きな課題が残されています。それは、事実上「いらなくなった土地」をどうするかです。どれだけ行政が登記を促しても、いらない土地だと費用をかけて登記を行わない人も多く、これが持ち主の把握を難しくさせる原因となっています。こうした土地をどうすればいいのでしょうか。
先進的な取り組みを始めた自治体があります。
鳥取県日南町は中国山地の中央付近にあり、人口4700人。高齢化が進み2人に1人は高齢者です。
町は、所有者が不要になった山林を引き取る取り組みを、今年から試験的に始めました。所有者不明土地になる前に、寄付を受け入れ町有林にするという全国的にも珍しい取り組みです。現在は町から離れて暮らす3人から山林を受け入れる手続きを進めています。
その1つに案内してもらいました。町の中心部から10キロ以上離れ、車を降りてさらに山の中へ入っていきます。
青い部分が新たに引き取る山林です。両脇は私有林ですが、ここは町有林になって、これからは町が管理します。
日南町は、寄付を受け入れるまでに明確な基準を設けて審査を行っており、すべての山林を引き取ることができるわけではありません。しかしこの取り組みの特徴の1つは、林業で利益を出すことが難しい山林でも、環境保全や防災対策のために受け入れるという点です。背景には、山林が放置され荒廃する現状を食い止め、林業の振興を進めたいという町の切実な思いがあります。

181119_05_3.jpg

町とこの取り組みを進めている鳥取大学農学部の片野洋平准教授は、2014年に町と共同でアンケート調査を行いました。対象は町内に土地を持っているものの現在は町の外に暮らしている人です。このうち人工林の管理が自分で「できていない」と答えた人は合わせて全体の7割を超えます。この統計は離れていても所有者がわかっている人です。所有者が不明だと、ほとんど放置されているとみられます。
山林の寄付を受け入れる制度について、片野准教授は「管理できない土地を引き取ることで所有者不明土地の発生と山林の荒廃を食い止め、将来の公共事業や災害時のトラブルを未然に防ぐことにつながる。全国の自治体はもっと様々なアイデアを出し、思い切った取り組みをしてほしい」と話しています。
林野庁も森林の管理を市町村に委託する制度を準備しています。日南町の取り組みは、今後、一つのモデルケースとなるでしょう。

【放棄か登記か】
政府は「骨太の方針」で、今後は「土地を手放す仕組み」や「登記の義務化」などを検討するとしています。

181119_06_3.jpg

土地の放棄もできず、登記もしないという状態から、一定の条件や合意の下で土地を放棄する。あるいは相続登記を行って管理する責任を負わせる。そのどちらかを、所有者に選択してもらうことが今後は必要になるでしょう。
ただし過疎地では土地を放棄しても、そのままでは使い道がなく、誰も管理しないままだと荒れてしまいます。そうなれば、治安や環境が悪化して災害も発生し、地域全体が荒廃してしまいかねません。
国を中心に、受け皿となる仕組みを作って、幅広く負担を求め、必要な管理を行っていくことも求められるでしょう。

【故郷を守るため対策を】
過疎地で生活する人にとって、地域を維持していく負担、そして将来への不安は大きいと思います。
一方で、出身地を離れた人も、さまざまな事情で帰ることができず、やむを得ず土地を管理できない人は、少なくないはずです。
日本の人口が減っていく中で、ふるさとの荒廃をどうやって防いでいくか。この問題は、地域を守るという視点から、都市部に住む人もともに考え、対策を急ぐ時期に来ていると思います。

(清永 聡 解説委員)

キーワード

関連記事