アパレル大手がプラスチック製のショッピングバッグを廃止する、飲食チェーンがプラスチックストローをやめると発表するなど“脱プラスチック”とも見える動きが加速しています。こうした中、きのう(11月13日)環境省の小委員会で「プラスチック資源循環戦略案」がまとめられ、レジ袋の有料化や使い捨てプラスチックの排出を25%減らすなどの目標が示されました。このプラスチック問題について考えます。
そもそもなぜ今プラスチックが問題とされているのでしょうか?プラスチックには、燃やすことで出る二酸化炭素や石油資源の消費など、幾つもの観点がありますが、近年クローズアップされているのは、海洋プラスチックの問題です。ウミガメの鼻にプラスチックストローが突き刺さった映像は世界の人々に衝撃を与えましたが、さらに問題視されているのが海水中に漂うマイクロプラスチックです。プラスチックは砂浜や波で砕かれるとサイズは小さくなるものの、自然に分解されることはまずなく、あくまでプラスチックとして存在し続けます。その結果、近年魚や海鳥など海の生き物から相次いでマイクロプラスチックが検出され、食物連鎖を通じて私たちの体にも蓄積するのではないかと懸念されています。
そして先月、オーストリアの研究グループが、日本を含む8か国の人の便を調べたところ最大で9種類のプラスチックが検出されたと発表し、既に人体にまでプラ汚染が広がっていることが示唆されました。
現時点では、体内に蓄積された場合どんな健康被害をもたらすかは解明されていませんが、マイクロプラスチックは有害物質を吸着する性質もあり、それが人体に取り込まれるリスクが指摘されています。仮に将来、深刻な害があるとわかったとしても、海に広がったマイクロプラスチックを後から回収することはほぼ不可能です。そのため、海への流出を止めるべきだという考えが国際的に強まっているのです。
マイクロプラスチックの分布予測では、日本近海も密度が高い真っ赤な領域です。実際、東京湾の様々な魚からもプラスチックが検出されたと報告されています。
海洋に流出したプラスチックごみの発生量推計では最も多いのは中国で、上位にはアジアの途上国が多く上がりますが、日本も年間2万トンから6万トン流出しているとされます。そして、1人あたりの容器包装プラの廃棄量で言うと世界で2番目に多いとも指摘されています。
「日本ではごみを分別回収しているし、海にプラスチックを捨てたりしない」と多くの人が感じるでしょう。しかし、先進国でもプラスチックが大量消費される中、屋外で使われているプラスチックが劣化したり、街中にポイ捨てされたペットボトルやレジ袋なども、その一部は川に流れ込んで、それが海に達して海洋プラスチックを生み出すことにつながります。
日本は世界の優等生だという主張もあります。2016年のデータではプラスチック廃棄物の有効利用率は84%もあるとされています。
しかし、内訳を見ると大半が「サーマルリサイクル」と日本では呼ばれているものです。これはごみを燃やしてその熱を何らかの形で利用するという意味で、国際的にはリサイクルとは言わず「熱回収」と呼んで別に扱うのが一般的です。石油から作られたプラスチックを燃やすことは二酸化炭素を増加させ地球温暖化につながりますので、どの程度環境に良いのかは議論のある所です。一般の人が「リサイクル」という言葉からイメージする、プラスチックを再生樹脂として循環利用するというのは、わずか6%に過ぎません。
そして、他の有効利用としている部分も実は大半が中国などへの輸出だったのですが、中国が去年廃棄物の輸入を禁止する方針を打ち出し、現在ほぼ止まっている状態です。
世界的な海洋プラスチック問題の盛り上がりに加えて海外に送り出していたプラごみが行き場を失ったことで、日本は新たな仕組み作りを急がなければならない状況に追い込まれています。
こうした中、きのう環境省は「プラスチック資源循環戦略」の案をまとめました。この戦略は日本でG20サミットが開かれる来年6月までに決める方針です。
戦略案の主な内容としては、まず「レジ袋有料化の義務化」が打ち出されています。現在のレジ袋は、スーパーでは有料の所も増えている一方でコンビニは無料というように事業者任せです。これを一律に有料化することで削減を促します。そして、2030年までにこうした使い捨てプラスチックの排出を25%減らすこと、2035年までには全ての使用済みプラを熱回収も含め100%有効利用すること、などをめざすとしています。
産業界からは、基本的には賛成としながらも削減量などを押しつけることなく企業の自主性を尊重すべきだとの声があがる一方で、専門家などからは、これでは熱回収という名の焼却で良いと言うことになりかねないといった批判もありました。地球温暖化対策の面からは今世紀後半には世界のCO2排出を実質ゼロにする必要があるとされ、石油由来のプラスチックを燃やす熱回収は最終的なゴールには出来ないからです。
では、ゴールはどこにあるのでしょう?プラスチック問題が一筋縄で行かない背景には、プラスチックが元々、循環利用することを前提に開発された素材ではなく、プラスチック製品もリサイクルしやすいように作られてはいないものが多いことがあります。例えば、自治体が回収している容器包装プラスチックも、再資源化するには形も種類も様々でしかも汚れたプラスチックを手作業で分別する必要があり、手間とコストがかかります。新たに石油から作る方が高品質で安価な場合も多く、循環利用はなかなか軌道に乗りません。
こうしてみると、不要なレジ袋はもらわないなど使用削減の努力はもちろん大切です。当面は熱回収が中心となることもやむを得ないでしょう。ただその上で、製品の開発・製造そのものから見直し、より分別・再利用しやすい製品にしていく必要があります。異なる素材を組み合わせることは減らし、取り外しやすい構造にしてリサイクルを容易にする、そしてどうしても廃棄せざるをえない用途に使う物は、燃やしたりしても環境に負荷をかけない素材に換える、などです。例えば現在の石油系プラスチックを、植物由来のバイオマスプラスチックに変えれば、植物が成長する時にCO2を吸収しているので燃やしても温暖化にはつながりません。しかし、コストや品質の違いもあり、まだこれで全て解決とはいきません。ガラスびんの再利用や、紙や木材といった燃やしてもCO2が増えない他の素材への切り替えなど、様々な選択肢とうまく使い分けていく知恵が社会全体に求められます。
そして、海はつながっているため、海洋プラスチック対策は世界が足並みを揃えて取り組む必要があります。対策コストなどを巡り各国の利害の対立も予想されます。一方でそれは新たなビジネスも生み出すでしょう。
こうして見ると、プラスチック問題は地球温暖化問題と同様、消費や産業の構造まで変える大きな問題です。解決には国際的な枠組みが必要でしょう。来年、日本で開催されるG20ではプラスチック問題が議題に上がると予想されます。議長国の日本には国際協調に向けたリーダーシップが求められます。
私たちひとり一人にも、使い捨てを減らしライフスタイル自体を見直していく大きな役割があります。暮らしの隅々まで利便性をもたらしてきたプラスチックを次世代への負の遺産とするのではなく、循環する資源に変えていけるかが問われています。
(土屋 敏之 解説委員)
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