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「米中貿易摩擦激化 大丈夫か中国経済」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

アメリカとの貿易摩擦が、中国経済に大きな影を落としています。輸出企業の雇用に影響がでているほか、消費の伸びも鈍り始めています。米中貿易摩擦が中国経済に与える影響について考えてみたいと思います。

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解説のポイントは3つです。

1)中国経済の現状
2)打ち出された対策と背景
3)中長期の課題

まず中国経済の現状をみてみます。

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アメリカのトランプ政権は、中国がアメリカ企業の知的財産権を侵害しているとして、今年7月から9月にかけて、中国からの輸入品あわせて2500億ドル分に対し10%から25%の関税の上乗せする一方的な制裁措置を発動しています。これに対し中国側も、アメリカからの輸入品およそ1100億ドル分に対し、関税を上乗せする対抗措置をとり、貿易戦争といわれる事態に陥っています。

こうした中で、中国では輸出企業を中心に影響が出始めています。中国政府の高官は、影響は輸出企業が多い沿海部を中心に広がっていて、企業によっては雇用に手をつけるまで深刻な事態になっていることを明らかにしました。その影響は日系メーカーにも及んでいます。

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現地に進出しているプラスチックの原料の樹脂をつくっている日系企業は、地元の中国企業からの受注が9月までは好調だったのに、それ以降はさっぱりなくなったといいます。発注もとの中国企業は、アメリカに対して、日用品やおもちゃなどのプラスチック製品を輸出しており、こうした製品に高い関税がかけられてアメリカ向けに輸出しにくくなるのを見越した動きと見られます。

影響を受けるのは、輸出企業に限りません。アメリカとの貿易摩擦がどこまでひろがるかわからないという不透明感は、株価の急落を招き、消費や投資にも影響を与えています。

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上海株式市場の株価は、トランプ政権が中国への制裁措置の具体化を宣言した6月以降、20%程度も大幅に値下がりしました。株価の下落は、株式を保有する人々の資産の価値を目減りさせ、自動車など高額商品の売れ行きにも影響が及んでいるといわれています。中国の今年9月の新車の販売台数は、去年の同じ月を11%あまり下回りました。日系メーカーも影響をまぬがれず、日産自動車、ホンダ、それにマツダの販売も減少しました。
さらに、先行きが不透明な状況の中で、企業の経営者の間では、設備投資を手控える動きがひろがっています。日本の生産設備メーカーも最近中国からの受注が減っていると伝えられています。
このように中国企業だけでなく日本企業にまで影響が及び始めている米中貿易摩擦。中国政府の高官は、今後トランプ政権が、制裁の対象を中国からのすべての輸入品に広げた場合、中国の経済成長率を0.7ポイント押し下げる効果があると話しています。去年からの中国の三カ月ごとの成長率はゆるやかな低下傾向が続いていました。それを考えると、実際に0.7ポイントも成長率が落ちるとなれば中国社会にたいへんなショックを与えることになります。習近平政権としては、なんとか景気を支える対応策をとってそうした事態を避けようと考えています。

では、実際にどのような政策がとられているでしょうか。

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まずアメリカ向けの関税引き上げで打撃を受ける輸出業者に対しては、税金の引き下げを行って企業の負担を減らすことで、経営を支えようとしています。
一方輸入業者に関しては、関税の税率引き下げを打ち出しました。中国はトランプ政権への対抗措置として、関税を上乗せしているのに、関税引き下げとはどういうことでしょうか。実は、これは、アメリカからの輸入品が関税の上乗せで大幅に値上がりし、売れ行きが落ちるのを防ぐためのもので、もともとかけていた関税を引き下げることで、価格の上昇を抑えようというのです。
ただあまりに関税をさげれば、アメリカへの対抗措置が骨抜きになってしまうため、限度があります。

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さらに金融面では、金融機関が中央銀行に預ける預金準備率をひきさげ、いわばお金の巡りをよくすることで企業の資金繰りを支援しようとしています。
こうした対策はかつて行われた財政出動を伴う大規模な対策に比べると、小粒なものにとどまっています。どうしてでしょうか。

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背景には習近平指導部が、いま、持続的な成長にむけて構造改革を進めている真っ最中だという事情があります。中国は、過去に行った巨額の投資のつけで、国有企業は過剰な生産能力や巨額な債務を抱えています。このため中国政府は、こうした企業の経営統合を進めて効率化をはかる一方、企業に対する融資を絞り込むことで、野放図な投資を抑え込もうとしています。今回大がかりな対策を行わない背景には、それによって改革の歩みが逆戻りすることを恐れているためだとみられます。

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しかし構造改革は、企業のリストラなどを通じて失業者を生み出すなど、ただでさえ景気にマイナスの影響を及ぼします。これに加えて貿易摩擦によるショックがひろがっていった場合に、なおも安定した成長を維持することができるのか疑問視する見方も出ています。トランプ大統領は、中国からのすべての輸入品に関税を上乗せする構えを示しており、中国政府が今後新たな対策をせまられる場面も予想されます。

最後に、中国経済の中長期的な課題について考えてみたいと思います。
 重要なのは、外需へ頼る割合を減らすため、国内需要を一段と拡大していく経済構造の転換です。ただし、内需といっても、かつてのような政府による公共投資主導では、いつか来た道への逆戻りです。そこで問題は、国内消費をいかに拡大するかです。その意味で、今月新たな動きがありました。

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中国政府は今週月曜日から輸入を促進することを目的とした初めての博覧会を開いています。博覧会といっても見本市のようなもので、170の国や地域から3600を超える企業が参加。日本からも、参加国の中で最も多い450を超える企業や団体が参加して、製品を展示しました。この場で輸入の商談がまとまれば、中国ではまだ作ることができないハイテク製品や、ちょっとした工夫で生活を便利にする日用品などが各地の店頭に並ぶことになります。私もこの博覧会にいってきましたが、見たことのない舶来品に目を輝かせている中国の人々の姿が印象的でした。中国政府は、こうした商品が国民の消費意欲をかきたて、国内消費が一段と拡大することを期待しているのです。
さらに、輸入の拡大は別の効果も期待できます。中国市場が開放されると、国内メーカーは激しい競争にさらされることになりますが、逆に、そこで勝ち残ることができれば、海外に出ても強い競争力をもつことになります。中国企業をめぐっては、政府が事実上の補助金を出して助けている、いわばゲタをはいた状態で国際競争にのぞんでいると各国からの批判が強まっています。しかし本当の意味での競争力をつけた企業の製品が、外国企業と対等の条件で競い合い、海外での販売が拡大するということであれば、いまのように後ろ指をさされることもなくなるのではないでしょうか。

中国経済が打撃を受けないで済む最善の方法は、アメリカとの貿易摩擦が解消に向かうことです。輸入博覧会のスピーチで習国家主席は、国内企業と海外企業の間で公平な競争環境をつくることや、知的財産権の保護の徹底など、アメリカが問題視する点を着実に改善していくと宣言しました。その言葉を現実のものとすることが、中国経済のピンチを乗り切るための最善の策となるのではないでしょうか。その行方は日本を含め世界経済にも大きな影響を及ぼすだけに、強い関心をもって見守っていきたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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