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「アメリカ中間選挙 分断は続く」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカの中間選挙の大勢が判明しました。議会上院は与党・共和党が多数派を維持する一方、下院は野党・民主党が多数派を奪還することが確実になりました。トランプ大統領に対する事実上の信任投票の様相を呈した今回の選挙は、アメリカの政治と社会の分断を改めて印象づけたようにも見えます。選挙結果の分析を通して、今後のトランプ大統領による政権運営に、どのような影響が出てくるかを考えます。

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ポイントは3つあります。
<解説のポイント>

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▼まず民主党は下院の多数派奪還で「大きな勝利をつかんだ」としています。ただ、共和党もまた上院や州知事選挙で「期待以上の成果を得た」としています。いわば勝利と敗北が交錯しているのはなぜでしょうか?
▼次に、上下両院で多数派の党が異なる“ねじれ”の状態をアメリカでは「分断議会」と言います。今後どのような事態が予想できるでしょうか?
▼そして、トランプ氏が再選をめざす2年後の大統領選挙には、どのような影響が出てくるでしょうか?

<大勢判明>
さっそく現時点での開票結果を見ていきましょう。

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画面左が上院です。上院は共和党が多数派を維持しました。もともと共和党は上院の改選議席が民主党より格段に少ないため、優位に戦いを進めてきましたから、多数派の維持それ自体は事前に大方が予想していた通りでした。ただ、さまざまな批判の逆風も浴びながら、大統領がみずから足を運んだ激戦州の多くを競り勝って、現有51議席からさらに最大で55議席まで増やしそうな勢いを見せていることは若干の驚きでした。選挙戦の終盤に入って危機感を募らせた“トランプ支持者”の結束が、想像以上に固いことを見せつけたかたちです。

これに対して画面右が下院です。下院は、民主党が8年ぶりに多数派を奪還しました。従来の中間選挙では、ときの政権に対する批判を追い風に、野党が議席を伸ばすケースが圧倒的に多かったので、こちらも民主党による多数派の奪還それ自体は驚きとは言えません。しかし、終盤の共和党による激しい追い上げをふり切って、現有議席から少なくとも30議席を増したことは、“反トランプ”という批判もまた想像以上に強固なことを示したかたちです。

トランプ大統領に対する評価は文字どおり2分されています。その毀誉褒貶の激しさは、投票率が暫定的な集計で47.3%。中間選挙としては過去50年間で最も高い水準に達したことからもうかがえます。では、なぜ今回の選挙は、どちらか一方の躍進ではなく、双方が躍進と後退をそれぞれ分け合うような結果となったのでしょうか?

<都市部と地方>

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それは、近年のアメリカが、都市部が青色の民主党の地盤、地方が赤色の共和党の地盤にくっきり色分けされていることと関係しています。
民主党は大都市とその近郊に住む女性や若者、それに黒人やヒスパニックなどのマイノリティーを取り込むことに成功しました。議会下院は人口に応じて議席が各州に割り振られますから、民主党は都市部の選挙区を軒並み制することで多数派の奪還を果たしました。
これに対して、上院は州全体がひとつの選挙区です。共和党は、みずからの地盤とする州で、地方に住む保守的な白人層にターゲットを絞り、いわば“選択と集中”によって、その州を制し、上院の多数派維持に成功したのです。いまのアメリカが党派的にも地域的にも「ふたつのアメリカがある」と言われている所以です。

<新議会と政権運営>

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今回の結果を受けた新しい議会は、来年1月から始まります。上下両院で多数党が異なる「分断議会」はオバマ前政権のとき以来です。今度は共和・民主両党が攻守を入れ替えます。アメリカでは、政府に法案提出権がなく、予算も法案も上下両院でそれぞれ可決しなければなりません。このため、トンプ大統領が望むとおりの予算や法案は成立が難しくなります。仮に民主党が下院で予算審議に抵抗すれば、政府閉鎖が起きる可能性もあります。

一方、上院は閣僚や政府高官らの人事を承認する権限を持っています。共和党はその上院を抑えていますから、トランプ大統領は、気に入らない閣僚を交代させたり、連邦判事に保守派を起用したり、これまで通りの人事を進めていくことが可能です。
これに対して、下院は、議長も各委員会の委員長職も民主党が占めることになります。そこで民主党は、いわゆるロシア疑惑を徹底的に追及していく方針です。大統領の弾劾訴追をただちに求めることには慎重です。ただ、疑惑の捜査にあたるモラー特別検察官が報告をまとめ次第、政府に対する監督権限を行使して、公聴会を開いたり政権幹部らを証人に呼んだりするでしょう。混乱や紛糾も予想され、内政の停滞は避けられません。

その場合、トランプ大統領は、政権浮揚をはかるため、みずからの権限で実行できる外交や安全保障に活路を見出そうとするでしょう。各国との通商交渉でアメリカファーストの名のもとに貿易赤字削減を高圧的に迫る、あるいは中国や北朝鮮それに中東との外交でも思い切った策に走る。これまでと基本的に同じと言えば同じです。ただ外交には時に決裂を防ぐため一定の妥協も必要となる場面が出てきます。安易な妥協はもちろん困りますが、内政で得点稼ぎが出来ない分、トランプ外交に妥協の余地がこれまで以上に無くなることも心配です。

<州知事選と2020激戦州>

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今回の中間選挙では、36の州で知事選挙が同時に行われました。実はこれもポイントです。上院選と同様、州レベルで共和・民主両党の得票力を占うだけでなく、州知事は選挙資金集めや選挙制度の見直しで重要な役割を果たすことが多いため、トランプ大統領が再選をめざす2020年の大統領選挙の行方にも大きく影響するからです。
共和党は、トランプ大統領を2年前の当選に導く原動力となった激戦州の南部フロリダやラストベルトの中核をなす中西部オハイオで今回接戦を制しました。トランプ大統領は、こうした結果に自らの再選戦略も狙い通りに進んでいると、自信を深めていることでしょう。

<軌道修正か唯我独尊か>

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歴代の大統領にとって最初の中間選挙は鬼門と言われます。
クリントン元大統領は、1994年、初めての中間選挙で保守派の旋風に圧倒され、上下両院で多数派の座を失う大敗を喫しました。そこで、左派的な政策から中道寄りに軌道を修正し、再選を果たしました。
オバマ前大統領も8年前、初めての中間選挙は、保守派ティーパーティー旋風に圧倒され、下院で多数派の座を失う惨敗でした。しかし、クリントン氏とは対照的に、リベラル路線から軌道修正を拒み、いわば唯我独尊を貫きました。その結果、リベラル派からの支持で、再選は果たしましたが、保守派からいっそう反発も受け、2期目は目指す法案がほとんど成立せず、議会を迂回してみずからの権限で漕ぎ着けたイランとの核合意もTPPもパリ協定も、後任のトランプ大統領によって悉く覆されたのです。
トランプ大統領もまたオバマ前大統領のような道を選ぶのではないでしょうか。みずからを支持する保守派のための政治、みずからの支持層のための外交を展開し、強気一辺倒でわが道を行くゴーイングマイウェイ。そんなスタイルは今後も変わらないでしょう。

この2年近く、トランプ大統領の型破りな政権運営が、アメリカ政治の分断の溝をいっそう深めてきたのは確かです。しかし、そもそもトランプ氏は、すでに90年代から徐々に深刻化してきたアメリカ社会の分断の中から出てきた大統領でもあります。アメリカの分断こそがトランプ政権を生んだのです。党派の違いを超えた融和、対話、協力といった言葉が聞かれなくなって久しい今、アメリカの分断の溝は、これからますます深まっていく。そんな現実を今回の中間選挙は私たちの眼の前にまざまざと見せています。

(髙橋 祐介 解説委員)

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