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「対イラン制裁 広がる影響と国際社会」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■アメリカのトランプ政権が、イランの原油輸出や金融を対象にした非常に厳しい経済制裁を、5日、発動させました。イランだけでなく、世界各国を巻き込む制裁で、影響は極めて大きく、各国とも難しい対応を迫られています。今夜は、この問題を考えます。
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■解説のポイントは、▼「イラン核合意とトランプ政権の制裁」。▼「イランへの影響と対応」。そして、▼「国際社会の対応」です。
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■トランプ政権は、今年5月、「イラン核合意」から一方的に離脱し、イランに対し、「過去最大級の制裁を行う」と予告しました。
「核合意」は、アメリカのオバマ前政権が、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国とともに、3年前、イランとの間で結んだものです。イランが核開発を大幅に制限する見返りに、関係国がイランに対する制裁を解除する内容で、国連安保理決議のお墨付きもあります。
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ところが、トランプ政権は、イランが将来、核兵器を獲得するのを止められない「最悪の合意」だとこきおろして一方的に離脱しました。イラン、および、アメリカ以外の国は、現在もこの合意を守っています。
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■▼トランプ政権は、8月、第1弾として、イランの自動車や鉄鋼などの分野で制裁を発動させました。
▼今回は制裁の第2弾で、イランの原油や石油製品、イランの中央銀行やほとんどの金融機関、海運、保険など広い分野に及び、イランと関係する700以上の個人や団体が対象です。

これは、イラン経済を窒息させてしまうほどの非常に強力な制裁です。原油の輸出は、イランの国家収入の3分の1を占める経済の柱です。また、金融制裁によって、イランは、外国との貿易や投資の決済が、事実上できなくなります。トランプ政権は、イランと取引を続ける外国の企業や金融機関をアメリカの市場から閉め出すとして、「アメリカをとるのか、イランをとるのか」、二者択一の選択を迫っているのです。
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■国際合意を無視した理不尽とも言える制裁の狙いですが、トランプ政権は、イランの指導部との間で、今の核合意に代わる「新たな合意」を結びたいと考えています。
そこには、▼イランの核開発を、制限するのではなく、完全に停止させること。▼イランによる弾道ミサイルの開発をやめさせること。▼イランをシリア内戦から撤退させることなどを盛り込みたい考えです。

イランの生命線とも言える原油輸出と金融を遮断すれば、イランは経済的に立ち行かなくなり、「新たな合意」に向けた交渉に応じざるを得なくなるだろう。
そして、あわよくば、アメリカを敵視し続けてきたイランのイスラム体制を崩壊に追い込むこともできるかもしれない。トランプ政権は、そう考えているようです。
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■その一方で、トランプ政権は、日本をはじめ、8つの国と地域を、制裁の「適用除外」とし、今後180日間は、原油の輸入を認めると発表しました。こちらが、その国と地域です。
【日本、中国、韓国、インド、トルコ、イタリア、ギリシャ、台湾】
アメリカ政府の高官は、「期間は最長180日で、延長はしない。各国には、あくまでも、イラン産原油の輸入の完全な停止を要求する」と説明しています。
また、トランプ大統領は、「適用除外」を設けたのは、原油価格の急激な上昇を抑えるためとしています。
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■制裁がイランに与える影響とイランの対応を考えます。
▼イラン経済は、非常に大きな打撃を受けます。イランの通貨リアルは、トランプ政権が核合意からの離脱を表明してから、米ドルとの交換レートがおよそ3分の1に下落し、現在、インフレ率は36%。若者の失業率も30%を超えています。今回の制裁で、政府の収入が大幅に減れば、食料などの補助金も削減せざるを得ません。

▼こうした中、イランのロウハニ政権は、当面、核合意にとどまる考えと見られます。これまでは、核開発を制限することに見合う経済的利益が得られない場合、とくに、原油の輸出ができなくなった場合には、核合意から離脱すると表明してきました。しかし、今、「核合意」から離脱すれば、ヨーロッパ諸国などとの取引や協力関係を失うことになるため、直ちに離脱することはないと思います。
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▼ロウハニ大統領は、きのうの演説で、「われわれは、経済戦争のさなかにある。しかし、制裁には屈せず、原油の輸出も続ける。ヨーロッパやアジアの国々は、われわれの側にある」と述べています。
ここから読み取れるのは、当面、ヨーロッパ諸国、中国、ロシアなどと連携し、金融制裁の影響を受けない方法を模索しながら、原油の輸出ルートを確保するという戦略です。
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▼そして、イランは、トランプ政権が求める「新たな合意」を目指す交渉には応じず、トランプ政権が終わりの時を迎えるのを辛抱強く待つのではないか。価格統制や配給と言った「戦時経済」に移行することも含め、国内を引き締め、難局を乗り切ろうとするのではないか。こうした見方が、専門家の間では有力です。
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■続いて、国際社会の対応です。
▼ヨーロッパ諸国、中国、ロシアは、イランは「核合意」を守っており、核の拡散をくい止める効果があるとして、核合意を支持する立場を明確にしています。

▼そして、EU・ヨーロッパ連合と、イギリス、フランス、ドイツの外相は、2日、共同声明を発表し、トランプ政権の制裁発動に「深い遺憾の意」を表すとともに、ヨーロッパの企業が、イランと取引を続けることを保護する姿勢を明らかにしました。EUは、金融制裁の影響を受けない「新たな決裁システム」を導入する計画を発表していますが、いつ実現するのか、見通しは立っていません。

▼一方、ヨーロッパ各国の企業の対応は、政府とは異なります。「トタル」、「プジョー・シトロエン」、「エアバス」などの大手企業が、相次いでイランとのビジネスを停止、あるいは、撤退すると表明しました。いずれも、アメリカとのビジネスは犠牲にできないという経営判断が働いたためと見られます。
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▼そして、中国の対応が注目されます。イランの原油輸出のおよそ4分の1を占める最大の輸出先だからです。中国は、トランプ政権の制裁を拒否してきましたが、今回、「適用除外」を受けました。これは、中国の国営石油会社が、9月以降、イランからの原油の輸入量を減らすなど、ある程度の協力姿勢を見せたためではないかと見られています。今後、中国がイランとの原油取引をどの程度維持するかが、核合意の行方と、イランの対応を左右するカギとなります。
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■次に、日本の対応です。政府は、「イラン核合意」を支持する一方で、日本企業の活動に影響が出ないようトランプ政権と交渉を重ね、「適用除外」となりました。
日本は、原油の5%程度をイランから輸入していましたが、石油元売り各社は、制裁発動を見越して、先月(10月)分から、イラン産原油の輸入を停止しています。トランプ政権が、「制裁の適用除外は最長で180日間」としているため、各社は、調達先をイラン以外の国に切り替える対応を迫られそうです。
さらに、原油以外のビジネスも深刻な影響を受けています。イランへの自動車などの輸出は、ほとんど停止しました。イランに進出している商社などは、駐在員の数を減らし、イラン側との関係の維持に専念しています。
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■トランプ政権の今回の制裁によって、イラン核合意は、その根幹を失いました。今後、この制裁がイラン経済に与える打撃の大きさによっては、最終的に、イランが離脱を決断し、核合意が崩壊する恐れも否定できません。その場合、ペルシャ湾の軍事的な緊張が高まり、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本にとって由々しき事態となります。日本としては、他の国々と協力し、良好な関係にあるイランにも働きかけて、現在の核合意を維持するため、最大限の外交努力を続けることが重要だと考えます。

(出川 展恒 解説委員)

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