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「転換期迎えたか? 世界経済」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

世界各地の金融市場でこのところ株価が乱高下し、景気の先行きへの懸念が強まっています。投資家の間では長らく続いてきた楽観的なムードが薄れ、「これまで好調だった世界経済の潮目が変わった」「先行きの不確実性が高まった」という声も聞かれます。そこで世界経済における変化と背景、そして今後の課題について考えます。

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ニューヨーク株式市場では今週はじめ、ダウ平均株価が3ヶ月半ぶりの安値をつけました。先月はじめに史上最高値を更新したあと、株価が急落する局面が続き、一日に900ドル以上の荒い値動きを見せる日もありました。
また東京市場でも、先月・10月の1ヶ月でみると、9%を越える記録的な下落となりました。
さらに中国でも火曜日には、通貨・人民元が、リーマンショック前の2008年5月以来となる10年ぶりの安値となりました。

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日本もアメリカも戦後最も長い景気拡大局面をうかがおうという中、金融市場で神経質な値動きが続く理由。それは異例ともいえる「株高・超低金利時代」の終わりが近づいている影響にほかなりません。
世界的株安の震源地となったニューヨークの株価急落の直接の引き金となったのも、アメリカの長期金利の上昇でした。
アメリカの中央銀行にあたるFRBはバブルを恐れ、事実上ゼロ金利の状態から、利上げを徐々にすすめてきました。が、これ以上の金融の引き締めで株価が下がり自らの支持率が低下するのではと恐れるトランプ大統領は、大型減税を実施したり、インフラ投資計画を発表したりと、景気が過熱寸前にもかかわらず、火に油を注ぐような手立てを次々と打ち出してきました。その上でFRBに対し、利上げをすすめないようけん制してきました。
ところが最近公表されたFRBの議事録によって、トランプ大統領の意向にかかわらず、パウエル議長率いるFRBが利上げを続けていく姿勢に揺らぎがないことが示されました。これを受けて、市場関係者の間では今後の金融引き締めの影響があらためて強く意識されることとなったのです。

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また、金融を引き締める方向に動いているのはアメリカだけではありません。ECB・ヨーロッパ中央銀行も緩和策の一つである資産の買い入れ策を年内に終了し、マイナス金利からの脱却を探る局面へと移っています。そして最も慎重だった日銀の内部でも真剣な議論が始まっています。ことし夏、日銀は長期金利の上昇を一部容認する方針を決めましたが、専門家の中からはこれが今後の利上げを視野に入れた布石になるのではとの見方も出てきています。

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もちろんこうした動きによって世界経済が一気に冬の時代に突入するわけではありません。
ただ、景気の過熱をおさえるために必要な手立てだとはいえ、アメリカをはじめ先進国で金利が上昇すれば、資金調達コストが上がって投資や消費が鈍るほか、これまで新興国に流れ込んでいた資金が流出するなど、経済成長の足かせにもなってきます。これ以上景気が拡大する余地は限られ、いよいよ秋風が吹いてきたのではないか、という認識が広がりつつあるといえます。

さらに今、金融市場だけでなく、実体経済の面でも変化の兆しが見えています。アメリカ・トランプ大統領が仕掛けた米中貿易摩擦がブーメランとなり、世界経済の2大エンジンであるアメリカと中国両国の経済にじわじわと悪影響を与え始めているのです。

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まずは中国をみてみます。先月中旬に発表された7月から9月までのGDPの伸び率は6.5%にとどまり、9年半ぶりの低い水準となりました。その一因は、中国政府が地方の過剰債務問題を解消するためインフラ投資を意図的に抑制しようとした影響があるとみられます。
しかし市場予想を下回る減速ぶりの背景には、自動車やスマートフォン、マンションの販売をはじめとする消費の陰りがあげられます。アメリカとの貿易摩擦が激しくなってきたことを受け、消費者心理や投資意欲がすでに冷え込み始めたことがうかがえます。

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今後通商摩擦による影響が本格化すれば輸出も落ち込むことが予想されるだけに、こうした懸念材料を背景に人民元が売りこまれているのです。
また、関係者の話では、中国の金融当局は今、国外への資金流出の増加にとりわけ神経を尖らせていて、北京に進出している海外の金融機関の国外送金の動向にも目を光らせては牽制しているとききます。
先日開かれた中国共産党の指導部の会議でも国内の経済に「下押し圧力がやや強まっている」というこれまでより厳しい景気認識が示され、これからの経済運営の難しさがうかがえます。

一方、貿易摩擦の台風の目であるアメリカも無傷ではいられないことがはっきりしてきました。企業部門では、中国でビジネスを展開する建機大手のキャタピラーや半導体大手のテキサスインスツルメンツなどが相次いで慎重な業績見通しを発表しています。また農業分野でも中国政府がトランプ政権への対抗措置として打ち出した農産品への関税によって、中国の養豚業者による米国産大豆の買い付けが減少。ブラジル産の大豆に振り替える動きも出ており、アメリカの農家からは不満の声があがっています。IMF・国際通貨基金は最新のリポートで、アメリカが自ら仕掛けた貿易摩擦によって最も被害を受けるのは、長期的には、アメリカになるだろうと警告しています。

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さて、アメリカ・中国の景気が減速すれば、日本への影響は避けられません。今週、海外への輸出を展開する複数の企業がこうした情勢を踏まえて今年度の業績見通しを下方修正すると発表しました。
すでに中国での設備投資の意欲減退で9月の中国向け工作機械の受注額は前年同月比で2割も減少しています。日本の場合、いまだにマイナス金利政策を続け財政赤字も大きいことから、景気が悪化しても打つ手がほかの国にも増して限られていることも大きな懸念材料です。

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それでは今後、日本をはじめとする各国はどうすればいいのか?今月末からアルゼンチンで開かれるG20首脳会合と、それにあわせて行われるとみられる米中首脳会談が次の正念場となりそうです。

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トランプ大統領は1日、習近平国家主席と半年ぶりに電話で会談。現在調整中の米中首脳会談に向けて、ツイッターに「長時間、とても良い話し合いをもった」と投稿したほか、米中貿易摩擦の解消に向けた合意案を策定するよう関係閣僚に指示したという一部の報道も伝わり、両国の関係改善への期待も高まっています。
ただ、米中貿易摩擦にとどまらず▼アメリカの対イラン制裁やサウジアラビア情勢の影響を受けた原油価格の上昇、それに▼イギリスのEU離脱交渉の難航やイタリアの財政赤字問題などの課題を抱えるヨーロッパ経済に対する懸念など、リスク要因は山積みです。
世界経済はこれまで安定成長を続けてきましたが、景気が悪くなる局面でこそ、各国の指導者の真価が試されます。
そこで、ブエノスアイレスサミットの開催時には中間選挙を終えているトランプ大統領をはじめ、各国のリーダーが腰を落ち着けて、貿易摩擦の解消に向けた道筋を探るなど建設的な議論を展開できるかどうか。来年G20の議長国もつとめる日本をはじめとする各国が協調して知恵を出し合い、世界経済のリスク要因を一つでも減らして、今後予想される難局を乗り切ることができるかが問われています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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