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「海賊版サイト対策『ブロッキング』の是非は」(時論公論)

三輪 誠司  解説委員

漫画などを作者に無断でネット上に公開する「海賊版サイト」の対策について、政府の有識者会議は、そうしたサイトに接続できないようにする「ブロッキング」の是非を中心に議論を続けてきました。しかし、意見が衝突して紛糾し、座長が、結論が出なかったことを公表して事実上終了しました。この議論を検証しながらインターネットを介した著作権侵害の対策について考えます。

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ことし2月、政府の知的財産戦略本部の委員会の会合で、漫画などを無断で公開している悪質なサイトがあると報告されました。最も悪質なサイトは、発売前の漫画を入手して勝手に公開していました。出版社などは、被害は3000億円を超えるとして、3つのサイトへの通信を遮断する「ブロッキング」を行うべきだと主張するようになりました。

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案として出されたブロッキングの方法です。

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インターネットを利用する人は、通信会社の回線を使って、さまざまなホームページのサーバーにアクセスします。ブロッキングの手続きをとる場合、著作権者が海賊版サイトのアドレスを指定し、そのサイトにアクセスできなくするよう通信会社を相手取って裁判を起こします。裁判所が認めた場合、通信会社は、利用者が海賊版サイトにアクセスした時に回線を遮断します。

国内にはおよそ2万社の通信会社があるため、本来はすべてに対して裁判をする必要があります。このため、大手の通信会社に対する判決が確定した後は、他の会社に対しても判決の効力が及ぶようにするという案も出ていました。

これについて、政府は、ことし4月、緊急対策を公表しました。

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他の方法による権利の保護が不可能であることなど、緊急避難の要件を満たす場合には、ブロッキングは可能だというものです。そのための法整備を検討することも明らかにしました。

この2ヵ月後に設けられた有識者会議は出版社、著作権団体、通信会社、法律の専門家などで構成されました。

海賊版サイトに対する何らかの対策をするべきだという意見は一致していましたが、ブロッキングに対しては、出版社などは賛成、通信会社や憲法学者などは、反対の立場をとりました。

どうして、違法なサイトに接続できなくすることに反対するのでしょうか。
一つめの理由は、乱用すると、知る権利や言論の自由を侵害するためです。
もし、著作権を理由にした、ブロッキングが認められたとすれば、さまざまな人が、自分も別の権利侵害をこうむっていると主張し、ブロッキングを要求する可能性があります。

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たとえば、政治家が、選挙の前に自分を批判するサイトを見つけ、これを名誉毀損だとしてブロッキングを求めるケースです。このような場合、サイトへの回線切断が認められると、ネット上には、偏った情報しか流れなくなります。

中国・エジプト・シリア・イラクなどでは、政府を批判するサイトは、ブロッキングされます。しかし、言論の自由が保障されている国は、ブロッキングには極めて慎重な姿勢をとっています。日本でも児童ポルノなど、写っている子供の人格権を侵害している場合を除き、行わないというルールを通信業界が設けています。

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もう一つの理由は、100%の効果が期待できないことです。海賊版サイトは、閉鎖されるのを防ぐため、別のサーバーに移転しアドレスを変更することがあります。そのたびに、ブロッキングをすれば、いたちごっこが続き、対象のサイトが増える危険性があります。

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有識者会議は、賛成派と反対派が激しく議論を戦わせました。賛成派はまず、被害が甚大なこと。コンテンツ産業そのものが崩壊してしまうと訴えました。
また、海賊版サイトは海外のサーバーにあるため、管理者を特定して検挙したり、閉鎖させたりする方法がないと主張しました。さらに、ブロッキングは一部のサイトにとどまり一般のネットユーザーへの影響は少ないとしました。

これに対して、反対派は、ブロッキングを議論する前に、あらゆる対策を行うべきだと主張しました。まず、海外サーバーの企業に対する情報公開を請求して、管理者の情報を得ることです。実際、今回問題となった海賊版サイトについて、管理者につながる情報を得たことを公表しました。

また、通信会社の自主的な取り組みとして、海賊版サイトを閲覧しようとする人に対して警告画面を表示するようにするなど、啓発活動も行うべきだと訴えました。

そのためにも、著作権法の改正が必要だと主張しました。違法に公開されたものであることを知った上で、漫画などをダウンロードすることを禁止することです。現在、音楽や映像は違法ですが、静止画は違法ではありません。

しかし賛成派は、ブロッキングを求める姿勢を崩さず、いわば決裂する形で終わりました。双方の関係がこじれてしまったことで、啓発活動など協力しながら海賊版対策を進める道も、遠のいてしまいました。政府の緊急対策が、最初からブロッキングを認める形となっていたため、出版者などは国の対策に盛り込まれているなどとして、かたくなになっていたことが議論の中から感じられました。また、通信会社も、有識者会議の結論はブロッキングの法制化を了解するという内容に、最初から決まっているのではないかという疑念を抱くことになり、議論の紛糾と双方の信頼関係の崩壊につながったと思います。

では、このブロッキングの是非について、どのように考えればいいのでしょうか。

確かに、反対派の対策案も、100%の効果は得られないと思います。しかし、ブロッキングも、効果に限界があります。また、ブロッキングをいったん始めてしまうと、さまざまな人が権利侵害を訴え、対象範囲が広がる可能性がでてきますが、狭めることは難しいでしょう。将来にわたって拡大しないというルールができ合意できるまで、ブロッキングは行うべきではないと思います。

最後に、海賊版サイトの対策は、今後どのように進めるべきか考えます。

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まず、ブロッキングは慎重に判断することが重要です。あいまいな議論ですすめると、対象範囲が拡大していくおそれがあるからです。当然、国がそれに言及することは言論統制への道だと疑われかねないと思います。

その上で、海賊版サイトの管理者を突き止め、閉鎖させるため、現在のルールの中であらゆる努力をすることです。海外にサーバーがあっても、あきらめずに管理者の情報を得る努力が必要です。また、海賊版サイトに広告を出している企業に対して自粛するよう要請し、資金源を断つことも効果的です。

海賊版サイトの問題で、もっとも悪質なのは、サイトの運営者ですが、それを利用していた人たちも盗まれた漫画本を回し読みしていたのと同じで、大いに反省しなければなりません。ブロッキングは、すべてのネット利用者に悪影響を与える恐れがある。そうならないためには、利用者のモラルが欠かせないことを周知し、国民を巻き込んだ議論にしなければ、海賊版サイト問題の根本的な解決にはならないと思います。

(三輪 誠司 解説委員)

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