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「アメリカ中間選挙 保守派の逆襲は?」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

来月6日のアメリカ議会の中間選挙まで、残り2週間となりました。トランプ大統領に対する事実上の信任投票とも位置づけられた今回の選挙で、議会の多数奪還をめざす野党・民主党に対し、このところ目立つのは、与党・共和党を支持する保守派の逆襲です。はたして選挙戦の最終盤、アメリカで何が起きているのでしょうか?中間選挙とトランプ政権の行方を考えます。

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ポイントは3つあります。

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▼まず、共和党がいわば反転攻勢の機会を得たのは、連邦最高裁判所の新しい判事に保守派が指名され、議会による承認の難航が波紋を広げたことと関係しています。
▼次に、“保守の牙城”と目されてきた南部テネシーとテキサス州。ここで共和・民主両党の攻防をみてみます。
▼そして、現時点で最も可能性が高いのは、上院は与党・共和党が多数を維持するものの、下院は野党・民主党が多数を奪還する“分断議会”のケースです。仮にそうなった場合、トランプ大統領の政権運営に、どのような影響が出てくるでしょうか?

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さっそく最新の情勢から見ていきましょう。
まず上院です。定数100の上院は今回、民主党が26共和党は9つ、合わせて35の議席が改選されます。改選議席が少ない分だけ共和党は有利です。世論調査の平均値からみた議席の獲得予測では、共和党は、すでに議席の半数を固め、接戦の6つの州次第では、現有の51議席からさらに上積みをうかがう勢いです。よほどの大波乱でも起きない限り、上院は共和党が多数を維持する公算が大きいでしょう。

一方、下院です。下院は定数435議席がすべて改選されます。議席の獲得予測では、民主党は現有の193議席から増やすのは確実です。ただ、接戦となっている議席が30以上あります。勝敗ラインは過半数の218議席。民主党はやや優勢ですが、いずれの党が過半数を占めるのか、まだわかりません。

これまで民主党は、「反トランプ」の政権批判を追い風に、候補者選びの予備選挙から、例年以上の勢いがありました。ところが、選挙戦の終盤に入って、そうした勢いが鈍ったようにも見えるのはなぜでしょうか?

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情勢を変えたのは、連邦最高裁で高齢を理由に引退した中道派の判事の後任に、トランプ大統領が保守派のカバノー氏を指名したことがきっかけでした。9人の最高裁判事には、日本のような定年がありません。カバノー氏が就任したら、保守派が5人に対してリベラル派は4人。しかも、高齢の判事はリベラル派に多く、今ここで保守派の判事承認を阻止しなければ、最高裁判決が保守化する傾向が長年固定しかねない。民主党はそう危機感を募らせます。

そんな最中、カバノー氏に36年前、女性を性的に暴行しようとした疑惑が突如、持ち上がったのです。本人は疑惑を全面否定。疑惑を告発した女性が名乗り出て、前代未聞の公聴会が全米の注目を集めました。しかし、FBIが再調査しても、疑惑を裏づける証拠は見つかりませんでした。今月、上院は採決の結果、賛成50、反対48の僅差でカバノー判事を承認しました。

保守派による批判は、告発に踏み切った女性よりも、判事承認に異を唱えた民主党陣営に向けられました。実は、民主党議員の一部は、告発を予め知っていながら先月の承認審議まで明らかにしなかったからです。民主党は、中間選挙をにらんで審議の先延ばしを画策し、いわば党利党略に最高裁を利用したのではないか?保守派はそう憤ったのです。

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保守派の怒りは、保守的なキリスト教徒が多い南部テネシー州にも広がりました。テネシー選出の上院の議席争奪は、それまで民主党候補のブレデセン元州知事を、トランプ大統領に忠誠を誓う共和党候補ブラックバーン下院議員が追いあげ、ほぼ互角でした。ところが、判事承認の問題以降、今月に入って共和党候補は一気にリードを広げているのです。

リベラル系のメディアによる民主党への肩入れも怒りに拍車をかけました。テネシー出身の有名歌手テイラー・スウィフトさんが、政治的な沈黙を破り、民主党候補に支持を表明したことをメディアは大きく取り上げ「若者や女性票は民主党支持に雪崩を打つ」そんな観測を盛んに伝えました。しかし、実際は保守派の反発を招き、むしろ逆効果になっているのかも知れません。

もともと今回の中間選挙に保守派は関心が薄く、盛り上がり不足も指摘されていました。いつもの選挙なら争点になる経済や雇用も、いまアメリカは絶好調ですから、投票に行くかどうか迷っていた人も少なくなかったでしょう。しかし、判事の承認問題は、そうした保守派に「必ず投票に行く」そう決意させる格好の動機づけになったかたちです。

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一方、南部テキサス州も、この四半世紀、共和党が上院選は負け知らずという“保守の牙城”です。保守強硬派の共和党の現職テッド・クルーズ上院議員は、本来なら楽々勝てるはずですが、民主党の新人ベト・オルーク下院議員が追い上げて、番狂わせを狙っています。
ただ、ここでも保守派は息を吹き返し、今月に入って両者の差は再び広がっています。民主党のオルーク候補が逆転勝利を果たすには、支持基盤とする若者や、テキサスの都市部で増えているヒスパニックを大量動員しなければなりません。しかし、若者やヒスパニックは、共和党を主に支持する白人の保守的な中高年層に比べて、投票率は低い傾向にあるのです。

きのう(22日)トランプ大統領も、かつて共和党の大統領候補の座を争ったクルーズ候補を応援するためテキサスに入り、保守派の支持固めに余念がありません。いま大統領が力を入れている不法移民対策などをめぐり、ヒスパニック系の有権者を刺激するような暴言や失言でも飛び出さない限り、民主党が狙う“テキサスの番狂わせ”は不発に終わるかも知れません。

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そんなトランプ大統領は先日ツイッターにこんな絵を貼り付けました。最近の日本企業による主な対米投資計画と雇用の創出効果。それをみずからの成果としてアピールしたのです。無論、日米の経済交流が深まることは歓迎すべきです。ただ、気になるのは、「これはほんの始まりにすぎない!」そう注釈を付けたことです。
いま日米両政府は、新たな貿易協定の交渉入りでひとまず合意し、トランプ流の高圧的な通商政策は一服したかにも見えています。しかし、中間選挙が終われば、次は2年後の再選をかけた大統領選挙が迫ってきます。日米関係を円滑に保つためには、油断は禁物です。

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しかも、議会下院で仮に民主党が多数を握れば、状況はさらに厳しくなるかも知れません。上下両院で多数党が異なることをアメリカでは「分断議会」と言いますが、その場合、大統領がめざす予算も法案も議会を通りにくくなるからです。
中間選挙で敗北を喫した歴代の大統領の多くは、反対陣営に歩み寄り、妥協点を模索するのが常でした。しかし、トランプ大統領は、保守派からの支持を背に受けて、ますます対決姿勢を強め、みずからの権限で大統領令を連発する、あるいは外交・安全保障に活路を見出そうと思い切った策に出る可能性が高そうです。民主党もトランプ政権の“ロシア疑惑”を厳しく追及し、党派対立はこれまで以上に緊張をはらむでしょう。

「ドナルド・トランプの辞書に“失敗”の文字はない。なぜなら失敗を“失敗”とは認めないからだ」そんなジョークもある大統領のことですから、強気一辺倒の自分流を貫くスタイルは今後も大きく変わることはなさそうです。中間選挙まで残り2週間。私たちも“トランプ劇場”の次の幕開けに備えておくべきではないでしょうか。

(髙橋 祐介 解説委員)

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