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「ダンパー データ改ざん 問題の本質は」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

建物にいる人や建物そのものを地震から守る「ダンパー」という装置について、メーカーが性能を示す検査データを長年にわたり改ざんしていたことがわかりました。問題のダンパーが設置されていた物件は、およそ1000件にのぼります。メーカーは、「震度6強や7の揺れでも倒壊の恐れはない」としていますが、地震に強い国づくりを進める日本で、この改ざんは決して許されるものではありません。
ダンパーのデータ改ざんの問題の本質はどういったことなのか考えます。

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解説のポイントです。

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▽ダンパーとはどういう装置で、何のデータが改ざんされたのか。
▽改ざんによって、何が問題になったのか。
▽ものづくり現場で相次ぐ不正をどう考えるのか、みていきます。

改ざんをしていたのは、東京・港区に本社がある「KYB」と、子会社の「カヤバシステムマシナリー」です。
ダンパーは、免震や制振という地震対策をした建物で、揺れを抑えるために使われています。

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上の図の左は、免震の建物です。地面と建物の境界に水平に変形するゴムを置いて、地震の揺れが建物に伝わりにくいようにします。このとき、建物が大きく揺れないよう、揺れを吸収するのが、ピストンのような動きをするダンパーです。
制振の建物(上図の右)では、柱と梁に斜めにダンパーを設置し、地震の揺れを吸収します。

一般的な建物は、地震の揺れを柱やはりで耐えようとします。

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このため、揺れが強い場合、柱や梁に大きな負担がかかり、損傷します。建物を支える重要な構造が被害を受けると、地震後、危険で立ち入ることができなくなります。

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これに対して、免震や制振はダンパーが負担してくれます。こうすることで、大きな揺れが来ても、柱や梁といった建物の基本的な構造に被害が及ばないよう設計しています。

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一般の建物は「倒壊しない」ようにしていますが、大きな地震を受けると使用できなくなることがあるのに対して、免震や制振は建物が損傷しないようにすることで、建物の「機能維持」も図ることができます。大地震でも、建物の揺れが比較的小さいことから、室内を短時間で元のように使えることが可能になっています。

ただ、こうした性能を発揮させるためには、ダンパーが設計どおり働くことが必要になります。

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たとえば、免震の建物で、
▽ダンパーが柔らかすぎると、建物全体が大きく横に動いてしまいます。

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▽ダンパーが硬すぎると、ダンパーの部分で揺れを吸収してくれないので、建物が上の図のように揺れて、柱や梁の負担が大きくなります。

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免震も制振も、ダンパーには柔らかすぎず硬すぎない、適正な柔らかさにする必要があります。
KYBと子会社は、製造したダンパーをひとつひとつ検査する際、柔らかさを示すデータが国の基準や発注者が求める範囲になかった場合に、決められた手順で調整せず、あたかも適正な値であるよう数字を操作し、データを改ざんしていたということです。

改ざんは2000年3月から2018年9月にかけて行われ、これらのダンパーが使われた物件は、データを確認中のものを含めて、986件にのぼるということです。物件は、47都道府県すべてにおよび、高層マンションや行政の庁舎、病院、事務所などがあります。

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KYBによりますと、問題の物件のうち、改ざんの影響を大きく受けたと見られる建物について、安全性を検証したところ、震度6強や7の揺れでも倒壊する恐れはないという結果が出されたということです。建物には何本ものダンパーが使われているため、一部のダンパーに改ざんがあっても、建物全体に与える影響は少なく抑えられていることなどが理由として考えられます。建築の専門家も、「詳しい検証は必要だが、倒壊するような危険な建物はないと考えて良いだろう」と指摘しています。
しかしその一方で、建物の機能維持が設計どおりかどうかは検証されていません。

もう一度、建物の特徴を見てみます。

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免震や制振では、大地震で、単に倒壊しないだけでなく、機能が維持されるという狙いでダンパーを使っています。ダンパーが使われていた建物に庁舎や病院がありましたが、行政は地震後、直ちに救援、復旧・復興の指令塔としての役目が求められます。病院も、多くの被災者を治療する拠点として機能しなければなりません。そのために、一段も二段も地震に強い建物にしようと、免震や制振にしているのです。

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改ざんによって、この機能維持が設計どおりに発揮できなくなっている恐れがあります。
免震や制振は、阪神・淡路大震災で拠点となる建物などが使えなくなったことを教訓に、採用するケースが増えてきました。今回のデータ改ざんは、そうした「日本を地震に強い国土に変えよう」という取り組みを踏みにじる行為で、決して許されるものではありません。

KYBと子会社は、今後、問題のダンパーを交換するとしています。地震はいつどこで起こるかわからないだけに、早急に取り掛からなければなりません。

こうした不正が起こらないようにするには、どうしたらいいのでしょうか。

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今回、改ざんは、検査とは別の担当の従業員が気づき、2018年8月、上司に報告して発覚したということです。これまでの社内調査によりますと、ダンパーの性能を検査してきた歴代の担当者、少なくとも8人が改ざんに関与し、口頭で引き継がれていたということです。
改ざんした理由ははっきりしていません。
ただ、このダンパーは大型であることから、もともと柔らかさを適正な値にするのが難しかったといいます。値が範囲内にないときは、分解して調整した上で、組み立て、再び検査してデータを出すことにしています。これに時間がかかったことが背景にあったと見られています。
KYBと子会社は、調査委員会を作って、原因を調査し、再発防止を図るとしています。
15年以上もの間、会社として気づかずに出荷し続けていたことからみても、会社が担当者任せで、チェックができていなかったことは明らかです。

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製造現場に納期に間合わせるよう無理な作業をさせていなかったのか、不正を長年続けた背景な何なのか、明らかにしなければなりません。

そして、もうひとつ指摘しておかなければならないのが、日本のものづくり現場での不正が後を絶たないことです。

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建築関係では、10年以上前の耐震偽装を思い出しますが、最近も、
▽東洋ゴム工業による建物の免震装置のデータ改ざん、
▽旭化成建材による、建物の杭のデータ偽装がありました。
製造業でも
▽神戸製鋼所のアルミ製品のデータ改ざんのほか、
▽自動車メーカーによる燃費などのデータ書き換えなどなど、数多くの不正が明らかになっています。
そうした中で、問題をひとごととせずに、自分たちの足元を見つめ直すということをしてこなかった経営側の危機管理の甘さ、それが今回の不正を未然に防げなかった背景にあったのではないでしょうか。
日本のものづくりが、再び高い信頼を得るには、何が必要なのか。困難に突き当たったとき、それに正面から向き合って、技術力で乗り越えていく。そうした原点に立ち返ることが、いま求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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