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「日韓 新たなパートナーシップは」(時論公論)

出石 直  解説委員

この時間は、日本と韓国の関係についてお話したいと思います。
今から20年前の10月、当時の小渕総理大臣とキム・デジュン大統領が新たな日韓関係の構築に向けた決意を記した共同宣言に署名しました。パートナーシップ宣言とも呼ばれるこの文書は、首脳間で交わされた文書としては異例の詳細かつ具体的な内容で、その後の日韓関係の礎となりました。
先週、東京都内で開かれた記念行事で安倍総理大臣もその意義を強調しました。
「小渕総理と金大中大統領のような指導者を始めとする多くの方々の不断の努力によって、数々の障壁を乗り越え、今日に至る日韓関係が築かれてきました」

日本と韓国、お隣同士でありながら、その関係は昔も今もけっして良好とは言えません。
先日も、「旭日旗」と呼ばれる旗の掲揚が認められず自衛隊の派遣が見送られた国際観艦式で、韓国側が豊臣秀吉の軍と戦った将軍を象徴する旗を掲げるなど、両国の友好に水を差すような出来事がありました。パートナーシップ宣言から20年、きょうはこれまでの日韓両国の歩みを振り返りながら、これからの日韓関係について考えてみたいと思います。
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【共同宣言の意義】
日韓関係を考える時、避けて通ることができないのが歴史の問題です。日本は1910年に韓国を併合、1945年の敗戦までの間、韓国を植民地支配してきました。両国は1965年に国交正常化を果たしますが、歴史認識の問題は完全には解決しないまま残されました。
1998年のパートナーシップ宣言で、小渕総理大臣は「植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め」、「痛切な反省と心からのおわび」を表明しました。
これは、戦前の日本の植民地支配や戦争責任について、日本政府としての公式な立場を表明したものと位置づけられています。

これに対し、キム・デジュン大統領は「小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受け止める」としたうえで、「戦後日本が、平和憲法の下で、国際社会の平和と繁栄に果たしてきた役割を高く評価」しました。一方的に謝罪を求めるのではなく、韓国側としても日本側の謝罪を受け入れ戦後の平和国家としての歩みを評価したという点で、日韓の真の意味での和解を実現した画期的な宣言でした。
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この宣言を実行に移すための「行動計画」も作られ、政治・安全保障分野では▽首脳会談の定例化や、▽安全保障対話の開催、経済では、▽貿易や産業技術分野での協力、人や文化の交流では、▽青少年交流の拡大、▽文化交流の充実、など43項目を推進することを申し合わせました。韓国政府は日本の映画や漫画など大衆文化の開放に踏み切ります。
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【日韓20年の歩み】
ではパートナーシップ宣言をきっかけに日韓関係はどう変わったのでしょうか。
まず人の交流です。日本から韓国、韓国から日本を訪れる人の数は、サッカーのワールドカップの共同開催や韓流ブームを経て、2010年には500万人、去年は900万人を越え、ことしは1000万人を突破する勢いです。20年前の4倍、一日に3万人近くが両国の間を行き来している計算です。ただ韓国を訪れる日本人の数はピーク時に較べると100万人以上も減っていて、日本を訪れる韓国人の3分の1以下に留まっています。人口規模から考えますとかなりアンバランスな状態です。
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次に経済面を見てみましょう。日本では、バブル経済の破綻による経済不安が顕在化し、その後もリーマンショックや東日本大震災などの影響で低成長が長く続きました。
一方、当時、通貨危機の最中にあった韓国は、日本の支援もあって危機を脱し、造船、半導体などの分野では日本を追い抜き、スマートフォンや液晶パネルでは世界のトップに躍り出て目覚ましい発展を遂げます。韓国の一人あたりのGDP=国民総生産はこの20年で3倍近くに増えています。両国間の貿易額もこの20年で2点5倍に増え、東南アジアなど第三国での共同プロジェクトも活発です。
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しかし、こうした経済関係にも暗雲が漂っています。戦時中に軍需工場などに動員された朝鮮半島出身の元徴用工と遺族が日本企業に損害賠償を求めている裁判。韓国の最高裁判所は年内にも判決を言い渡す見通しです。両国政府が「解決済み」としてきたこの問題が裁判で覆されれば、日本企業の韓国での活動に深刻な影響を与えるのはもちろん、両国間の外交問題になることは確実です。
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最後に政治、安全保障の分野です。こちらは山あり谷あり、けっして平穏とは言ません。パートナーシップ宣言で合意されたシャトル外交は中断と再開を繰り返し、3年半も首脳会談が行われなかったこともありました。安倍総理大臣は「痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明してきた歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」としていますが、日本大使館前に置かれた少女像はいまだ撤去されず、国内には「あと何回謝れば良いのか」といったいわゆる“謝罪疲れ”が広がっています。韓国の側にも、冒頭にお話しした自衛隊の旗をめぐるゴタゴタや両国の合意で設立された元慰安婦を支援する財団が活動を停止するなど、謝罪を受け入れないかのような姿勢が垣間見えます。20年前に和解したはずの歴史の問題が、いまだに燻り続けているのです。
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【これからの日韓関係】
ここまで、分野ごとに、この20年間の日韓関係と今に至る課題についてみてきました。最後に、これからの日韓関係はどうあるべきなのかについて考えたいと思います。
こちらは20年前のパートナーシップ宣言の一節です。
「両国が過去を直視し相互理解と信頼に基づいた関係を発展させていくことが重要である」このことは20年経った今もまったく変わっていません。
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北朝鮮の核問題は、南北と米朝の急接近で重大な局面を迎えようとしています。キム委員長と会談したトランプ大統領は保護主義的な発言を繰り返し、目覚ましい経済発展を遂げ発言力を増した中国は覇権主義的な傾向を強めています。北朝鮮もアメリカも中国も、日本だけ、韓国だけで対処できる問題ではありません。そしてその対応を誤れば、自国だけではなく東アジア全体の平和と安定が損なわれてしまいます。

「いつまでも謝罪を求める韓国となぜ協力しなければならないのか」「どうして仲良くする必要があるのか」といったご意見もあるかも知れません。しかし国と国との関係は、好き嫌いといった感情に左右されるのではなく、国や国民の将来にとって有益かどうかという戦略的な観点で判断すべきものではないでしょうか。今の東アジアを取り巻く情勢を考えれば、“相互理解に基づいた日韓関係”はこれまで以上に重要になってきていると考えます。

(出石 直 解説委員)

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