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「北海道地震1か月~盛土造成地の地震対策は」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

北海道で震度7を観測した地震からあすで1か月になります。この地震では札幌市の住宅地で液状化による大きな被害が出ました。調査が進むと被害はこれまでにないもので、根本的な要因は大規模な盛土の造成地だった点にあることがわかってきました。見えてきた被害のメカニズムと、思うように進んでいない全国の盛土造成地の地震対策について考えます。

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解説のポイントです。
▼地盤陥没のメカニズム
▼進まない大規模盛土造成地の地震対策
▼地盤災害にどう備えるのか

【住宅地陥没の原因は】
<VTR①>
この地震では札幌市などの5つの地区で液状化による被害が出て、このうち札幌市清田区の住宅地では広さ3ヘクタールにわたって地盤が大きく陥没したり、ゆがんだりして109棟の住宅が被害を受けました。専門家が調査を進めると通常の液状化とは大きく様相が異なり、市街地ではこれまで確認されたことのない被害であることがわかってきました。

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液状化現象は地下水を多く含んだ状態で安定していた地盤が、地震で揺さぶられることで噛み合っていた砂の粒子がバラバラになって流動化します。家は水に浮いたような状態になり、水と砂が噴き出して地盤が沈下、家も沈みこみます。
通常、沈下は最大で50センチ程度。砂が噴き出した跡が残り、建物が地面にめり込むようになるのが特徴です。

<VTR②>
しかし清田区の現場では地面が50センチどころか、2メートル近く陥没していました。近くに砂が噴き出した痕跡はなく、家が地面にめり込む状況も見られませんでした。一方、大きく陥没したところから200メートルほど離れたところで大量の土砂が噴き出して一帯を埋め尽くしていました。
いったい何が起きたのか。地盤工学会の調査団は次のように推測しています。

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一帯は傾斜地になっていて地下に水を多く含む層がありました。地震の揺れで地下で液状化が起こって流動化し、砂と水が地中で低い方に向って流れ出します。そして一番低いところから噴き出し、砂と水がなくなったところで大きな陥没が起きたという見方です。
そして被害の背景にはこの地域の成り立ちがあると考えています。

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この住宅地は40年前に造成されました。被害が起きたのは桃色で示した地域です。

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造成前の航空写真を見ると一帯は谷で小さな川が流れ、農地や原野が広がっていました。そこに盛土をして住宅地にしました。
大きく陥没したところ、危険と判定された住宅も元の谷沿いに集中していました。

こうしたことから専門家は、被害は液状化が関わった盛土造成地に特有の地盤災害という見方を強めています。

【進まぬ大規模盛土造成地の地震対策】
ここから2つめのポイント、大規模盛土造成地の地震対策です。

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盛土造成地は山を崩して、谷は埋めて平らにした造成地の埋めた部分を指します。

こうした造成地は全国いたるところあり、大地震のたびに地すべりや崖崩れ、液状化など地盤災害が繰り返されてきました。
盛土造成地でも工事のときにしっかりと締め固められ、地下水対策がとられたところは安全です。しかし規制が緩かった古い造成地を中心に問題があるところもあり、阪神・淡路大震災や東日本大震災では昭和50年ごろより前に造成された住宅地で多くの被害が出ました。こうしたことから国は平成18年から対策に取り組んできました。

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まず市町村は昔の航空写真や地形図と現状を比較するなどして盛土造成地がどこにあるか調べ、マップをつくり公表します。次にボーリングなど詳しい2次調査を行い、地震で崩れる恐れのある造成地を絞り込みます。危険があるとわかった場合は住民に耐震化工事を行うよう勧告し、行う場合、費用を補助するというものです。

どこまで進んだのでしょうか。1次調査を終えてマップを公表したのは全国1700余りの市町村のうち6割。札幌市もここまで進んでいました。2次調査を終えたところはまだ17市町村。対策工事を終えたところは2市だけという状況です。

対策はなぜ進まないのでしょうか。

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まず盛土の造成地の場合、一見すると平坦かなだらかな傾斜の住宅地が多く自治体も住民も危険性を実感しにくいことがあります。地域のイメージダウンや地価の下落を懸念する声もあります。さらに仮に危険性があるとわかった場合、住民の合意を得て対策を進めるために多くの困難が予想され、消極的な市町村が多いと考えられています。

【地盤災害にどう備えるのか】
では盛土造成地の地震対策をどう進めたらよいのでしょうか。
事業が進んでいる兵庫県西宮市の例で考えます。

<VTR>
西宮市では大地震で地すべりが起こる危険性のあることがわかった大規模盛土造成地1ヶ所で耐震化工事を進め、今月完成します。被害が出る前に危険箇所を見つけて耐震化工事が行われたのは全国で2例目です。

西宮市が積極的に取り組んできたのは23年前の経験があるからです。阪神・淡路大震災で谷を盛土で造成した住宅地で大規模な地すべりが発生し、34人が犠牲になりました。

震災以降、西宮市は盛土造成地の耐震化に力を入れてきましたが、平成18年に国の取組みが始まったのを受けて、あらためて調査をしてマップを公表しました。

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これがそのマップで緑の部分が造成地、100か所が示されています。
そのうえで2次調査で危険であることがわかった1ヶ所について耐震化工事を進めてきたのです。

最大の問題は住民の合意を得ることでした。市が住民との話し合いを始めたのは5年前でした。事業は住民が主体になって行うもので、補助を受けても一世帯あたり十数万円から300万円あまりの自己負担が見込まれました。しかし住民は高齢者が多く負担は困難でした。対策が必要なところに市が管理する道路もあることから「一体的に取り組む」という理由づけで事業費は個人負担分も市が負担しました。

個人の宅地の耐震化に市民の税金を投入することに議論は残ります。命を守るために全国で進めなければならない事業ですが、ここまでしないと実現できないという現状も示していると言えます。

西宮市には多くの市町村から見学者が訪れていますが、西宮市の担当者は「住民に『自分たちの命は自分で守る』という気持ちなってもらえるかがとても重要だ」と助言しています。

一方、私たち個人は地震による地盤災害のリスクにどう向き合えばよいのでしょうか。

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まず自分の住んでいる場所や、購入を検討している宅地がどういうところなのか、知っておくことがとても大切です。盛土造成地のマップのほかに、液状化の危険性を示した地図を公表している市町村も増えています。札幌市も公表していて被害が出た地域はいずれも危険性が高い地域になっていました。これを受けて地中に杭を打つ液状化対策をしていた住宅はほとんど傾かず、被害を小さく抑えることができました。まず地盤を知ったうえで、補強や保険など危険性に応じて対策をとることが求められています。

【まとめ】
札幌市清田区の液状化被害について札幌市は詳しい調査をして12月には復旧の進めかたについて住民に提案したいとしています。私有地である宅地の復旧は所有者が行うものですが、まとまって災害復旧工事をする場合、国が補助をする仕組みがあり、熊本地震でも活用されました。札幌市は住民とていねいに話し合いをして復旧を支援してもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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